創刊SP対談 松田公太さん #1 外食危機、今思う政治のウラ舞台

家賃支援、安倍前首相が仕掛けたサプライズ
2021年05月01日 06:01

SAKISIRU創刊スペシャル第3弾のゲストは、松田公太さん(エッグスンシングスジャパン代表取締役、元参議院議員)です。コロナ禍で外食産業がかつてない危機に陥った昨年は、議員時代の人脈も生かしながら、国による飲食業界への支援策実現に奔走しました。しかし、自民党総裁選を控えた政権与党の権力ゲームに翻弄される形に。5年ぶりに垣間見た永田町のウラで何が起きていたのか。今だからこそ語る「内幕」とは?

コロナ苦境のリアルを語る

【新田】早いもので松田さんが政界を離れて5年が経ちました。外食産業が危機に直面した昨年は本当に大変でしたね。

ただ、政治家時代の人脈もフルに生かされて、中堅ベンチャーの外食経営者と各政党代表者との討論会を実行されたり、仲間の経営者と、テナント家賃の支払いを猶予するための法案を提言されたりと奮闘されていましたが、久々の永田町はどう見えましたか?

松田公太(まつだこうた)エッグスンシングスジャパン代表取締役、元参議院議員 1968年生まれ。筑波大学卒業後、銀行員を経て1997年、タリーズコーヒー1号店を銀座にオープン。翌年タリーズコーヒージャパンを設立し、2001年に株式上場。300店舗を超えるチェーン店に育て上げた。同社社長を退任後、ハワイで人気のパンケーキ店「エッグスンシングス」の日本進出を手がけ、パンケーキブームの火付け役に。2010〜16年、参議院議員。現在はエッグスンシングスジャパンの経営に復帰。し、コロナ時代の外食経営のモデル構築に奔走している。

【松田】いまは総理が菅さんに変わって、政策的に改善してきた部分もあると感じますが、外食産業の危機が起きた時は、まだ安倍さんが総理でした。意図していたよりもマスコミに取り上げられましたが、私は表に出るよりも水面下で交渉する方を重視していました。与野党を問わず国会議員や官邸を含む政府関係者と連絡を取り合い、様々な提言をしていました。

当時、雇用調整助成金や持続化給付金は比較的早く支給されることになりましたが、私も含めて多くの経営者が苦慮したのが家賃の支払いでした。

あるビルでは緊急事態宣言中に建物ごと閉鎖に。うちの店舗も休業せざるを得ず、入館できないのでテイクアウト営業もできず、1円も稼げない状況なのに家賃は満額で数百万円発生しました。10%程度の減額をお願いしてもダメだったんです。

【新田】それは理不尽ですね…。

【松田】まずはテイクアウトなど、自力で工夫する。それでも無理だったら次はオーナーさんに家賃猶予などの協力をお願いする。それも無理だったら政策金融公庫などに緊急融資をしてもらう…。まさに菅総理がその後、総理になられる時に発信した「自助」「共助」「公助」が必要だと思って提言していたのです。

当事者を救わない政治の悲劇

【松田】アメリカはPPP(給与保護プログラム)がありますけど、人件費・家賃・社会保険料などの固定費が含まれているんです。それで誰も解雇しなければ、その融資の返済が免除になるすごいシステム。米国で飲食業をしている私の友人はみんな驚嘆していました。すぐお金が出てくるし「簡単な申請で2000万円振り込まれていた」と。もちろん自国の人間じゃなくても支援してくれるんです。

【新田】それはすごい!当時はトランプ政権下でしたが、スピード感といい、大統領がビジネスマンだったから経営者の現場感覚をとらえていると思えます。

【松田】日本では家賃を払えないという事業者が多かったのでどうにかしたかった。世論が動くと政府も対応せざるを得なくなると思いましたので、政府に水面下で働きかけるだけではなく、SNSやTV出演を通じて世間にそれを発信しました。

ところが、こちらの発信に野党が目を付けたんですね。私はそれで「あ、まずかったかな」と思ったんです。

【新田】といいますと?

【松田】野党が一緒になって、しかも普段は同調しない維新と共産党も含めて(笑)、家賃支援の法案を共同提出されたのです。野党に先に法案を提出されてしまうと与党はその案に賛成しなくなってしまう。本来はその考え方はおかしいのですが、私それを永田町で何度も見てきただけにやり方を間違えてしまったかなと思ったんです。

【新田】でも、それってただの政治的メンツというか、ポジション争いの話ですよね。結局、政治家のポジション争いのせいで国民は救われないという。日本のこの党派性が強すぎる病理はなんとかならないものですかね。

小池都知事もまさにそうですが、昨年見えてきたのは政局の主導権を握りたいがために、本当にもっとも合理的な政策をしているのか怪しくなる。肝心の当事者が救われない悲劇が続いていますよね。いや、悲劇どころか実害ですよ。

岸田氏の失地挽回に使われた?

林芳正、岸田文雄、安倍晋三20200331
昨年3月、安倍首相(当時)に給付金の申し入れをする岸田氏(官邸HP)

【松田】当時は、安倍総理が、自宅待機を呼びかけた星野源さんの動画を使ったことで大炎上するなど、政権が苦境に陥っていました。安倍さんの治世は安定していましたから、いわば初めての大パニック。動画といい、アベノマスクといい、官邸はかなり機能不全に陥っていたように感じました。

安倍政権の先行きを世の中が怪しく思い始めた中で、所得制限つきで1世帯当たり30万円給付の話が出ましたよね。当初は20万円の予定だったところを岸田(文雄)さんが安倍さんと会談して30万に引き上げたというストーリーになっています。これは安倍さんが岸田さんに良い“パス”を投げたのでしょう。

実際、記者たちも「次の総理は岸田さんだ」となりましたが、好ましく思わない人たちが「所得制限なしで1人当たり10万円」と言い出して閣議決定をひっくり返す前代未聞の事態となり、岸田さんが面目を失いました。

岸田さんはそれを挽回すべく家賃支援に取り組むことになり、月50万円の給付で話をまとめようとしていました。私たちは「それは公平ではない」と待ったをかけました。

【新田】どこがアンフェアだったのか説明いただけますか。

昨年4月の緊急事態宣言で一時休業する飲食店(Fiers/iStock)

【松田】何店舗も経営している場合は、1社に一律50万円では焼け石に水です。結果的に小規模事業者だけしか救われません。しかし、野党が先に家賃支援の法案を出したことで、自民党はそれに乗るわけにもいかず、岸田さんが「50万円案」をとりまとめた結果になりました。

私は発表の前日まで、それでは中堅以上の企業の苦しさは変わらない。是非、政府系金融機関から劣後ローン・資本制の長期ローンを出してほしいと交渉を続けました。

すると、安倍総理が会見で「100万円支給」と突然発表した。またサプライズです。。但し、それでも1社あたり上限は6か月で600万円の家賃支援。ちなみに弊社では何千万円もの家賃を毎月支払っています。しかし、中には月10万円しか家賃を払っていないところもある。そういう事業者は満額出してもらって助かることになりました。

本来は雇用を守る・経済を守る等のミッションがあって政策を打ち出すべきですが、そこがないから理にかなうものが出てこない。中堅・大企業でも個人事業主でもコロナでの大変さは同じ。むしろ大企業の方が圧倒的に雇用している従業員数が多いので資金繰りが厳しい。

結局、政策を作るにあたっては政治家の覇権争いの構造が見えてしまうわけです。「誰が次の総理になるか」「誰の利権を守ればいいか」とかそういう話ばかり。

コロナ支援政策の舞台裏に迫る新田編集長(撮影:武藤裕也)

【新田】そうですよね。小規模店舗は給付金だけもらってお店は休んじゃったほうが良い場合もありますもんね。本来は報道機関が問題を指摘しなきゃいけないんですよ。去年は報道がコロナウイルスの危機を過剰に煽って、飲食店を過剰に叩いてしまった。

もちろん問題意識のある記者やディレクターの方もいましたけど、多くは政治の迷走ぶりをあげつらうばかりで、困っている人たちの問題解決の道を探ろうとしなかった。そういう点で私は報道が“死んだ”と思ったんです。

【松田】すべてが密接につながっています。メディア、政治、あとは国民それぞれがレベルアップしていかないと。教育制度が普及して識字率99%の日本であればもっとレベルの高い政策的な話が出来るはずなのですが。

ところが「政治について教えてはだめだ」、「政治の話をしちゃだめだ」という風潮がずっと続いてしまっているので、子供たちが政治に関心を持たなくなる。メディアもそういう国民を相手に、わかりやすい報道に徹してしまう。

【新田】話題がメディアに及んだので、ここで松田さんにお聞きしたいことがあります。

#2に続く

 

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