菅総理が自民党総裁を続投するべき5つの理由

貫くべき「選挙による国民の選択」という原則
2021年08月10日 06:00
国際政治アナリスト、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員
  • 渡瀬裕哉氏が菅首相が「自民党総裁」を続投すべきと思う5つの理由
  • 党内の政局上の都合で外交・安保の顔を変える問題点などを列挙
  • 「首相交代は『選挙による国民の選択』であるべき」という原則

東京オリンピック閉会を迎えて、日本の次なるイベントは秋に控えた自民党総裁選挙と衆議院議員総選挙となっている。既に国会議員事務所などは総選挙に向けて浮足立っており、自民党総裁を変えようとする動きも一部にあるようだ。

しかし、筆者は菅義偉自由民主党総裁をここで変えるべきではないものと考える。その理由を5つほど述べたいと思う。

五輪期間中、金メダルを獲得した柔道の髙藤直寿選手に祝意を伝える菅首相(官邸サイト)

① 日本の外交・安全保障上の「顔」の継続性

菅総裁は昨年の総理就任後に意欲的な外交日程をこなしてきている。日米首脳会談、G7、G20で日本の新しい顔として各国首脳との関係を構築しており、とりわけバイデン米国大統領との関係は極めて良好だと言えるだろう。G7においては米国とともに欧州諸国に台湾海峡問題を言及させるなど、本来は彼らが避けたい内容をコミットさせることに成功した。

日本にとって最も重要なパートナーは米国であることは言うまでもない。バイデン大統領は副大統領時代に日本の首相が総選挙を行うこともなく突然辞任する姿を何度も目撃している。(上院議員時代も含めれば尚更だ。)したがって、総選挙を経ることなく日本の「顔」が代わることは米側に「また始まったのか」という印象を与えて、米国の日本に対する不信感を思い起こさせることになるだろう。これは米中関係が激化する中で「日本は信頼に足るパートナーではない」と思われる潜在的なリスクとなる。

首相の任期途中に党内の政局上の都合で「日本の顔」を代えるという、ガラパゴス化した風習を一掃し、コロナ危機であるからこそ対外的に政治的安定性を見せるべきだ。

②「昨年の自民党総裁選挙結果」に起因する政党の責任

自民党は昨年夏の安倍政権退陣後に「総裁選挙」を行って菅義偉総裁を選出している。それは総裁を選ぶと同時に日本の首相を選ぶものであった。当たり前であるが、首相当人が大きな病気やケガをして任務継続が不可能にならない限り、総選挙までその任期を全うするべきだ。

派閥が雪崩を打つ形となり、また党内の圧倒的支持を得た以上、自民党は自分達の選択に対して責任を持つべきだ。菅総裁を支持した議員は今回の総裁選挙で他候補者を選ぶなら、前回の自分の判断は何だったのかを説明して投票権を放棄するべきだ。たった1年で総理総裁を選ぶための見識が変わる程度なのだから仕方あるまい。

また、仮に菅総裁以外の候補者が立つにしても、それは派閥の領袖であるべきだ。自派閥から派閥の領袖ではない候補者を立てて「政局次第で首相が簡単に代わる」状態が安易に変わる環境を作るべきではない。政局ではなく日本政治の安定性を維持するべきだ。

③ ワクチン供給などの交渉を円滑に進める必要性

直近では新型コロナウイルスの感染者は増加している。そもそもウイルスの変異は前提であり、人為的にどうしようもない事象について議論しても仕方ない。それは諸外国でも同じことだろう。問題は人為的に対応できるワクチン、治療薬、病床の確保などの問題である。

実際、ワクチン普及に伴って感染者増加して死者の増加は抑制されている。ワクチン確保のスピードなどには課題はあるものの、コロナ対策として方向性は間違っていない証拠だ。そして、菅総理自身がファイザーCEOなどに直接対面交渉に及んでいる状態で総理が代わることがあれば、日本に対するワクチン供給は一層遅れることになるだろう。(突然トップが代われば業務は滞る、それは当たり前のことだ。)

国民は緊急事態宣言などが解除されて通常の暮らしに復帰することを望んでいる。そのため、速やかに政府がワクチン普及、治療薬完備、病床確保のための規制改革を断行することが必要だ。

抗原定量検査を視察する菅首相(6/28 羽田空港:官邸サイト)

④ 大手メディアのキャンペーンによる倒閣を防ぐこと

菅総理は大手メディアにとっては天敵とも言うべき存在だ。それは記者会見で素っ気ない対応をするなどの些末な話ではなく、菅総理は大手メディアの利権そのものを崩壊させる可能性があるからだ。

菅総理は官房長官時代から現在まで一貫して「電波オークション」に前向きな姿勢を示しており、記者会見や国会答弁で同様の趣旨を繰り返し述べている。既得権に胡坐をかく既存メディアにとっては菅総理の継続はコロナ以上に死活的な問題である。

したがって、大手メディアは是が非でも「自分達に逆らった首相は任期途中で首を飛ばすこと」が見せしめとして必要となっている。大手メディアの影響力は確実に下がってきているが、今一度彼らのキャンペーンで首相の首が飛ぶことがあれば今後10年は電波オークションに言及する首相は現れないだろう。直近の些末な出来事を大々的にネガティブキャンペーンする背景を意識することが必要だ。

⑤ 首相交代は「選挙による国民の選択」であるべきだ

上記の①~④の全てに通じる話であるが、日本国民は「国政選挙」による国民の審判以外で、首相が代わることを原則として容認すべきではない。

国民は国政選挙を通じて議員を選出し、日本のトップを選ぶ権利を事実上有している。特に衆議院議員選挙は、国民に「この人が首相に相応しいか」を問う選挙と言っても過言ではない。したがって、国政選挙以外のプロセスで現職の総理が変更になることは、政治不信を助長するため好ましいこととは言えないだろう。

昨年の自民党総裁選挙の結果として示された、急病に倒れた首相の後任として政権の取りまとめ役として官房長官を選ぶという判断は妥当なものだった。本来であれば昨年の首相交代直後に総選挙を実施することが望ましかったが、今となっては総裁選と総選挙までの期間はほぼ無い状態となっている。

したがって、現政権に対する国民の信託を総選挙で問う環境は十分に整っており、事実上選挙対策として自民党総裁選挙によって現職の総理総裁を今更代える選択はナンセンスだ。

以上、5つの理由によって菅総裁が自民党総裁として続投することが望ましいものと判断する。党内政局で軽々しく総理総裁を変更する日本の政治の因習を見直し、自民党は党内ガバナンスが機能する近代政党としての矜持を示すべきだろう。

 

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