ジャニーズ再生、補償会社&事業会社のスキームだけで十分か?私の考える敗戦処理策

連載『日本経済をターンアラウンドする!経済再生の処方箋』#15
  • ジャニーズ事務所の事後対応は、「総括」が苦手な日本の象徴的な問題
  • 企業の再生案件を手掛けてきた筆者が考える、あるべき「敗戦処理」とは?
  • 「沈黙」が指摘されたメディアも第三者検証と補償基金のスキームを

株式会社ターンアラウンド研究所
小寺昇二

ジャニーズ事務所の問題は、芸能界とメディアの問題にとどまらず、日本の変革についての一大事だと考えます。

東京・六本木のジャニーズ事務所(編集部撮影)

総括できない国

日本という国は「総括」ができない国です。福島の原発事故は政府・国会・民間3つの事故調査委員会が報告書を出してはいるものの、国や電力会社が責任を完遂できていない。そもそも太平洋戦争での総括すら自国でできたわけではなく、極東軍事法廷で外国の手で裁かれただけでした。

ジャニーズの問題は、原発事故や戦争ほど大ごとではないにせよ、この国の組織ガバナンスやコンプライアンス、そして事実より忖度を優先するメディアの問題が問われています。再発防止特別チームのショッキングな報告書が出た後も、また形式だけの「禊ぎ」に終わるのではと危惧しています。

確かに社長は交代し、被害者救済委員会を立ち上げ、今後1年間の広告や番組における出演料は全てタレント本人に支払うといった対応を明らかにしました。

しかし、なぜ「1年間だけ」なのか。しかも莫大な収入と言われるファンクラブの売り上げには触れられていません。「ジャニーズ」の名前すら変えようともせず、特別チームが指摘した、前社長が100%の株を持つガバナンス体制も含め、これまでの体制を温存しようという本音が見え隠れします。

同チームに「沈黙」を指摘されたメディアも、いち早く撤退し始めたスポンサー企業よりも動きが遅い。企業の再生案件を手掛けてきた人間としてここで声をあげねばと今回本稿を書いた次第です。

「罪」「責任」「償い」分けて考えよ

まずは今回の問題を考える場合に重要なことは、「罪」または「責任」というものと、「償い」についてはっきりと分けて考えることが重要ではないかと思うのです。

性加害、児童虐待は「一切」許すべきではない、絶対的に悪いことである、と認識することが全てのスタートポイントです。「仕方がない」とか「情状酌量」は、罪・責任を認め、謝罪・対応した後の話になります。最初から落としどころを考えるのは日本人の悪いクセです。

そういう意味では、経済同友会新浪剛史代表幹事(サントリー社長)のように、「体制に改善がみられなければ、所属タレントが出演するテレビ番組のスポンサーを降りることも『オプション(選択肢)としてはあり得る』」(出典:朝日新聞デジタル)という形で、現状についてはダメだしをし、取引停止を突き付けることによって、次の対応を促す必要があるのです。

2点目は、罪・責任については、加害したもの、加害に加担したもの、見て見ぬふりをしたもの、忖度して前社長に楯突いた人を干したもの全部に罪・責任がある…まずはこれを社会として共通認識にする必要があります。

3点目は償いについてです。そもそも罪・責任について、第三者によって、きっちりと判断すること、それが重要であり、次いで罪・責任のあるものが謝罪することが最初、そして補償(金銭、名誉他の定性的なもの両方)を考えることです。

ジャニーズ事務所所有の東京・麻布十番のスタジオ。新曲の発売ごとに広告掲示される(2018年撮影)

私の考える敗戦処理スキーム

4点目の金銭的な補償については、通常の破綻会社・不祥事会社の場合に適用される、「バッドカンパニー」(補償などの敗戦処理を粛々とフェアにやっていく会社)と「グッドカンパニー」(事業活動をこれまで通りに推進して利益を挙げていく会社)の2つに分けることが考えられます。

事業を継続して行っていく「グッドカンパニー」である新会社には「ジャニーズ」の名前を使うことは許されません。事務所の資本、本社等の資産の大半は「バッドカンパニー」に残し、被害者への賠償を手厚く行うことが考えられます。

そして、ここがポイントなのですが、バッドカンパニーの資本については「一生をかけて償う」という前社長から第三者的な株主に「贈与」し、グッドカンパニー創設の資本はバッドカンパニーが出資することによってグッドカンパニーの利益をバッドカンパニーに配当として還元、賠償の原資に充てるのです。配当だけでなく、営業権についてグッドカンパニーはバッドカンパニーにロイヤリティを払い続けることによって賠償の増額も期待できます。

こうすることによって現在活躍中のタレントがグッドカンパニーで従来通り活躍でき、企業スポンサーが降りる必要もなくなります。ただし、グッドカンパニーに移籍できるタレントや社員は、加害に加担しなかったもの(第三者が判定)だけになります。経営についても現経営陣とは全く違うクリーンな体制が必要です。

スキーム図については東洋経済オンライン(2009年7月28日)にある水俣病でのチッソ社のケースが参考になるでしょう。このあたりは金融/法律の専門家がたくさんいますので、そちらに委ねたいと思います。

出典:東洋経済オンライン

ただ、今回の事件はメディアという公共的な媒体が大きく関わり、国民に愛されてきたタレントも関与した話ですので、「グッドカンパニー」「バッドカンパニー」といった通常のスキーム以上の形が取れないかと思ってしまいます。

例えばバッドカンパニーについて「J社補償基金」という名称および実体として、これまで長い間加害について放置・黙認してきたメディアの謝罪の証しとして基金に資金を拠出するようなスキームが望ましいのではないでしょうか。

メディア側も検証・謝罪を

最後に5点目。メディアも口だけの反省は意味がありません。第三者を入れて、忖度の歴史を詳らかにし、謝罪し、再発防止の委員会等を作るのが良いように思います。

委員会は少年虐待、忖度に今回は絞るべきでしょうが、性暴力、反社などを含めた恒久的なものの設立も必要でしょう。そこまでやらないと、放送法で免許停止にしてもおかしくないレベルだったのではないでしょうか。

80年代から90年代にかけてイギリスの企業において頻発した不祥事の原因及び再発防止のためにイギリス社会が設置した委員会の報告書が、「キャドバリー報告」であり、これが「ガバナンス」の起源であり、現在の企業社会のフレームワークの基礎となっています。

そうした「自浄作用」を働かせるために日本のメディアはこの際、謝罪及び今後の再発防止の第三者委員会を立ち上げるべきでしょう。放送法の監督官庁である総務省が設置しても良いかと思います。

きちんと対応しないメディアは今後SDGs、ESG、コンプライアンスについて報道する資格にあると思えません。「人的資本経営」が叫ばれる中、日本のターンアラウンドができるかどうかの試金石であるのではないでしょうか。

続編はこちら

【おしらせ】

10月16日、日本経営協会主催のイベント「人的資本経営セミナー」に私、小寺も登壇予定。投資家目線での人的資本経営について語ります。是非ご参加ください。

 
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