有事・災害・感染症……なぜ日本社会は危機管理が苦手なのか?

【特集】日大危機管理学部・福田教授に聞く『日本社会とリスク 2022』#1
ライター・編集者
  • ウクライナ紛争で再び注目される日本の危機管理のあり方
  • 日大危機管理学部の創設にも尽力した福田充教授に連続インタビュー
  • コロナでも迷走した、日本の危機管理体制の根本的な欠落とは?

災害、テロ、感染症、そして有事……。あらゆるリスクがまさに顕在化する中、日本の「危機管理のあり方」や、正確な情報を発信し、対策を模索する「リスクミュニケーション」、偽情報への対処が問われている。日本大学危機管理学部の設置に尽力し、『リスクコミュニケーション―多様化する危機を乗り越える』(平凡社新書)を上梓した福田充教授に、リスクをめぐる日本社会のあり方について聞いた。

iStock / ASKA
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「オールハザード」への備えがない日本

――日本は常に地震や台風などの災害に見舞われ、世界的にもコロナという感染症リスクが世界を覆って3年目に突入する中、ロシアによるウクライナ侵攻が始まってしまいました。「国民の生活を脅かすリスク」という点では共通点がありますが、こうした「危機管理」を包括的にとらえる視点が日本にはあまりなかったように感じます。

福田充(ふくだみつる)
日本大学危機管理学部教授。1969年兵庫県生まれ。東京大学大学院・博士課程単位取得退学後、コロンビア大学大学「戦争と平和研究所」客員研究員などを経て現職。内閣官房等でテロ対策や防災、感染症対策の委員を歴任。著書、編著に『テロとインテリジェンス──覇権国家アメリカのジレンマ』(慶應義塾大学出版会)、『大震災とメディア──東日本大震災の教訓』など。

【福田】日本では「オールハザード」、つまり災害、事故、テロ、戦争などあらゆるリスクを包括的に考える概念やアプローチが非常に手薄でした。

例えばコロナ対応で言えば、内閣官房の中に安全保障・危機管理室(安危)はあったものの、基本的には災害対応やテロ対策がメインで、出向しているのは警察、自衛隊、消防関係の方々。そのため、感染症対策の専門家、つまり厚労省の人材は少数でした。当然、想定しておくべきリスクであったにもかかわらずです。

危機管理には①インテリジェンス(諜報活動)②セキュリティ(防御措置)③ロジスティクス(物資や態勢の準備)④リスクコミュニケーション(正確な情報伝達、意志疎通)という4機能が必要ですが、これも足りていません。

例えば今回のコロナ対応では①インテリジェンスがないため、当初新型肺炎の発生について中国武漢現地でどのように流行が発生し拡大したか、初動の調査ができていません。また、②セキュリティについても、感染症の水際対策として、出入国管理が後手に回りました。出入国管理は普段は主にテロ対策の観点から行われる法務省の管轄でしたから、厚労省との連携がここでもうまくいかなかった。

③ロジスティクスについて厚労省は病院側への忖度が強く働き、コロナ対応病床を増やすことができませんでしたし、④リスクコミュニケーションに関する情報発信も政府の記者会見と、専門家会議の発表がかみ合わず、うまくいきませんでした。

――「新規感染者のうちどの程度が二度目、三度目の感染なのか」など、知りたい情報にたどり着けないことは多くありました。

【福田】建物はあっても機能(中身)がないというのが日本の危機管理で、これは実は東日本大震災や原発事故の時にも直面した事態です。

コロナ対応で露呈した「戦略なき対策」

――福田先生もご自身が体験した阪神淡路大震災を契機に、危機管理の研究に進まれたとか。

【福田】1995年の阪神淡路大震災当時、私は東大大学院の東大社会情報研究所で別の分野の研究をしていました。故郷で大きな災害が発生し、ひと月後に被災地調査に入って衝撃を受け、危機管理の研究を始めたのです。「自衛隊アレルギーがなければもっと早く派遣要請がなされ、多くの人が助かったのではないか」「危機管理能力があれば、事前の対策はもちろん、初動の災害対応ももっと進んでいたのではないか」と感じ人災の側面を改善せねばならないと考えたのです。。

――それから25年以上、経ちました。さすがに自衛隊の災害派遣は即座に行われるようになり、災害対策は政治も国民も、意識が高まってきたように思います。一方、コロナ対策はどうだったのでしょうか。

【福田】日本人のもともとの衛生観念の高さなども加わって、「日本モデル」は一応、うまくいったとは言えると思います。しかし政府対応には足りないところ、反省すべき点はいくつもあります。私は内閣官房の新型インフルエンザ等対策有識者会議のメンバーとして、かつて新型インフルのパンデミックをどう危機管理すべきかを話し合ってきました。

初動において「新型コロナ対策特措法」が2020年3月に成立しましたが、実は、2012年にできた「新型インフルエンザ等対策特措法」の「等」にコロナも含めると規定し、そのまま横滑りで使っていれば、1カ月半も国会で議論する必要はなかったんです。「インフル等特措法」では緊急事態宣言について定義されていましたから、これが使えると。

20年5月、コロナ対応で記者会見する安倍首相(当時)と尾身氏(官邸サイト)

私は当初からそう主張していたのですが、政府や内閣官房、厚労省のトップの人たちは全く異なる論理で、新型インフル等対策特措法を使わず、コロナ改正法を作り直す判断をしたのです。

この議論で初動の時間を無駄にしました。ワクチン接種の準備や優先順位について厚労省の委員会なども、2012年から準備してきたものが、まるっきり使えなくなったのです。今回はまだ日本ではそれほど致死率の高い感染症ではなかったから現状で済んでいますが、より強力な感染症が出現したらどうなるか。これが私たちの危機感です。

日本には「システム」がない

――コロナ流行以降、さまざまなところから「厚労省には任せられない、非常時に対応できる組織が必要だ」という声が上がっていますよね。

【福田】 例えば「日本版CDCを作れ」という声はよく聞かれました。アメリカや台湾に倣え、ということです。なぜCDCがいいかというと、先に示した「危機管理の4機能」を自前で持っているからです。世界の感染症を調査して分析し、政府に提言し、ロジスティクスである病院にも指示を出せる。さらに自ら社会への情報発信も行う。

しかもCDCはオールハザードに対処可能で、感染症だけでなく、原発事故や、化学兵器・生物兵器を用いたテロへの対策まで手掛ける。だから有事に機能するのであり、もし日本で同じような組織を作るのであれば、最低でも省庁や分野の縦割り、セクショナリズムを超えた組織を作る必要がある。しかし現状を考えると、実行は非常に難しい。

ジョージア州アトランタにある米CDC本部(sshepard /iStock)

――そもそも、もう「CDCを」の声もほとんど聞かなくなりました。コロナ対応で台湾がうらやましいと言われたのは、他にも担当大臣が専門家であるとか、SARS後に感染症対策マニュアルを用意していたからでした。なぜ日本では「次のための準備」ができないのでしょう。

【福田】台湾はSARSもありましたし、平素から中国に対する軍事的脅威も高いので、常に危機感をもって安全保障や危機対応をどうすべきかを考えているのでしょう。確かにある意味では強権的なところもあります。

ただ、システムを構築しながら、常に状況に合わせて改善し、制度の整備や経験を蓄積していく。その結果を検証して、さらに改善していくというPDCAサイクルが回せているから、合理的な判断ができる。日本はそういうサイクルが回せていません。システムというものそれ自体がない、と言ってもいいかもしれません。

前近代的統治がまかり通る社会

――ワクチン接種にしても、菅政権下で一度「1日100万回接種」ができたら、岸田政権になっても同じシステム(指示系統、体制)でできるはずでは、と思うのですが、なぜできないのか不思議です。

【福田】属人的な部分が残っているということもあるでしょうね。菅前総理は官僚に対するグリップを効かせていましたから、官僚から「できません」と言われても「やれる方法を考えて今すぐやれ」と跳ね返す。すると官僚も危機感をもって、無理してできる方法を考える。しかし岸田総理になって「どうも次の総理は優しいぞ」となれば、もうやらない。これが「日本にはシステムがない」と私が言うことの本質の部分です。システムが存在しないので、その場その場の人間、空気、当事者の感覚や、上との関係でやり方や程度が変わってしまう。これはかなり前近代的な統治だと思います。

okouu /iStock

その時その時の「対策」はあるのですが、「戦略」がなく対症療法的で、その場その場の対策だけを重ねていく「戦術」レベルの動きしかできていません。本来は平時から有事のために備えておくべきことができず、有事になるとその時々の状況や空気に流されてしまう。

コロナに限りませんが、日本では何か法律ができる時には大騒ぎして反対し、一方は数の力で強行採決するけれど、その後のマネジメントや監視には双方とも関心がない、という事例が多々あります。安保法制や特定秘密保護法など、多くの法案や政策がそうした状況になっている。こんなことで、より深刻な危機が来た時に、本当に対処できるでしょうか。強い危機感を持っています。

#2に続く

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