新電力「エルピオでんき」サービス停止、SNSに溢れる戸惑いの声

電力小売自由化、専門家は10年近く前から懸念的中
ライター/SAKISIRU編集部
  • 電力小売りサービス「エルピオでんき」がサービス停止で波紋
  • ユーザーからは戸惑いの声続出。ここ最近、新電力の事業停止が相次ぐ
  • 背景に「市場連動型」による価格高騰、電力自由化の問題点が噴出
エルピオ社のキャラクター。事業停止後、公式サイトは繋がらず…

電力小売事業や都市ガスの供給事業を手掛けるエルピオ(千葉県市川市、牛尾健社長)は25日、電力小売りサービス「エルピオでんき」のサービスを停止すると発表した。

サービス停止の理由を同社は、慢性的な天然ガス不足の影響による輸入価格の上昇に加えて、ロシアのウクライナへの軍事侵攻を受けて、「欧州情勢と原油先物価格等が落ち着く見通しがつかないこと」と説明している。

エルピオと取引関係にある、エネルギーデータ事業を手掛けるエネチェンジ(東京都千代田区、城口洋平CEO)によると、エルピオでんきのサービス停止により、電力会社との契約変更が必要な契約世帯は14万件に上るという。現在、エルピオでんきと契約を結んでいる人は、4月30日までに契約変更を行わないと電気が止まることになる。

ユーザーからは戸惑いの声

このニュースが伝えられると、ツイッターでは、エルピオでんきのユーザーからの戸惑いの声が上がった。

5月まで利用継続で26000円キャッシュバック貰えるはずだったのに

エルピオでんきからの連絡よりエネチェンジからの連絡の方が早いってどうなん

エルピオ電気から先程メールがきて、4月末で止まるから、別の電力会社探してねとのこと。。。

お客様番号がわからんからエルピオでんきから乗り換えられん。

先月か先々月にエルピオでんきに乗り換えたのに……

新電力が相次いで撤退

エルピオでんきだけではなく、このところ、事業停止や新規契約を停止している電力会社は少なくない。

太陽光発電ビジネスを展開するウエストホールディングスは今月25日に電力小売り事業からの撤退を発表した。その3日前には、新電力事業者のホープエナジーが破産申し立て。岐阜県美濃市に拠点を置く「みの市民エネルギー」も2月28日、電力小売り事業からの撤退を発表している。

楽天エネルギーの「楽天でんき」、京葉ガスが提供する「京葉ガスのでんき」、リサイクル事業やエネルギー事業を手掛けるサニックスの「サニックスでんき」といったサービスは新規申し込み受付を当面の間、停止している。

なぜ、一斉にこのようなことが起きるのか。その理由は新電力各社が採用している料金プランにある。

sommeil /PhotoAC

専門家が指摘する新電力のリスク

新電力の多くが、「総括原価方式」ではなく「市場連動型」と呼ばれるプランを採用しているが、このことのリスクを指摘してきた専門家は少なくない。「市場連動型」は、日本卸電力取引所(JEPX)の価格と連動して電気料金の単価が決まり、卸売価格が値上がりすれば電力料金も値上がりする。

JEPXの卸売価格は昨年と比べると、2~5倍の価格を付ける日も珍しくない。新電力の売りである、低価格での電力供給が難しくなったことを理由に、電力小売り事業から撤退したり、新規申し込みを停止したりといった会社が続出しているのだ。

エネルギー事業コンサルティングなどを手掛けるAnPrenergyの村谷敬代表は、昨年1月に日経ビジネスに寄稿した記事の中で、「市場連動型」のリスクを次のように指摘していた。

市場連動プランを紹介する新電力の多くは、「市場価格が上昇すると割高な電気料金になる可能性がある」という表記にとどまり、むしろ価格が安くなるようなメッセージを伝えている。(中略)また、市場連動プランを採用する新電力は、JEPXの情報を需要家に提供しているが、元より馴染みの薄いJEPXの情報の読み方のチュートリアルや、将来の市場価格の動向を需要家に示すケースは極めて少ない。つまり「市場連動」というが需要家のほとんどは、JEPXという市場を正しく理解しないままに契約を交わしていることがあるのだ。

Torjrtrx /iStock

電力自由化に「反対せざるを得ない」

そもそも、新電力事業者が乱立した背景には、2016年4月の「電力自由化」がある。法改正により、東京電力などの電力事業者に独占されてきた家庭向け電力小売が全面自由化された。これを受けて、さまざまな業種の企業が電力小売り事業に参入した。

電力自由化にあたって、経済産業相資源エネルギー庁は「ライフスタイルや価値観に合わせ、電気の売り手やサービスを自由に選べるようになった」と強調していた。しかし、その一方で、当初からさまざまな懸念が専門家から示されてきたことも事実だ。

エネルギー分野が専門の政策アナリストの石川和男氏は、電力自由化の3年前の2013年にニュースサイト「WEDGE Infinity」に寄稿した論文の中で、電力自由化に「反対せざるをえない」としたうえで、次のように指摘していた。

これからの日本は少子高齢化で高度経済成長は見込めない。税と社会保障の一体改革が進められているが、消費税は10%というレベル以上に上げる必要も出てこよう。その他の生活コストはできるだけ下げていかなければ持続できない。電力コストはその一番手である。新規参入が見込めないなら、自由化するのではなく、むしろ引き続き小口電気料金を規制し、総括原価方式を継続するほうが電気料金を抑制できると考えるべきである。

石川氏の指摘通り、新電力の電気料金は高騰した。ツイッターでは、新電力と契約しているユーザーの多くが、電気料金の高騰をつぶやいていた。

それにしても今回、解せないのが冒頭のエルピオの対応だ。世界情勢の急激な悪化により、事業継続が難しくなりやむなく撤退。そこまでは理解できる。しかし、同社が契約変更をユーザーに任せている点は理解しがたい。しかも、ユーザーのツイートによると、連絡はメールのみだという。メールを見落として、期日までに契約変更をできずに電気が止まってしまった場合、その全責任はユーザーにあるのだろうか。

事業継続ができない以上、東京電力管内の家庭には東京電力への契約変更を、東北電力管内の家庭には東北電力への契約変更を、それくらいは同社が主導して行うべきではないだろうか。

 

関連記事

編集部おすすめ

ランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

人気コメント記事ランキング

  • 週間
  • 月間

過去の記事