都議補選の懺悔録:読み誤った歴史的低投票率、それでも衆院選へ確かに言えること
解散への影響は?維新、小池氏どうする?- 都議補選が開票。歴史的な低投票率を読み誤った筆者の懺悔録
- 鍵を握ると見られた公明は動かず。自民、維新の得票をどう読むか
- 首相の解散戦略にどう影響?小池氏の神通力に限界論もあるが…
衆院の解散総選挙の試金石として注目を集めていた東京・大田区の都議補選(欠員2、6月4日投開票)は4日、投開票が行われ、立民、共産などが支援する無所属の元職、森愛氏と自民元職の鈴木章浩氏が競り勝ち、維新の新人、細田純代氏、都民ファの新人、奥本有里氏(国民推薦)らは届かなかった。
選挙中盤から自民は「勝ち」手応え
ただ、投票率が25.33%と、2年前の本選を20ポイント近く下回る歴史的な低さとなり、固い組織票を擁する森氏、鈴木氏が相対的に有利になっただけとも言える。
トップ当選が森氏というのも、直前の区長選で次点に入るなど個人的な知名度に加え、自民、維新、都民ファの「保守3分裂選挙」という構図にあって、糾合した左派勢力が相対的に浮上した。
何よりもこの選挙は、自民との亀裂により公明支持層の動向も注目されたが、低投票率に伴い出足が鈍ったこともあって、衆院選の「前哨戦」としての意義は薄らいでしまった感が強い。
いずれにせよ筆者個人も取材や想定が甘く、ここまで書いてきた展望とはかなり違う結果となり、恥じ入るばかりだ。読者には深くお詫びしたい。今回は珍しく情勢調査が入手できず、“あんちょこ”なしでテストを受けていたような気分でもあったが、それでも過去のデータからなんとか見通せると思ったのも甘かった。
他区から応援に入った自民都議の1人は4日深夜、筆者の取材に「選挙中盤までの期日前投票がかつてないほどの低調だと聞き、それまで組織票を必死で掘り起こしていたから勝てると思い始めた」と振り返る。今回の補選は、そもそもの盛り上がりを欠いた区内の「空気」を筆者自身がしっかりと感じ取れていなかった。
公明動かず、自民・維新の地力勝負
一方で、補選が始まった当初、筆者は各陣営の「党勢ウォッチ」にとどまらず、勝ち方、負け方を見てみるべきと指摘した。この点は低投票率にあっても見えてくることがある。
「自公亀裂」が表面化して最初の選挙。選挙中には本サイトをはじめ、複数のメディアが公明による自民への報復で、都民ファ候補など非自民候補への投票が行われるとの観測が強まった。しかし蓋を開けてみれば区内で4万票以上はあると見られていた支持層が動いた形跡が目立って感じられず、「寝ててくれた」(維新幹部)格好だ。
自民都連内では、前回衆院選まで大田区の一部を選挙区にしていた石原宏高氏(衆院東京3区支部長、比例復活)が公明との協力関係解消に異論を唱えていたが、大田区の過半の選挙区で勝ち続けている平将明氏(衆院東京4区)は、今回の補選で地元組織が「自力」で勝ち残る“好対照”な形となった。前出の自民都議は「今回は候補の鈴木氏自身が過去のこと(セクハラやじ騒動)もあって危機感が強く、応援に入った区外の都議も組織団体周りに力を入れ、団体の付き合い先までアプローチするなどローラー作戦を徹底した」と明かす。公明票なしで勝てたことに一定の手応えを得たようだ。
一方、維新は今回、次期衆院選での野党第1党へ気勢を揚げていたが、次点に終わった。組織がないだけに関係者も「投票率が25%では風が起こしようがない」とお手上げの様子。同日の本拠地・大阪、堺市長選は「ゼロ当」の圧勝劇だっただけに、首都圏での政治活動には、党員獲得や町会・自治会など自民地盤の切り崩しに課題があることを浮き彫りにした。
ただ維新は、4月の区議選では上位3人を含む過去最多の4人が当選。今回の補選も自民がドブ板主体で4万票をかき集めたのに対し、基盤が弱い中で3万票を獲得した。音喜多政調会長はブログで「低投票率の中でまったくの新人が維新単独・短期間でここまで迫れたことにはある種の手応えも感じています」と前を向いた。一方、自民都連関係者は「投票に積極的に行く人だけの選挙でも、維新が3万票を集めたことは留意しなければならない」と警戒を緩めない。
首相の解散戦略は?小池氏の神通力に限界
補選の結果が、岸田首相の解散判断にどう影響を与えるか。会期末までに解散を断行すれば、維新が近畿圏以外で体勢の整っていない状況で、なおかつ投票率があまり上がらなければ、少なくとも自民は公明との関係がぎくしゃくしていても「負けない」選挙は可能になることが今回の補選は示唆している。逆に秋以降に解散を持ち越すと、少子化対策、防衛費倍増の財源問題(すなわち増税&社会保険料値上げ)がクローズアップされ「負け幅」を増やすことになる。
他方、都民ファは小池知事が直接出馬を指名した候補者で、2度も現地入りしながら最下位に終わったことの政治的な意味は後々尾を引きそうだ。来年の都知事選は敵なしであっても、都民ファとしては党勢の衰運が鮮明になった形だ。前出の自民都議は「小池知事の神通力に限界も見えた」とほくそ笑む。
首都圏での勢力拡大を期する維新にとっても、小池氏と都民ファは支持層が被り、補選のように票が分散するから気になる存在だ。都民ファは衆院選での国政進出を模索しているが、維新幹部は「小池氏には衆院選はおとなしくしてもらいたい」と本音を漏らす。
ただ維新と都民ファの補選の票を単純計算で足すとトップに“浮上”する。政界には一部で、維新と小池氏の合体による保守野党再編を模索する動きがあり、週刊誌がアドバルーン的な役割を果たしているが、補選の結果の限りでは、いまの時点で合流交渉をすると、維新側が交渉力を得ることになる。こうなると小池氏は乗ってこなさそうだが、来月には71歳。“天下取り”へ最後の勝負をかける機会は多くない。自身の知事退任後、都民ファもジリ貧なのは明らかで何もしないようには見えないが…。
週が明けて国会は本格的に終盤戦に入る。衆院選に向けて果たして新たな動きはあるだろうか。
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