ロシアの日本人63人“出禁リスト”、笑えるところと笑えないところ

ロシア側の「世論戦」手の内がわかる?
SAKISIRU編集長
  • ロシアが岸田首相ら63人の日本人の入国禁止を発表。顔ぶれが話題に
  • 安倍元首相は選外、今井絵理子参院議員がリスト入り。その理由を検証
  • メディアは朝日、毎日が入らず。産経、読売など出禁の各社間にもレベル差?
リストから外れた安倍氏と出禁になった今井氏(画像は2016年参院選、写真:アフロ)

ロシア政府は4日、岸田首相や林外相ら日本人63人を入国禁止にしたと発表した。この日のネット上は公開されたリストの“人選”を巡って、さまざまな意見が噴出、特にその1人が、90年代の芸能界で一世を風靡したSPEEDの元メンバーで、現参院議員の今井絵理子氏だったことが“ネタ扱い”されて妙な盛り上がりを見せていた。

今井絵理子氏は“形式犯”?

確かに一報を聞いた時、今井氏の扱いは直ちには判然とせず、私自身もつい失笑してしまった。実際、メディアやネットで伝わってくる今井氏の発信の中で、ロシアに特に強硬だった印象がなく、奇異にしか思えなかったが、どうやら参院で所属している沖縄・北方特別委の理事として一括りにされたようだ。

自民党が今井氏を同理事に入れたのは、今夏の参院選比例区での再選に向けて沖縄県民に対するアピール材料にしたい思惑もあったからとみてよい。その意味では、何となくロシア側が肩書や役職から形式的にリストに入れたことで、ある種の“巻き添え”を食った感もある。

また、今井氏と同じく63人の中で、沖縄関係者である西銘恒三郎国場幸之助の両衆院議員についても前者は沖縄・北方担当相、後者は衆院沖縄・北方特別委の理事だった。両者とも対ロシア強硬論者ではない。こちらも、北方というよりは沖縄県民対策としての政権与党の人事だったであろうから、やはりロシア的には「形式犯」なのではないか。

しかし、沖縄の自民関係者、保守界隈は、地元ゆかりの政治家が、むしろロシアの出禁リスト第1陣に入ったことで「誉れ」として、参院選や知事選に向けてアピール材料の補強になりそうな気もする。

いずれにせよ、ロシア側が沖縄関係者を形式的にリストアップしている疑いが強いあたりは、“どんぶり勘定”的で、ちょっと笑ってしまっても仕方がないかもしれない。

森ゆうこ氏には「裏切られた」?

他方、そうした形式の枠にはないのに、リストに入った国会議員は明らかに、ここまでの対ロシアでの言動が考慮されたのかもしれない。その中で筆者が刮目したのは、立民の森ゆうこ参院議員だった。政治的には左派だから、ネットの右派からはロシアと“仲間扱い”されがちだが、ウクライナ戦争以後、「先進主要国は、一致団結してロシアに対して徹底した経済制裁を行わなければなりません。苦しくても日本は政治的な決断が必要です」(3月7日ツイッター)など、野党側のロシア強硬論を主導する言動をしている。

森氏の地元選挙区、新潟には、ロシア連邦総領事館があるように伝統的に結びつきがある。2010年12月のツイートでは、新潟について「現在ロシア、中国、韓国の総領事館があるのは、北東アジアの玄関として期待されているからでは。人的交流もつ積み重ねてきている」と触れており、有事でなければ友好関係を重視していた。それだけにロシア側としては「裏切られた」感があるのだろう。

東京・麻布台のロシア大使館(編集部撮影)

今回のリストアップは、当然のことながら大使館に勤務しているとされるFSBなど情報機関からの出向者も含めて候補者を挙げた上で本国が最終決定したとみていいだろう。当然、ロシアの外交政策での利益を最大化、日本国内の世論戦を有利に進めるために誰を入れるかを眼目にしている。裏を返せば、日本側からすれば、ある意味、先方の手の内や「対日観」、どこまで正確に日本国内の事情を把握しているかの指標にはなる。

その意味で政治家では鈴木宗男参院議員と安倍晋三元首相が入らなかったのは妥当だったかもしれない。ロシアとしては特使としての来訪など、まだ「利用価値」があると踏んでいるのだろう。

メディア出禁の「レベル差」

メディア関係者では、産経、読売、日経の経営者ら、週刊文春選択の編集長が出禁となったが、保守論壇誌のHanadaなどが入らなかったのは「意外」と受け止めている人もいるようだ。ただ、Hanadaについては先月発売号で、ガルージン駐日大使と櫻井よし子氏が収録時に4時間にも渡って激論した様子を特集で掲載。これは確かに迫力満点で読み応えがあり、一読をお勧めするが、ロシアからすれば「言い分」を書いてくれたという意味があるのだろう。

老獪な花田編集長が取り込まれることは決してあるまいが、ロシア側が今後も、自分たちに最も強硬なはずの日本の保守論壇に対し、反論の糸口を今後も探ってくる可能性はある。個人的には読者層からして、あまり「広報効果」はないと思うのだが(苦笑)ロシア側の判断は興味深い。

それにしても朝日新聞と毎日新聞が入らなかったことをどう見れば良いのか。朝日でロシア特派員も経験した駒木明義論説委員はツイッターで「リストに入っていない」と悔しそうに一言だけツイートしていたが、

これはHanadaとは違い、朝日に対しては日本国内の世論が強硬に傾いた時に「歯止め」となることを期待しての露骨な「秋波」だろう。朝日や毎日の上層部は、読者からもそう見られつつあるという自覚を持たないとならなそうだ。

他方、出禁になったうち産経は、論説関係者もリストに入れているが、読売は経営者レベル、日経は経営者と編集局長にとどめており、記者はリストに入れていないことも注目したい。

読売の場合は主筆でもある渡邉恒雄氏が論調を決めているとの見方もあろうが、ロシア駐日大使館が過去にツイッターで産経への非難をしてきたことを考えると、それだけ敵性メディアとしてやや別格扱いなのだろう。産経は誇っていい。

【おしらせ】AbemaTVのAbemaPrimeに今夜(5日夜)ひさびさに出演する予定です。政治報道のあり方について討議します。

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