「AV新法」で業界は死活問題。それでもDMMがダンマリな背景

4年前にアダルトは分社化も、亀山氏の存在大きく
  • AV新法が可決・成立で女性保護の反面、業界は死活問題の見方
  • 4年前の分社化までAV業界を代表する存在だったDMMの動きに注目
  • ネット民「新法施行で潰れる」説も。果たして業績を見てみると…。

通常国会が15日終了し、政界は翌週22日からの参院選モードに切り替わった。今国会の後半で、アダルトビデオ(AV)に出演する女性の被害防止が論点として急浮上。会期末に議員立法によるAV出演・被害防止法案、いわゆるAV新法が可決・成立した。

新法では出演女性との契約がこれまでになく厳格化され「死活問題」(業界関係者)との見方も出ているが、ネット上では、4年前に分社化するまでAV業界最大手のプラットフォームを運営していたDMM社(東京・六本木)や、名物オーナー経営者の亀山敬司会長の動向に注目が集まりつつある。

※画像はイメージです(tatchai /iStock)

新法制定でDMMにネット注目

AV業界を巡っては近年、出演を強要されたと訴える女性の問題がクローズアップ。さらに民法改正で4月から成人年齢が18歳に引き下げられたことで、これまでは未成年として出演契約が取り消せた18、19歳の女性が被害に遭うリスクが問題となった。

女性の支援団体や法曹関係者が立法的な対応を訴えたことで後半国会の論点に急浮上。未成年の取り消し権の復活は法的整合性から見送られたが、与野党の議員有志が救済措置を急ぎ、超党派で議員立法の制定に着手。この過程で保護対象が全年齢へと拡充され、約3か月でのスピードで法案成立となった。

新法は、撮影終了から4か月の公表を禁止、契約に問題がない出演作であっても、映像の公開から1年間は無条件で契約解除ができる(法施行直後は経過措置で2年間)など、女性側の保護を目的とした規制を大幅に強めた。

反面、製作側から見ると、業界全体の資金繰りが滞り、出演作が“ドタキャン”されるリスクが強まることから「死活問題」(業界関係者)と捉える向きが出ている。

そうした中、法案審議の最中にネット民の注目を集めたのがDMMだ。2000年代インターネット普及の波に乗り、アダルトコンテンツのDX化にいち早く着手。映像配信プラットフォームを立ち上げて業界随一の存在になった。

しかし今回の法案が問題になった際、同社や亀山会長が意見表明することはなく、ネットでは法案に批判的なユーザーなどから

DMM、ロビイングしてよ~~!

DMMって、AV業界にこれでもかっていうくらい助けられてるわけじゃないですか。それなのにAV新法には沈黙とか、さすがですわ。

などと、アクションを求める声が散見された。

しかし、DMMはSAKISIRUの取材に対し、「現在、FANZA(成人向け事業)については分社化し、株式会社デジタルコマースが運営しているため、弊社からはお答えできません」とにべもない。デジタルコマース社(東京・芝)にも取材を要請中だが、17日未明時点で返答はない。

左のビルがDMM本社が入居する東京・六本木の高層ビル(creampasta /PhotoAC)

新法施行DMMは“潰れるか?

両社が分社化したのはDMMが創業20年の節目を翌年に控えた2018年の3月。すでに「領域問わずなんでもやる」(同社コピー)動きは加速。FXや仮想通貨、太陽光発電、英会話、ベルギーでのプロサッカー経営などと多角化を進めていたが、亀山社長は16年5月、スタートアップのイベントで登壇した際、アダルト以外の収入が上回っていると述べるまでに。分社化発表時にはツイッターで「エロを卒業します」とズバリ公言した。

帝国データバンクによると、分社でAV事業を手がけることになったデジタルコマース社は業績好調。売上高は初年度となる19年2月期が772億、20年は872億に伸ばし、21年はついに1029億円と“エロ単独”で大台を突破。新型コロナの巣ごもり需要をここでも捉えていたことをうかがわせる。

一方、DMMは、分社化前の3年度(2016〜18年2月期)の業績は971億円から1470億円にまで大幅アップ。分社後の19年は995億円と一時的に数字を下げたものの、昨年2月期は1318億円と“エロ卒業”後も成長軌道に再び乗せて見せている。「AV新法設立したらDMM潰れるんだろうか」というネットの憶測をあっさり打ち消す勢いだ。確かに今のDMMにとってはAV新法が他人事になってもおかしくはない。

しかし、分社化したといえど今もなお亀山氏が両社の株を共に唯一保有するオーナー経営者であることに変わりはない。2014年6月、亀山氏が日本経済新聞の取材を初めて受けたと見られた当時の記事では、グループ会社のガバナンス支配構造をグラフで紹介。証券や3Dプリンターなどの主要子会社はもちろん、アダルトDVDの物流や映像制作など“エロ関連”の子会社の大半を亀山氏が100%出資。グループの「絶対君主」である実態が浮き彫りになった。その4年後に分社化されたデジタルコマース社でも亀山氏は唯一の株主になっている。

「異形」イメージ、薄らぐ中で…

亀山氏を頂点とする企業グループとして見ると、アダルトを手がける同社が全体の売上高の4割を超えている状況(21年2月期)であることに変わらない。DMMの現場としてはAV新法に無関係とは言うことが可能でも、業界の危機に際し、頂点に君臨する亀山氏の発言や動向に注目が集まりやすいわけだ。

亀山氏は近年こそ親しみやすいキャラクターの起業家としてビジネスメディアで脚光を浴びているが、10年ほど前まではマスコミの取材に姿を見せることがなく、それでいてDMMの売上高1000億円規模の大企業とあって「異形の企業」と見られがちだった。

しかしマスコミから「積極的に情報を公開する姿勢がなければ、売上高1200億円の大企業にふさわしい社会的な信頼は手に入らないだろう」(日経電子版14年6月27日)との指摘がなされるようになり、この頃から似顔絵だけ露出する形でメディアに積極的に登場。会社のリブランディングに力を入れるようになった。

露天商から身を起こし、一代で大企業を築き上げた亀山氏。百戦錬磨の氏がすでに水面下でロビイングなどの政治的な下交渉で手を打ち始めている可能性は否定できないが、AV業界の行く末に大きな影響を与える新法の成立は、「ロビイング(を)サボったAV業界の自業自得」(元経産省・宇佐美典也氏ツイート)との指摘もくすぶる。果たして“亀っち”やDMMグループはどのような動きを見せるのだろうか。

 

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