全国に波及?認知症神戸モデルの「増税」がおかしなワケ

1人当たり400円+、累計3億円?
  • 認知症対策「神戸モデル」に紐づいた市民税増税のおかしな点
  • 診断助成と事故救済…全国的に注目される「神戸モデル」とは?
  • 今年1月に認知症基本法が施行。全国に波及?「増税」への懸念

筆者は大阪減税会に所属しており、市議会議員を勉強会に招いて地方税の減税を推進するよう活動している。その活動の中で地方独自のおかしな税金が存在することを認識した。

森林環境税が地方独自の増税から始まり、後に全国に広まったことを考えると地方独自の増税を知ることは、今後の増税の広がりに対抗することに寄与すると考え、このレポートを寄稿する。今回は兵庫県神戸市で独自に実施している認知症対策「神戸モデル」に紐づいた市民税増税(以下、神戸モデル増税)についてレポートする。

Green Planet /PhotoAC

神戸モデル増税とは?

神戸モデル増税とは、市民税に1人当たり400円上乗せし、認知症対策である「認知症神戸モデル」政策の財源とするための増税である。つまり、神戸市民は他の自治体より高い市民税を納めていることとなっている。市民税の課税対象者は70万人超いるため、概ね合計3億円の増税となっている。

神戶市ホームページより

認知症神戸モデル政策の年度予算は毎年3億円程度となっており、その政策内容は①診断助成制度、②事故救済制度の2本建てとなっている。ホームページ等から得られる情報をもとに各制度について概要を説明する。

・診断助成制度

65歳以上の市民は無料(税負担)で2段階の認知症診断を受けることが可能となる制度である。

事業費を見ていく。診断にかかった助成金額、受診者数は、1段階目:6620円/人で19,887人が受診、2段階目:7500円/人で3,921人が受診となっており、合計は1.6億円程度である。経費等その他を込みで合計1.7億円程度が事業費としてかかっており、診断助成制度の事業費のほとんどは診断を行なった医療機関に流れている。

神戶市ホームページより(クリックすると拡大します)

事故救済制度

認知症の人は損害賠償責任保険に無料(税負担)で加入することができ、また認知症の方が起こした事故に神戸市民が巻き込まれた場合には見舞金が支払われるという制度である。

事業費を見ていく。令和3年度10月末時点で保険加入者数は6500人で保険料は1950円/人・年であり、保険料合計は1200万円/年であり、この金額が金融機関に流れている。その他コールセンターや保険制度運用の委託(保険会社へ委託)、経費等を込みで8600万円程度が事業費としてかかっている。

※加入している保険は掛け捨て保険のため、保険対象となる事故が少なかったとしても保険料の還付はないとのこと

増税することのおかしさ

筆者はこの政策自体にあまり賛成はしていないが、100歩譲って神戸モデル政策が必要と考えたとしても増税することは明らかにおかしいので、その点を整理する。

まず、神戸モデル増税を実施するにあたって行政改革ではなく増税を行うことの理由として、「行政サービスの経費の多くを社会保障関係が占めており、今後増加し続ける予想されておりこれらの経費削減は困難である」と回答している。

この回答は、なぜか財源の創出を社会保障関連費のみで考えて物件費など他の経費を削減することを考えていないし、社会保障関連費全体予算が3000億円程度あるのに0.1%分の3億円も財源捻出できない点はおかしい。家庭で例えれば、体調を崩して病院に行くのが増えれば娯楽を我慢してお金を作るし、毎年300万円支出していたのを来年は299万7千円に減らすことくらいできるだろう。

さらに神戸市は、行政の無駄を削減した金額を公表しており、令和5年度は12億円の経費削減を行なったと報告している。であればこの12億円を財源にすれば神戸モデル増税は必要なかったのだから、やはり増税することはおかしい。

このような認知症の方向けの損害保険サービスは他の自治体でも行われているが、保険料は加入者が払うなどの形態などさまざまであるようだ。長崎県雲仙市も神戸モデルと同様に保険料を市が負担しているが増税は行なっていない。

※クリックすると拡大します
神戶市ホームページより

神戸モデル増税の全国への波及

あまり知られていないが、2024年1月1日に認知症基本法が施行され都道府県、市町村には認知症施策推進計画を策定する努力義務が課せられた。そしてこの法律ができる以前の2019年5月20日に厚生労働省の大口善徳副大臣(当時、公明党)が神戸モデルの視察を行い、「神戸モデルが全国でも広がる形で進めばいい。(視察を)今後の認知症施策の参考にしたい」と発言しており、他にもネット検索すると神戸モデルを視察する地方議員が確認できる。

つまり国の法律と地方議員ネットワークにより認知症対策である神戸モデルと増税を実施していく自治体が増えていくことが予想される

さらに筆者が危惧しているのは、NPOや社会福祉協議会などの存在である。認知症対策として、認知症カフェや地域の見守りなどを行う団体が存在し、さらに認知症基本法成立により認知症への理解を促進するためとして自治体とNPO、社会福祉協議会などがコラボする機会が今後増えることが予想される。そのようなことに補助金などを支出していくと神戸モデル増税くらいでは予算が足りなくなり、更なる増税が行われるのではないか。

これ以上の国民の負担を増やさないために、神戸モデル増税のような負担増に反対の声を上げる人が増えてくれることを期待する。

【参照】

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※本記事はサブスク購入者様による投稿より、SAKISIRU編集部が採用・編集しました。

 

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