これこそ参院選の争点に!日本人が死活問題なのに知らなすぎる、海外での「知財」攻防戦
ワクチン特許巡り、WTOで掘られた「アリの一穴」- 日本では話題になってないWTO閣僚会議「知的財産権保護」の重要性
- 新型コロナワクチンや治療法の特許を巡って掘られた「アリの一穴」とは?
- 知的財産権保護は死活問題。政党や候補者の向き合い方を参院選で問うべき
参院選が22日公示されたが、日本では相変わらず知的財産権に関しては大きな争点にはなりそうにない。日本の知的財産権収入はコロナ禍で海外自動車子会社からのライセンスフィーが減少して大きく落ち込んだものの、今後日本の食い扶持を中長期的に確保していくためには極めて重要なものだ。
日本人が知らないWTO重要案件
米国がIPEFなどの国際交渉の場で必ず触れる項目は「知的財産権保護」である。米国はグローバル市場を相手にする国家であり、他国に対する当然の要求を行っている。日本でも外交安全保障問題のテーマとして「知的財産権保護」がたまに取り上げられることがあるが、独立したテーマとしてクローズアップされることはほとんどない。そのため、TPPや改正種苗法が議論されたときも悪質なデマが氾濫し、日本の知的財産権を守るための枠組み作りが難航する状況が続いてきた。
実際、日本の知的財産権の国際収支は海外に置かれた自動車会社子会社からのライセンスフィーの割合が多く、選挙戦に大きな影響を与える程の裾野が広い話とは成り得ていないため、日本の政府や政治家の感度が鈍くても不思議ではない。しかし、今後、日本企業が研究開発投資を継続し、グローバルな競争で生き抜くためには、知的財産権保護及び海外での知財取り扱い強化という課題は避けては通れない道だ。
参議院議員選挙直前の6月12日~17日に第12回WTO閣僚会議がスイス・ジュネーブで開催された。実に4年半ぶりの会合であり、日本でも関係省庁の副大臣が出席していた。実はこの閣僚級会合で今後国際社会における知的財産権の取り扱いに関する分水嶺となりかねない重要な案件が協議されていたことはほとんど知られていない。
ワクチン特許免除という「アリの一穴」
その案件とは新型コロナウイルスのワクチンや治療法等に関する特許免除を求める提案であった。同協議はインドと南アフリカが提起したものであり、米国や欧州との間で激しい交渉が1年半以上も行われてきた。
来月7月6~7日にWTO知的所有権の貿易関連の側面に関する(TRIPS)協定理事会が予定されていることから、その前段階のタイミングにあたる6月の閣僚級会合で関係国がこの案件に関して政治的妥協を図ったのだ。
結果としては、EUが事実上主導した妥協案と見られる内容に、他の関係国が乗っかることで一応の帰結が見られたが、筆者が先日SAKISIRUでも書いたように、その内容には大きな問題がある。
なぜなら、今後5年間は例外的に適格国が新型コロナワクチンの輸出に強制実施権を利用できる手続きが認められるという内容が含まれたことにより、事実上特許権の放棄に向けた「アリの一穴」が作られることになったからだ。
途上国やその支援活動に関わられている方々にとって、筆者の主張は「何を言っているのだ。そんなものでは不十分、完全な特許放棄が必要だった」と思う人もいるだろう。途上国でワクチンや治療薬を特許免除して製造して何が悪い、人命がかかっているのだ、という主張も一理ある。
しかし、筆者は国際的な貿易協議機関が特許権という近代的な財産権放棄に繋がる道を開いたことは暴挙だと考えている。
日本の投資対価が「無」に…
中長期的な視点に立てば、新たな未知の感染症が発生した際に、その都度特許を放棄させられるなら製薬会社は誰もワクチンや治療薬を作ろうとすることはないだろう。研究開発投資が伴うイノベーションに対する権利を保護することは、社会的問題を解決する人間の創意工夫の努力への対価を保証することとほぼ同義だ。
そして、一度このような強制的な特許放棄の事例ができてしまえば、SDGsの概念が適用される様々な分野における知的財産権は、地球全体の喫緊の課題を解決するために守られなくて良いということになりかねない。今のポリコレ環境が強まる国際政治においては十分にあり得る話だ。
冒頭に触れた通り、日本の知的財産権によるライセンスフィー獲得の取り組みは、自動車以外のものに関してはいまだ発展途上にあると言えるが、それでも我々日本のような先進国が国際社会に貢献できるような製品・サービスを開発していく際に知的財産権保護は重要である。それなくしては我が国の企業や科学者による投資に対する対価がいつでも無に帰すことになってしまうだろう。
筆者は各政党の政治家に国際的な知的財産権保護の問題を街頭演説で叫んでくれとは言わない。しかし、メディア各社には、各種討論会などで、知的財産権保護に対する各党の態度、特にWTOの閣僚級協議で行われた知的財産権に関する妥協案に対する賛否を問うことはしっかりと行ってほしいと思う。同質問に対する候補者の賛否を通じて、有権者はその政党や政治家が日本の将来の屋台骨となる枠組みを支える意識があるか否かを知ることができるだろう。
■
(関連記事)バイデン大統領は知的財産権を守れるのか…WTOで暗躍する中国の影
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