岸田政権の“ジャニーズ問題”:加熱式たばこで防衛増税してJTはロシア事業継続の利益相反

保守系メディアも口つぐむワケ
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役
  • 自民裏金問題の裏で「スルー」される岸田政権の“利益相反”
  • 加熱式たばこ増税容認のたばこ族議員も放置するJTのロシア問題
  • 世間の関心も低調、ジャニーズ問題にも通底する構造とは?

自民党の政治資金パーティーを巡る裏金問題は13日、松野官房長官、西村経済産業相ら安倍派出身の4閣僚の交代劇に発展した。臨時国会がこの日終わり、2023年の政治はスキャンダルの嵐の中で年の瀬を迎えてしまうという嘆かわしい話だが、こういう時に限って国益上の重要論点がスルーされ、利権を守りたい人たちがニンマリするから要注意だ。

PhotoAC

その典型例が税制だ。自民の税制調査会が、防衛増税の2025年見送りを決めたことは減税派にとり一見すると「大勝利」だが、政権与党は「布石」はちゃっかり打ってくる。多数のメディアで報道されているように、自民税調は加熱式たばこの増税方針を決め、今週の与党税制改正大綱に盛り込むことになった。現在たばこ1本当たりの課税額は、加熱式が252.67円だが、これを紙巻たばこ(葉たばこ)の304.88円に揃えることになる。

たばこを吸わない人にとっても加熱式たばこ増税を認めることは巡り巡って不利益があることは、先日、SAKISIRUで渡瀬裕哉氏が述べた通りだ。加熱式も健康被害リスクはあるが、各種の調査データから紙巻より被害低減が期待されており、このまま増税して紙巻と税額を揃えた場合、健康被害を減らそうとする技術革新の足を引っ張る可能性がある。長い目で見れば、国民の医療費負担の問題につながり、何よりも他の税目を含めた増税に道を残す「アリの一穴」になりかねない。

そして、たばこ増税をめぐる問題に関連して、もう一つ、岸田政権がサボりがちな「構造改革」という観点からも重要な問題を指摘しておきたい。

加熱式の増税には自民党内でも「一部」が反対したことが報じられたが、ではその反対の「多数派」は加熱式の増税を容認している。それが誰かと言えば、自民党内の200人を超える議員が加盟している「たばこ議員連盟」(会長:山口俊一衆院議員)だ。

自民の裏金問題の影で…

彼らは日本たばこ産業(JT)や葉たばこ農家などの産業保護に動く「族議員」だ。同議連を巡ってはこれまでにも受動喫煙防止の取り組みに後ろ向きだったことで知られる。一応、たばこ消費に影響する増税の動き自体には「総論」としては反対だ。

しかし「各論」、つまり葉たばこか加熱式のどちらを先に増税するかという問題になると、議連は“旧勢力”である葉たばこの保護を優先する。

kawa*******mu /PhotoAC

霞が関や業界関係者によると、10月下旬、同議連が行なった総会の決議では、たばこ増税を避けられないのであれば紙巻に「先んじて」加熱式たばこの税制改正(つまり増税)を実施する、というスタンスをとったようだ。加熱式たばこ増税の実施について「可能な限り先送りする」という努力姿勢はポーズとして取ったとも聞くが、「増税を行う場合は、小幅かつ段階的な実施」と容認してしまっている。「徹頭徹尾、すべてのたばこ増税に反対する」と言わないあたりがガチンコでない証左だ。

ちなみに、この決議の話はGoogleニュースを検索する限りはどこも報道されていない。もしかしたら、議連関係者の誰かがSNSやブログで報告がてら決議の原文をアップしているかもしれないが、すぐには見つけられなかった。そして族議員がそうして“暗躍”する中で見え隠れしているのが、たばこ業界を巡る利権の構造問題だ。

質問する松沢氏(松沢氏のブログより)

自民の裏金問題の影にすっかり隠れてしまっているが、この臨時国会で日本たばこ産業(JT)のあり方をめぐって2度も国会質問がなされた。いずれも維新の松沢成文参院議員だ。松沢氏は神奈川県知事時代に全国初の受動喫煙防止条例を制定するなど政界きっての“アンチスモーカー”で知られる。

松沢氏は11月9日と12月7日の参院外交防衛委で提起したのが、JTの子会社、JTインターナショナル(JTI)がウクライナ戦争後も継続しているロシアでの事業のことだ。今年8月、ウクライナ政府がJTを、ロシアを支える「戦争支援者」と名指しして一部で話題になった。

松沢氏はこうした動きを踏まえ、「トヨタなりユニクロなり、みんな日本の企業は撤退している」と指摘。その上で、JT株の約37%を保有する政府(名義は財務相)に対し「JTも日本の国益、外交上の方針に沿って撤退を考える、撤退をするというのは当たり前の話じゃないか」と迫った。

これに対し、財務省は、赤澤副大臣が「株主の立場としては、株主総会において、国際的な活動を行う企業として、ロシア、ウクライナの状況及び両国をめぐる国際社会の動向などを注視し、適時適切に対応されることを強く期待している旨発言しているところ」と現状を説明するのがやっとだった。

ロシアはJTの「虎の子」

当事者のJT側はロシア事業についてどんな見解なのか。10月末に発表した第3四半期の決算短信で、「ロシア市場におけるたばこ事業の運営のあり方について、当社グループ経営からの分離を含めた選択肢の検討を継続している」と述べており、今回改めて取材をすると「検討中」(広報部)とのスタンスだった。

もちろん、実際に事業分離となると悩ましいのも事実だ。日本国内で喫煙者が減少する一方、1985年の民営化以来、事業の多角化や海外展開を推し進め、2兆円規模の売上収益を維持してきた。近年の円安による為替効果で収益は上がっている一方で、ロシアでは1999年に進出し、今ではロシア国内トップのシェア(37%)を誇るまでになった。調整後営業利益の約22%(22年12月期)を占め、ロシアの「JT の納税額がロシアの国家歳入の1%強」(たばこ業界関係者)とされる。

JT本社が入居する神谷町トラストタワー(PhotoAC)

JT側の心象を察すると「長年育ててきた虎の子」とも言えるロシア市場だけに、おいそれとは手放せないのが本音だろう。とはいえ、岸田政権は、首相自らウクライナに決死の渡航をしてゼレンスキー大統領と会談し、広島サミットに大統領を招待するなど「ウクライナ寄り」の外交姿勢を大きくアピールしてきた。ロシアによる実力行使での国境線変更を容認すれば、中国の台湾侵攻につながりかねないからだ。

そもそもたばこ増税の目的は増額する防衛費の財源確保だ。防衛増強の背景の一つにロシアの脅威があるのだから、このままJTのロシア事業の問題を放置すれば「利益相反」になりかねず、本来なら国は大株主として何らかの対応を迫られるはずだ。

メディアにも「特別な存在」のJT

ところが意外にもこの問題は世間の関心を集めているとは言い難い。その要因の一つとして伺えるのが、大手メディアも及び腰だからだ。ロシアのウクライナ侵攻を特に厳しく論じてきたはずの保守系メディアも例外ではない。

あるメディアの幹部は「JTは“特別な存在”だ」と声をひそめる。要は広告主としての影響力だ。東洋経済の宣伝広告費ランキングでは、JTは300社中の31番目となる272億円、上位にグルーピングされている。特にテレビ以上に経営が厳しい紙媒体にとっては「インパクトが小さくない」(前出幹部)。JTのロシア問題はそれなりに報道はされているが、まとまったキャンペーンで問題提起するメディアはダイヤモンドなど一部にとどまる。

今なお国が多数の株を有する巨大企業の利益に関わる問題で、自民の族議員が改革に消極的な姿勢を示し、メディアも利害関係を有しているから国民に判断材料を十分提供できず、世論形成がなされない。自民党政権のスキャンダルにばかり注目が集まる裏で、ジャニーズ事務所創業者によるタレントへの性加害が長年放置されてきたことを彷彿させるような、日本社会の構造問題がここにも横たわる。

 
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

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