「まるでMMT」医師会は国家財政の責任を取らない
出口戦略なき危険な「放漫財政論」- 日本医師会の政策シンクタンクが「MMT」まがいの赤字国債容認論
- 高齢化による医療介護費の膨張は避けがたくても、歯止めは必要
- 国民生活を蝕む医療費の膨張。金利上昇でハードランディングの危険
医療費に関わる約40兆円もの莫大な国家予算に対して強い影響力を持ちながら、医師会は国家財政を顧みるつもりはないようです。
「寿司問題」等でも一般の方々に知られるようになった日本医師会の政策シンクタンク、日医総研(日本医師会総合政策研究機構)は今年4月、リフレーション政策ともModern Monetary Theoryとも取れる赤字国債容認論を公開。
長い緊急事態宣言に国民が倦み、日本経済を停滞させたのは医師会の不作為ですが、それも終息しないうちに「自国通貨建国債のデフォルトはありえない」等と言った国家財政観を医師会が論じる。これは果たして国民生活にとって良い結果に繋がるのでしょうか。
(図)国債発行はどの程度まで可能なのか ― 日本医師会総合政策研究機構(2021年4月22日)
(参考)「会長はコロナ禍に寿司デート」日本医師会の”沈没”を多くの医師が喜んでいるワケ 新型コロナ対策の”抵抗勢力”の正体 | PRESIDENT Online(2021年6月8日)
医師会の意見はただの放漫財政
詳細は経済専門家にゆずりますが、自国通貨建国債であっても量的緩和のリスクは大きいものと考えるのが一般的です。欧米における量的緩和は将来的な国民負担の共有、出口戦略および厳密なモニタリング、その公開とセットであり、出口戦略も考えず自国通貨建国債であることを理由にリスクを過小評価するのは単なる放漫財政。
政府および財務省が量的緩和の限界に関するコメントを常に避けようとするのは、政府公式見解が市場に与える影響が大きく慎重を期しているためです。それを良いことに政治家や医師会までもが安易にリフレーション政策に賛同するのは由々しき事態です。
(参考)大幅な税収不足なのに財政支出を増やしているのは日本だけである 米英欧日の「量的緩和」を比較する ― PRESIDENT Online(2020年12月14日)
(参考)ドイツ・スイスの債務ブレーキ制度とEFSF 拡充に関するドイツ保証引受法改正 ― JETRO(2012年3月)
医師会は2020年度予算も財務省からのマイナス2%の診療報酬改定要求を覆してプラス改定に。かつてほどの政治力はないと言われながらも、財務省の保険点数マイナス改定要求をも跳ねのけるだけの力を保持しており、医療制度に関して独占的に政府と交渉する権利を有しています。
その影響力が主に及ぶ医療費は、国債費を除いた一般・特別会計支出合計での国家支出の4分の1に及び、公共事業・文教科学・防衛費を合算したものよりも大きな額を占めています。
医療介護年金に関する社会保険料は一般被雇用者においては天引きにて徴収され、不足分を国税および国債借入と合算したうえで国が提供する医療サービスの財源となっているため、実質的な税。同様の社会保障別費別会計の国においても国際比較では税とカウントされます。
これだけの巨額の支出に影響力を持ちながら、医師会が赤字国債容認論を掲げて一般的な業界団体と同じく己の権益拡大に邁進するというならば、それは日本国民にとってリスクの大きな体制になってはいないでしょうか。
医師会が国家財政に対し配慮するよう期待するのは筋違いかもしれませんが、そうであるならば医療費膨張を食い止める方向でインセンティブをもつ、医師会以外の主体が必要です。
これまで私は政府による歳出シーリングの徹底、選択可能な保険者に関して提案してきました。他にも医師の専管業務の縮小など、様々な施策を取ることができます。高齢化社会による医療介護費の膨張は避けがたいとしても、まったくブレーキをかけないで良いというものではありません。
危険な社会実験の辞めどき
医療費不足分といえば財務省ですらも赤字国債を容認してしまうのが人情ではありますが、その結果として国民受益は果たして維持できてきたでしょうか。高齢者窓口負担の増加、社会保険料支払いも増加、医療費の膨張は確実に国民の生活を蝕んでいます。
このまま自国通貨建国債を積み増せばリスクコントロールはどんどん困難になり、ハードランディングする可能性は高まります。自国通貨建国債は確かにデフォルトにならないかもしれませんが、金利上昇局面となればModern Monetary Theoryも認める通り増税、それも金利コントロールできるだけの大幅なものが必要になり、同時に社会保障等支出の縮小、続いて資本の海外流出を防ぐために預金封鎖へと続きます。これは正に緊縮財政であり、国民受益どころの話ではありません。
どこまで国債を積み増しても大丈夫かなどという危険な社会実験は早々に切り上げ、支出の大きい医療年金分野では国民の生存権の保障という国本来の役割へと立ち返る必要があるのではないでしょうか。
その過程で多少不便になることがあっても、そこにニーズがあるならば経済的合理性に基づいた民間サービスが活躍する機会もまた生まれることになるでしょう。
(関連)「負担増と膨張の一途」日本の医療保険制度は世界に誇れるか? – SAKISIRU(サキシル)
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