広島の町長選で現職落選、岸田首相「お膝元」論調はミスリード?
自民関係者が報道に呆れるワケ5日投開票の広島県海田町長選で、3選を目指した自民推薦の現職が新人に敗れたことが全国的に注目を集めている。
人口3万の町の選挙結果が異例とも言える脚光を浴びたのは、産経新聞が選挙結果の「予定稿」を、投票締切前の夕方にフライング配信した影響もあったが、やはり、同日に発表された世論調査で支持率が過去最低を更新した岸田首相の「お膝元」で起きた“番狂わせ”だったためだ。

確かに“お膝元”だが…
ちなみに産経のフライング予定稿は、共同通信が速報用に作成していたものだったようだが、その中身は「岸田首相のお膝元で自民推薦の現職敗れる」だった。海田町は岸田首相の広島1区に含まれており、メディア側としては、支持率低迷にあえぐ首相の足元で異変が起きたと強調したかったわけだ。
そして選挙結果も実際に予定稿どおりとなった。岸田首相嫌いの人たちを中心に町長選の結果を伝えた速報ニュースはSNSで案の定バズっていたが、自民広島県連の関係者は筆者の取材に「岸田総理の不人気の話と海田町の政治事情は全く関係ない」とメディアの報道ぶりに呆れている。

なお、この関係者は自民の人物とはいえ必ずしも岸田首相に心服しているわけではない。むしろ「岸田総理は外相、政調会長と(政権与党の)要職を歴任して地元を長く空けていた時期もあり、広島の地方政治の実情を津々浦々まで把握しているとはいえない」と地元の不満を代弁する。
たとえば、岸田氏が県連会長だった20年秋、大型買収事件で自民を離党した河井克行氏(公選法違反でその後有罪)の広島3区を、公明の斉藤鉄夫氏(現国交相)に“割譲”した経緯などは典型的な失敗例に挙げる。
報道に違和感を覚えるワケ
つまり、岸田首相を“アクロバティック擁護”する動機がないだけに、「お膝元」報道に違和感を述べるのは、一定の信頼性がある。特に次のような明確なファクトもある。
「総理が当選した前回の衆院選時点の広島1区は広島市の中区、東区、南区だった。海田町が1区に入ったのは、10増10減に伴う選挙区再編による次の衆院選からだ」(前出関係者)。

旧選挙区で言うと、海田町を含む安芸郡4町は旧広島4区のエリアだった。同区は前回衆院選で、自民の新谷正義氏が4選を決めているが、選挙区再編で広島県内の小選挙区は7から6に減少。このあおりを受け、新谷氏は次の選挙は比例中国ブロックに回ることが決まっている。
さて報道に話を戻すと、選挙区変更の経緯には触れている。中国新聞は「同町は次の衆院選から、小選挙区の定数『10増10減』による区割り変更で岸田文雄首相の地元選挙区(広島1区)となる」と説明しているが、その直後、「首相の『お膝元』で自民党が推薦した現職が落選した」と続ける。
確かに事実関係はその通りだが、記事の「看板」である見出しも「岸田首相『お膝元』」を使っており、どうしてもワーディングとして使いたかったように感じてしまうのは筆者だけだろうか。
長年の町内対立、3度の問責決議
もちろん、選挙区に編入されたばかりとはいえ、岸田首相は自民の広島1区支部長であるわけだから、お膝元論の根拠にはなる。地元を空け続けている首相に代わって事務所の秘書が政情を把握し、自民が推薦する現職の再選に向けてベストを尽くしても果たせなかったという「筋論」はあろう。
しかし前出の関係者は「海田町内の政治的対立は長年続いてきたものだ」と指摘する。

この関係者の話や、中国新聞などの過去記事、町の資料によると、ざっくりした経緯は次のようなことだ。直接的ないざこざとしては90年代後半に浮上した町役場庁舎の移転計画だ。移転の理由は庁舎の老朽化、JR駅周辺の再開発対象エリアに入ったことだった。
問題は移転の計画先で4つの候補が上がったが、当時の町長(山岡寬次氏)と議会側で推す案が対立。やがて2015年の町長選で大きな争点となり、議会側を代表して町議を辞めて出馬したのが、今回の現職町長(西田祐三氏)。山岡氏を破って町内にあった県庁舎跡地への移転を決めた。
ところが今度は、西田氏が議会側から「町政運営に問題がある」と突き上げる食らう立場に。「建設予定地の旧県海田庁舎の敷地から環境基準を超えるヒ素が検出され、売り主である県との用地取得契約の進め方に問題があった」(中国新聞より)などの問題を指摘され、20年3月、21年2月、23年9月と3度も問責決議案を可決される異常事態となっていた。
広島でよくある「保守分裂」
西田氏の町政運営に本当に問題があったのか、ここでは評価しない。というのも、政界関係者によると、西田町長と反町長派の議員たちの対立の背景には、元町長(山岡氏)の影響が残っていたことなど根深い勢力争いがあったようで、現地への取材もできていない中で迂闊な評価を避けたいからだ。
ただ、今回の町長選に際しては、当初、反町長派のベテラン議員が出馬を検討していたが、結局、外部の若手人材として元広島市職員の竹野内啓佑氏に白羽が立った経緯があるらしい。いずれにしても「広島では昔からよくある保守分裂みたいな構図」(前出の自民関係者)だったようだ。
敗れた西田氏は確かに自民推薦だったが、おそらく竹野内新町長が安定的に町政運営をすれば、次の選挙では自ずと与党推薦を得るのではないか。少なくとも立民や維新など野党系単独の候補にはならないだろう。
筆者自身は迷走し続ける岸田首相の路線は全く支持していないが、「岸田おろし」を吹かせたいばかりに、ローカルの特殊すぎる選挙結果をもって、政権危機という「全国区」の話題に化けさせる“お膝元”論に安易に結びつける論調には注意したいと思う。
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