池下議員はダメだけど、毎日新聞は政界の超ヤバい人手不足も指摘すべきだ
社会部記者が言わない本当の危機- 維新・池下氏の事務所が無届で公設秘書兼職の問題が騒ぎに
- スクープした毎日新聞が書かない本当の政治的な危機とは?
- 世襲議員の事務所すら採用難。あるデータが示唆する深刻な実態…
日本維新の会の池下卓衆院議員(大阪10区)が、自身の公設秘書に地元市議2人を兼職させていたことが問題になっている。毎日新聞の大阪社会部が18日にスクープして表面化し、20日未明までに続報を数本出して畳み掛けている。
国会議員の公設秘書の兼職は原則として禁止されているが、議員が許可すれば認められる例外規定がある。しかし池下氏の事務所は規定を満たすのに必要だった衆院議長への届け出をしていなかった。
維新はすでに藤田幹事長が池下氏を厳重注意したが、事は、届け出をしていたらよかったのかとは言いがたい。兼職に「抜け道」があると批判する当の毎日新聞に加え、“身内”からも批判は出ている。維新の大阪府市改革を顧問として支えた上山信一氏はヤフーニュースのコメントで「企業の顧問や役員の兼務は許されて良いがこれは地方自治と国政の対等な関係という原則、維新の党としての存立基盤にも関わる大問題」と厳しく論じた。
毎日新聞が書かない2つの視点
一方、政治的な事件は報道機関にリークで「政敵を追い落とす」などの思惑もありがちだ。「書かれていない」ことにも注目しながら冷静に考えていかねばなるまい。毎日新聞は筆者旧知の社会部ベテランT記者が取材指揮を取り、情報公開請求も行い、見事な調査報道をしているが、2つ書いていないことに違和感がある。
1つ目は秘書給与絡みの事件が、大阪10区を舞台にして起きたという「皮肉」だ。毎日新聞の記事には兼職が原則禁止の規定は、2004年の国会議員秘書給与法改正で設けられたと書いているが、その背景とある議員の名前はなぜか触れていない。
筆者が代わりに補足すると、改正のきっかけの一つは、その2年前、秘書給与を巡る詐欺事件であり、同事件で有罪判決を受けたのが当時、大阪10区選出だった社民党(当時)の辻元清美氏なのだ。
辻元氏はその後政界に復帰したが、21年衆院選で池下氏に敗れ、翌年参院選に鞍替えして今に至る。今回の問題発覚の経緯にまさか絡んでいるわけではあるまいが、毎日がこの歴史的皮肉に触れていないのは不思議だ。
そして2つ目はなぜこのような問題が起きたのかの「分析」不足だ。むしろここにこそ問題の核心があり、毎日新聞電子版の購読者でもある筆者は他党も含めて政界がいま直面している深刻な構造問題があることに触れないことが大いに不満だ。
池下氏は今回自身のブログで詳細に釈明をしている。問題発覚の経緯は毎日新聞からの指摘だったとし、「兼職届けを提出する役割を担っていた秘書本人からは、自身の事務的なのミスであることに深く反省する旨の報告を受けました」(原文ママ)と経緯について説明。その上で、「指摘がなければ未提出の事実に気付くのが難しい制度」「このような過失が再び生じないよう、十分な注意を払う覚悟を持っております」などと述べた。
3代世襲でも人材採用難
このブログで注目したいのは次のくだりだ。池下氏は
地元事務所を取り仕切る公設秘書や、東京の議員会館を担当する政策秘書が、思うように決まらない中、どんどんと届出や申請書が相次いで寄せられ、非常に厳しい状況に直面しました
希望する人材が見つかれば交代をするようにしていましたが、数ヶ月間は採用面接を複数回したにもかかわらず適切な方が見つかりませんでした
などと釈明している(太字は筆者)。つまり専任の秘書を採用する意欲はあったものの、採用要件である「事務所の立ち上げに必要なスキルと知識を持つ人物」(ブログ)を相応に満たす人材が見つからなかったわけだ。
もちろん、池下氏サイドに“不審点”がないわけではない。毎日の続報によると、兼職が判明した秘書の1人が、市議を辞めた後になってSNSに自身の所属先を明らかにし、兼職していた期間は「国会議員要覧」や「国会便覧」の該当する公設第1、第2の秘書欄が空欄のままで回答にしていたという。手続きに関する知識が乏しいことが真実であったとしても、池下氏は祖父の代から市議の世襲であり、市議と公設秘書の兼職が異例なことで後ろ暗い気持ちを抱えていた疑いは捨てきれない。
しかし、それであったとしても3代の世襲で政治的人脈や支援者などの地縁が蓄積されているはずの池下氏ですら、秘書を見つけることが難しくなっているというのは実に深刻だ。だからと言って擁護する理由にはならないが、池下氏をスケープゴートにするだけでは「人材難」「採用難」という限りにおいては他党の政治家、候補予定者も直面している構造的な問題を見て見ぬふりをすることになるのではないか。
議員も“人手不足倒産”危機
議員秘書の人材市場を展望するデータは存在しないが、ヒントはある。国家資格である国会議員政策担当秘書の資格試験の過去10年の受験者数を見ると、2013年は387人(最終合格19人)だったのが、22年は207人(同18人)と過去10年で半減しているのだ(参照:参院サイト)。
これは官民問わず深刻な人手不足が影響した可能性が高い。300人前後だった受験者数が突然200人台を割り込むところまで、減り始めたのは2018年度。同時期の民間の採用トレンドを占う上で「人手不足」倒産が話題になったのもまさに18年、19年(参照:東京商工リサーチ)。政策担当秘書資格の受験者数と「人手不足」倒産数のトレンドを筆者作成の図で重ね合わせると、総合は反比例、つまり民間で人手不足が鮮明になり、議員秘書資格の受験者数が減っている。高齢化と人口減少の波は民間はもちろん政治の世界も当然飲み込もうとしている。
筆者が、秘書の人手不足にピンときたのはかつて政治家の広報コンサルをして事務所の内情などインサイダー経験が少しあったおかげだ。政界の人材不足というと政治家人材に目が行きがちだが、支える秘書や選挙スタッフもまた恒常的に人材不足なのだ。
実は現在も筆者は「選挙事務所を回せる人材が欲しい」「陳情対応、選挙準備、幅広くこなせる秘書を探しているから誰かご存知か」などと新人候補予定者、現職議員、旧知の秘書などから相談を受けることもたまにあるのだ。永田町の外側にいる筆者にSOSのサインが出るくらいだから、近年は深刻に感じていた矢先だった。
秘書は秘書でも、上場企業の役員秘書とは実態はかなり違う。細かい担当割を無視して言えば、陳情対応や支援者開拓などは営業的な要素が強く、収支報告といった経理・事務周りのスキルまで総合力の高さが何気に問われる。政治家との関係は「親子」にもなぞらえた昔ほどではないにせよ、雇用関係というより、義理人情や愛憎もあったりする濃い主従関係の色を残す事務所もある。土日も関係なく、待遇も恵まれてると言えず、永田町では1年で2ケタの秘書が辞める「ブラック事務所」の噂も絶えない。
未開拓の秘書人材市場
一方で秘書人材の供給源は旧態としていながら曲がり角に来ている。どの党でも地方議員や落選者、あるいは伝統的に自民は業界団体、民主には労組といった支持基盤が挙げられる。共産は職員や党員、公明は創価学会の関係者など“身内”もいて困らなかった。このほか政治に縁がなかったのに、選挙を手伝ったことがきっかけで秘書になる“セレンディピティ”パターンも昔からある。
これに対し、苦労するのは組織的基盤の乏しい維新やれいわ等の新興政党だ。池下氏は世襲だが、まさにこのパターンだ。ボランティア人材からの昇格といった“セレンディピティ”パターンに依拠せざるを得ない事務所・陣営も多い。最近は党を問わず、転職サイトで公募するケースもあるが、民間の有名企業と人材が「回転ドア」で頻繁に往来すると言えるほどの人材流動化もない。
だから人材の質も当たり外れが大きく、危機対応も含めて非常に優秀な秘書もいれば、PCスキルが低すぎて党所属の若い地方議員を永田町に呼び出し、パワポ作成を頼むトンデモもいる(実話)。政治家人材の底上げも重要だが、本人を支える周囲の人材の質も上げていかないと、政治は良くならないと痛感している。共産、公明(学会)も組織の高齢化で人材難に陥るリスクは否定できまい。
だから、筆者は不振の弊社メディア事業は程々に、政治家を支える側の人材市場を流動化し、政治の質を上げるため前例のないビジネスを考えたこともあったのだが、投資家の見通しがなく断念してしまった。ただ、今回の池下氏の問題の報道を聞いて、いよいよ政界の人材不足も底が抜けようとしているのではないかと危惧している。当然行き着く先は政治の劣化だ。
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本記事は予告なしにサブスクに収容することがあります。当面はこのまま掲載します。
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