都議選で怪現象:日本一金持ちの港区で、共産候補が当選圏浮上か(追記あり)

蘇る24年前の政局と恐慌
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役
  • 都議選で共産党躍進の予測。お金持ちの港区でもまさかの当選圏か
  • 情勢調査で好調で他陣営に衝撃。立民と「分裂選挙」になったのも奏功
  • 港区は過去にも共産当選の意外な歴史。当時と今回の世情を比較

東京都議会選挙(7月4日投開票)は中盤戦を過ぎ、自民党の第1党復権、現最大会派の都民ファーストの会の苦境は予想通りの展開になっている。こうした中、先週末の報道各社の情勢調査で、共産党が軒並み議席を伸ばす勢いであることが判明。ある政党の先週末の情勢調査では共産党が「20議席以上で第2党」をうかがう予測も出ているという。

仮に共産が第2党となると、21世紀になってからは初めて。前回吹き荒れた「緑の風」ほどの威力ではないにせよ、「赤い台風の目」といって差し支えないだろう。その象徴的な選挙区として筆者が注目するのが、港区選挙区だ。筆者が情勢を取材してみると、全国の区市町村で最も富裕な港区で、共産党が議席を確保する可能性が出てきているというから驚きだ。

編集部撮影(告示日、一部陣営はポスター掲出が間に合わず)

港区といえば、六本木ヒルズに代表される洗練されたセレブイメージが強いが、伊達ではない。情報サイト「年収ガイド」が総務省のデータに基づき算出した、全国の市区町村で平均所得(2020年)によると、港区は1163万1584円。2位千代田区(1005万6536円)3位渋谷区(885万5483円)などを引き離し全国でもダントツの“富裕エリア”だ。

共産が入る余地ないはずが…

そんな港区の都議選は、2001年以後の都議選は定数2を、自民と国政野党の第1党が議席を基本的に分け合う構図が続いてきた。2013年の都議選に至っては、前年の国政で自民が政権に返り咲いた勢いで2議席を独占。そして2017年の前回は、小池旋風が吹き荒れ、都民ファーストの会公認の新人、入江信子氏が唯一3万票超えの圧勝だった。このとき自民は2人の現職のうち1人が落選したが、少なくとも今世紀に入ってからの港区選挙区では共産が入る余地はなかった。

今回は「自民復調、都ファ退潮」の流れにあって、自民は候補者を現職の菅野弘一氏に一本化。当初は、菅野氏が最も優位に立ち、今度は迎え撃つ側に回った都ファの入江氏、8年ぶりの都政復帰をめざす立憲民主公認の元職、大塚隆朗氏が残る1枠を争う構図が想定されていた。

ところが自民が選挙戦の2週間前に行った情勢調査で、菅野氏の独走は予想通りだったものの、入江氏、大塚氏を、共産党の新人、野口博基氏がわずかに上回る結果が出た。選挙本番に入っても、勢いは落ちていないようで「(報道機関の)出口調査で野口氏が2位に入ったことがわかり、他陣営に衝撃が走っている」(元区議)というのだ。

意外に強い港区の共産党

野口氏の公式サイトによると、1974年千葉県生まれ。高校卒業後、郵政省(当時)の東京簡易保険事務センター職員として働き始め、約25年間勤務。組合活動に参加したのがきっかけで政治活動をはじめたようだ。2019年には区議選に出馬して落選。近年の共産で目立つ吉良佳子参議院議員や池内さおり前衆議院議員のような、若者受けする候補者ではなく、地域の党活動を地味にこなすタイプに見受けるが、少なくとも、先述したように、日本一リッチな街で、マルクス主義を掲げる党が議席をうかがう勢いというのは、選挙関係者ならずとも驚きだろう。(金持ちではないが)港区に住んで通算15年ほどになる筆者の受け止めもそうだった。

fotoVoyager/iStock

しかし、歴史をさかのぼると、港区は共産党が意外に強いようだ。1997年都議選で共産は2枠の2位で当選している。得票数も11,650で、トップ当選した自民党候補者の12,999票に迫るもので、3位の民主党候補(8,943票)、4位新進党候補(6,297票)を大きく引き離す快勝だった。ただ、2001年以後、国政が自民・民主の二大勢力で動いていったなかで共産は埋没。都議選でも伸び悩み、港区では議席が遠のき続けた。

もちろん、今回の港区選挙区の情勢は特有の事情もある。定数が2しかないのに、立民と共産の野党共闘が成立しなかった点がそれだ。しかし、港区の政治事情に詳しい人によると、立民の若手区議を都議選に擁立する話が浮上し、共産も前向きだったが、都議復帰に執念を燃やす大塚氏が待ったをかける形で立民の公認をゲット。共産と「分裂」したようなのだ。こうなると、入江陣営が接戦を勝ち抜いて再選するには、前回の選挙では味方だったのに、今回は自民側に回った公明票を一部でも切り崩すしかない。しかし相手の引き締めが厳しく簡単ではなさそうだ。

1997年と似た情勢?

他方、世の中の情勢という点から、共産候補が港区で当選した1997年と2021年では、似ている要素もなくはない。政局でいえば、1997年の都議選の頃は、その4年前に絶頂だった細川政権誕生に象徴される新党ブームが終焉。自民が政権に復帰し、橋本龍太郎首相の人気で自民は連立でなく単独で政権を運営していた。この年の都議選は、その前回の93年に日本新党ブームで当選した人たちが軒並み苦戦を強いられる一方で、共産は都議選では第2党に躍進している。2021年の今回、小池ブームが終わり、都民ファが苦戦。自民主導の政局に回帰してきた流れは似ていなくもない。

経済情勢も似通っている。1997年は4〜6月期に第1次石油ショック直後以来の大幅なマイナス成長を記録。11月には北海道拓殖銀行、山一証券などが破綻する金融危機が勃発するなど、日本経済の歴史でも特筆すべき恐慌イヤーだった。共産が都議選で躍進したのはこうした世情も背景にある。2021年も、2年連続のマイナス成長に陥り、前年GDPが戦後最大の落ち込みをみせたことは記憶に新しい。

不況に伴う社会不安や格差拡大が共産党への支持を集めやすいのかもしれないが、四半世紀近く経つ今回の都議選。都民は(港区民は)どういう選択をするのだろうか。

【追記① 7/1  16時】毎日新聞の最新の情勢調査では入江氏が2番手に記載。読売、東京の調査でも都内全体で都民ファへの支持回帰傾向の動きがあり、間違いないと思われる。共産党の息切れか、都民ファが逃げ切るか、立民が食い込むか最後まで激戦の様相だ。

【追記② 7/3  18時】その後の取材で政党調査により6月下旬時点で、共産候補の数字が鈍化。この時点では立民が一時優位に立つものの、都内全体でみられる都民ファの回帰トレンドが続いていることから都ファが2番手の流れとみられる。

 
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

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