中国のゼロ・コロナ政策は世界経済の脅威だ
世界的な海上輸送コスト増から見えるリスク- 昨夏から上昇中の国際的な海上輸送コストを追い打ちする中国の事態とは?
- 「即ロックダウン」中国のゼロ・コロナ政策が経済にダメージ。世界的影響に
- 感染予防と治療の両立が望ましいが、中国国内ではコロナ見直し論が封殺
国際的な海上輸送コストが上昇している。昨年夏以来、アメリカなどで急激に消費や住宅需要が盛り上がって貿易量が増える一方、コンテナと船舶の不足、港湾の渋滞によって海上輸送が対応できていないためだ。横浜から米国ロサンゼルスへのコンテナ運賃(40フィートコンテナ)は前年比で7月には約3倍に、オランダのロッテルダムへは同約2.7倍に暴騰している(日本海事センターが引用したドリューリー・シッピングコンサルタンツのデータによる)。
世界貿易の中で海上輸送が占める割合は約8割と言われているので、海上輸送コストの上昇が世界各国で輸入品の物価上昇をもたらし、世界経済に大きな影響が出ることが懸念される。そして最近、こうした傾向に追い打ちをかける事態が中国で生じている。
「即ロックダウン」中国のゼロ・コロナ政策
8月11日、コンテナ取扱量で世界第3位、中国では上海に次いで第2位の寧波-舟山コンテナターミナルの一つが突然閉鎖された。その原因は、一人の港湾労働者のコロナ感染だった。その港湾労働者はワクチンを2回接種済みで無症状だったが、検査で陽性だったため隔離され、コンテナターミナルも閉鎖されてしまった。
このため寧波港外には入港待ちの船があふれ、船会社の中には渋滞する寧波に船を寄港させず、他の港に向かわせたものも多くあった。
新型コロナのデルタ株は、7月上旬に南京の空港経由で中国に入ったとされているが、瞬く間に中国各地に広がった。このため中国政府は、人民に旅行を控え、イベントの開催を中止するように求めるとともに、航空機、鉄道、長距離バスの運行を一部差し止めている。また多数の都市の全部または一部でロックダウンが行われ、北京でも市の北西部の昌平地区の高層住宅群などがロックダウンされたりした。
このような感染者が一人でも出たら、その地域の住宅群、工場、港湾などを即ロックダウンし、地域の全員にPCR検査をしてさらなる感染を完璧に封じ込める、いわゆるゼロ・コロナ政策は、昨年3月の武漢での感染爆発以後、中国で一貫してとられている。この方法は、新型コロナの感染力が今ほどではなかった昨年はそれなりの成果を上げ、中国は主要国の中でいち早く経済が回復に向かったが、デルタ株の出現で状況は大きく変わった。
8月15日付の時事通信によれば、「インペリアル・カレッジ・ロンドンは4日、ワクチンを2回接種後、デルタ株に感染するリスクは50~60%低下するとの調査結果を明らかにした。これはワクチン接種後も半数近くが感染する恐れのあることを意味する。」とのことであり、デルタ株がこれまでの新型コロナとは異次元の強い感染力を持っていることを伝えている。このため、現在中国政府がとっているゼロ・コロナ政策でもデルタ株の感染者を完璧にゼロに抑え込むことは容易ではない。
中国のゼロ・コロナ、世界経済にもダメージ
その一方で、このようなゼロ・コロナ政策を取り続けると、経済へのダメージが極めて大きくなることが問題だ。すでに、中国国内でもロックダウンや移動制限による消費の減退が起きている。特に夏休みの旅行客をあてにしていた旅行業界や交通機関への打撃は大きい。中国国家統計局が発表した7月の中国の小売売上高の前月比は0.13%減と前月の0.48%増から減少に転じている。
また、こうした中国政府のゼロ・コロナ政策は、中国経済への悪影響だけに止まらず、上述の海上輸送費の上昇や中国製部品や製品の生産・輸出の停滞及び価格上昇を通じて世界経済にも大きな影響を及ぼすこととなる。
やはりここは人の移動の極端な制限やロックダウンといった力づくの対策ではなく、経済をできるだけ通常に近い形でまわしながら、感染予防と治療の体制を充実させて重症者や死亡者を減らす政策に舵を切ることが、中国そして世界のために必要なのではなかろうか。
葬られた「中国のファウチ」の本音
昨年3月に武漢で感染爆発が起きた際に中国政府は、10日間で1000床の火神山医院を建設・稼働させ、さらにその3日後には1600床の雷神山医院を建設・稼働させたのだから、もし感染が急拡大しそうな地域が出てきたら、こうした野戦病院を直ちに作って医療従事者を招集すれば、十分な治療体制を確保できて医療崩壊には至らず、重症者・死亡者の増加を抑え込めるはずだ。
しかし、残念ながら中国政府はなかなかこうした政策に舵を切りそうにない。なぜなら既に昨年9月8日に習近平主席出席のもとに新型コロナ撲滅祝賀行事を盛大に開催してしまったし、来年2月には北京オリンピックも控えている。
7月29日、感染症の権威として中国のメディアが「中国のファウチ」と呼ぶ復旦大学の張文宏教授が、中国版ツイッターの微博(ウェイボー)で、長期的には新型コロナと共存していく知恵を見出す必要があると本音をつぶやいたら、すぐさま猛烈な批判の嵐にさらされた。そして20年以上前の博士論文の盗作疑惑まで持ち出されて、大学側も調査を開始すると発表した。このため張教授は8月18日になって、現在の新型コロナ対策は我々にとって最適のものだと、再びつぶやいて実質的に前言を撤回せざるを得なくなった。
中国のゼロ・コロナ政策は当分続くだろう。しかしその間、世界経済に暗雲がますます重く垂れこめてくる。
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