コロナ政局の内幕 #2 想像力の欠如が「失敗の再現」を招く

繰り返さないための教訓とは?
2021年06月17日 06:00
ライター・編集者
  • 乾氏へのインタビュー連載2回目は、日本で繰り返される有事対応の失敗について
  • 憲法に緊急事態条項がなく、時限立法で私権制限する問題。野党も想像力が欠如
  • 国のあり方を考え直さず失敗を再現。国民も「自分の身を自分で守る」意識が不足

昨年5月に『官邸コロナ敗戦』(ビジネス社)を出版し、緊急事態宣言に追い込まれた日本政府の内幕を描いた産経新聞論説委員長の乾正人氏への連続インタビュー。コロナで改めて表面化した、この国の緊急事態への脆弱性について指摘します。

2020年春の緊急事態宣言下、営業休止に追い込まれた飲食店(Fiers/iStock)

「非常時」を想定せず 日本の憲法

――緊急事態に関しては、世論のねじれも気になります。前回のお話にもあったように、この期に及んで厚労省が機能しないのは、「非常時」に切り替える法体系が未熟だからという指摘があります。

 ワクチンの「打ち手」である医師を集められないのが典型でしたよね。日当の額を上げたら「それならやります」という話になった。非常時に何をやっているのかと。政治の判断で早急に医療体制を動員することもできない。

――また、「ロックダウンに相当するくらい、強制的に人々の行動を抑制すべきだ」という声もありますが、そういう人に限って憲法の緊急事態条項の追加には反対していますね。

乾正人(いぬい・まさと)産経新聞論説委員長。政治記者歴30年。 竹下登首相最後の日の番記者を皮切りに宇野、海部両首相の首相番記者を経て自民党渡辺派を担当。その後、首相官邸や自民党や社会党など政党を主に担当。 平成30年から現職。率直ながらユーモアのある語り口にファン多し。著書に『令和をダメにする18人の亡国政治家』(ビジネス社)など。

 まったくおかしな話です。国家の根本である憲法に緊急事態条項がないことによって、厚生労働省はいまも平時ベースの運用しかできていない。法的根拠のないことを役人はできませんから、いくら厚労省に人材がいない、やる気がないと悪口を言っても、法律がないのだからやれなくて当然です。

「憲法に書かずとも、自粛に応じない人や店は運用で厳しく罰すればいい」という人もいますが、そんなことはできない。誰がどう考えても、私権の制限は憲法違反ですから。憲法に建付けができていないのに、時限立法で私権制限を加えよというのは、全く倒錯した話です。

「政権を獲ったら」という想像力が欠如

――立憲民主党の枝野幸男代表は2021年の憲法記念日に「政府がここまで無策、不十分、的外れな対策しかできなかったのは、政府の権限が限定されているからでも、緊急事態条項が憲法に明記されていないからでもありません」と述べていますが、自分たちが政権を獲った時に、危機が起きたらどうやって私権の制限をするつもりなのでしょうか。

 それが分からないのは、一言で言えば「バカだから」ということになってしまうのですが、身もふたもないのでもう少し適切な表現でいえば、「想像力が欠如している」からでしょう。それは立憲民主党の前身である民主党が政権を獲る前も同じで、「俺たちならうまくやれる」と思っていたことがことごとくうまくいかず、混乱を招くことになりました。「政権を獲ったらどういう法律に基づき、何をどこまでできるのか」を考える想像力がないからです。

――枝野さんは特に東日本大震災時の官房長官でしたから、そうした憲法や法律の不備が見えたはずだと思うのですが。

 見えたはずなんですが、そんなことはすべて忘れてしまっているんでしょう。民主党政権時の失敗も、一応反省しているふりはしているけれど、実際には何の反省もない。だからそういう無責任なことを言ってはばからない。東日本大震災の時にも、緊急事態条項が必要だという話を識者はしていたはずですが、10年経っても何の進展もない。「10年経って、結局これかよ」と愕然とします。

根本から考え直さねば同じ過ち

――このままでは何か別の危機が来るたびに、「非常時に対応できる法体系、行政構造になっていない」とぼやく羽目になりそうです。

 そういう情けない国になってしまった。個人情報一つとってもそうですよ。個人情報を国家がコントロールすることは、中国やロシアのような国だけはなく、民主主義の各国も、ソフトな形ながら当然、やっています。だからすぐに給付金を配ることができ、ワクチンも打てる。しかし日本は国家が情報を持っていないから、ワクチンを打つにも自治体がそれぞれでシステムを作ることになった。

これは政府だけの責任ではなく、国民意識の問題でもあります。「国に情報を一元的に握られるのは怖い」と言うけれど、一方ではAmazonやFacebook、LINEなんかに個人情報のすべてを預けてしまっているじゃないですか。

昨年9月、デジタル改革関連法案準備室発足時(官邸サイト)

――いつどこに行ったか、どんなワードで検索したか、という日々の行動や内心の履歴までGoogleに抑えられています。

 その実態を知らなすぎる。LINEなんて国内の8000万人が登録していて、抜かれた情報は韓国のサーバーに送られ、中国に筒抜けになっていた。

――情報管理の不備が報じられても、ユーザー数は全く減っていないとか。

 ということは、情報を把握されてもいいと思っているわけでしょう。アプリを使えるという利便性と引き換えに、情報をタダで差し出している。それなら、情報保護の建付けの下に、国が個人情報を把握することを許してもよさそうなものですがね。ようやくデジタル庁ができて、「2000個問題」と言われる、2000に上る自治体の障壁を解除して、ネットワーク化しようという話になってきましたが。

――最初の設計が大事で、既存のシステムの上に乗っけようとすると失敗しそうな気がします。

 それはすべてのことに言えて、やはり国の在り方について根底から考え直さなければどうしようもないところまで来ている。

全てを一気に変える救世主はいない

――『官邸コロナ敗戦』では、失敗を繰り返さないための教訓のひとつとして「自分の身は自分で守ろう」とお書きになっていました。安全保障はアメリカ任せ、感染症対策もお上任せ、の意識を変えるべきだ、と。

 なぜ、「自分の身を自分で守る」意識に乏しいのか。根本的には、やはり戦争に負けたことをいまだに引きずっているとしか言いようがありません。憲法問題がその象徴だけれど、大多数の国民がそれで良しとして来たから、今回はそのツケが回ってきただけのこと。

――70年以上もたって、まだ負の遺産に振り回されている。

 根本が間違っているがために起きることなのだから、そこを直さない限り、間違いが繰り返されることになる。原点に返るべきだ、戦後のスタートに立ち返って、憲法を見直そう、と我々は常に言い続けているけれど、常に少数派です(笑)。でもそこに立ち返るしかない。スーパーマンが現れて、すぐに何でも解決してくれるわけではありませんから。

平成の最初の頃には、細川政権が救世主かもと期待する声があった。民主党政権にも、みんな期待した。しかし結果はどうでしたか。安倍政権はコロナ対応はともかく、それ以外の部分ではうまくいきましたが、根本を直さないと、結局は危機が来るたびに同じことの繰り返しになります。(#3に続く)

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