若手抜擢の維新が、全国政党になるための5つの提言
わかりにくい米国政党型ガバナンスの功罪- ネットで波紋を呼んだ党組織と国会議員団の組織構造を解説
- 新役員人事は二大政党化へのステップになるが、内部構造に課題
- 全国政党になるためには?最後に筆者から5つの提言
前回拙稿の終盤で、日本維新の会が、地方分権型政党の形で政権交代を実現するには、選挙の風に乗ってフワフワした国会議員が量産される旧民主党型の政権交代は選択ではなく、地方議員を増やした地に足の着いた政権交代に向けたプランが必要となると述べた。そこで、重要なステップとなるのが今回の新役員人事だ。
④ 二大政党化へステップとなる新役員人事
今回の新役員人事では、堺市議出身である馬場伸幸氏を要職に残しつつ、若手の藤田文武氏を幹事長、音喜多駿氏を政調会長、柳ケ瀬裕文氏を総務会長に、それぞれ抜擢した政治的意味は小さくない。
まず、若手を抜擢することで、国政政党内の序列を意識した既存の国会議員のための政党とは異なり、あくまでも地方分権を見据えた目的合理性が高い議員集団であることを確認したと言える。維新が合目的的な党経営の判断を優先するため、藤田幹事長という経営者出身の若手をシンボリックな立場に据えたことは素晴らしい判断だと思う。
また、大阪側のボトムアップ型の政党ガバナンスを効かせる他の候補地として、東京都を明確に選んだというメッセージ性も重要だ。日本維新の会が全国政党化を本気で志向するなら、上述の地方分権の趣旨を踏まえたガバナンスを大阪以外の地域にも徹底していくことになる。
しかし、大阪以外に地方議員の基盤を持たない同党には、そのような地方組織を作ることができる場は限られている。具体的には、音喜多・柳ケ瀬という都議会議員出身の参議院議員が仕切り、2名の衆議院議員を作った東京都以外にはほぼ存在しない。
実際、音喜多・柳ケ瀬議員は上記の領収書問題についてほとんど発言せず、11月22日に地方議員育成を目的とした東京維新政治塾の塾生募集を粛々と開始している。東京の参議院議員2人は、党の立党趣旨を理解し、実際に代表選挙を行っていくための組織作りに既に着手していると言えるだろう。もちろん、この動きが小池氏の国政転出後の都知事ポストを維新が狙う布石であることは推察に難くない。
仮に東京都で大阪と同様の都議・区市議によるガバナンス体制を作り出すことができた場合、そのノウハウを他の都道府県でも横展開していくことで、維新は従来までとは全く異なる価値観を持った真の二大政党の一角に成長していくことになる。そして代表選挙も問題なく実施できるようになっていることだろう。
⑤ 党組織と国会議員団が異なる米国政党型ガバナンスの功罪
ただし、このような党の発展の道には想像以上の困難があることは間違いない。外部に困難があることは当然だが、同党には内部の構造にも課題がある。
日本維新の会の新役員人事が公表された翌11月30日、同党は国会議員団の役員人事を公表した。筆者は当初は「国会議員団の地方に対するクーデターか?」と思ったが、その政党の組織構造を詳しく検討するとそうでないことが分かった。(しかし、分かりにくい。この政党は日本国民に自党の理念や仕組みを理解させるつもりがあるのか?と疑わしくなるが笑)
日本維新の会は党組織と政治家集団を建前上は分けている。このようなガバナンスをより徹底している政党の事例として、やはり米国の共和党を参考事例として取り上げたい。共和党の党組織である共和党全国委員会のトップは、実は大統領でも上下両院の議員でもない。共和党全国委員会議長(党のトップ)は党内選挙で大統領や議員とは別に選出される仕組みとなっている。これを簡単に言うと、共和党全国委員会議長はトランプ大統領ではなく別の人物だったということだ。
そして、この共和党全国委員会議長は、党全体の公約のとりまとめ、党全体の広報、大統領・議員を選出する予備選挙開催などを取り仕切る仕事を行っている。
大統領候補者や連邦議会議員候補者は党内予備選挙を経て、本選当選後は政治家として職務を遂行するだけの存在だ。したがって、大統領や連邦議会議員が党組織自体に直接的に指示を出すという関係性ではない。これによって一部の政治家による党組織の私物化に歯止めをかける仕組みが一定程度担保されている。
維新の組織も国会議員団・〇〇市議団等が存在しており、日本維新の会の党組織とそれらの議員団組織も建前上は切り分けられている。つまり、大枠は米国の党組織と同じようなものだと言える。このような組織構造を有している理由は、大阪以外にも地方議員が増加し、〇〇(県名)維新の会の下に県議団・市議団が創設されて、日本維新の会を運営する集団として加わることを念頭に置いているからだろう。中長期的に新規加入の集団が増えていくことで、全国政党としての地方分権型政党としてのガバナンスが確立されていくイメージだ。
ただし、その際、前項と矛盾するようだが、全国展開の過渡期において、大阪以外の地域に進出するにあたって、進出予定地域の国会議員を日本維新の会の党役員に据えることは「地方・国の主従関係」を変質させるリスクを孕むため注意が必要だ。現在の抜擢された党役員らは党組織の意味を理解しており維新もリスクを取って全国展開する道を歩んでいるのだろう。
しかし、いずれは日本維新の会はこの潜在的な組織的課題を解決する必要に迫られることになるものと思う。何であっても過渡期の組織というのは単純に理想通りになるものではない。
⑥ 提言:全国政党になるために必要なこと
上記の通り、筆者の日本維新の会に関する理解が正しかった場合、同党が今回の代表選挙を見送ったことは合理的な判断であったように思う。橋下氏や松井氏ら創業メンバーが作り上げた党理念が十分に浸透していない(大阪の国会議員ですら)状態かつこれから更に全国展開を狙う段階では「代表選を行うことはできず、むしろ代表選を行うべきではなかった」とすら言えるだろう。
その上で、最後に筆者は同党にいくつか提言をしておきたい。
第一に、日本維新の会の立党趣旨をしっかりと有権者に伝えることだ。大阪の有権者には伝わっているのかもしれないが、それ以外の地域の有権者には全く共有されていない。同党を支持する大阪以外の有権者は一足飛びに旧民主党のような政権交代を期待する向きもあり、時間がかかっても、地方分権型政党が目指す日本の政治の在り方の根本的変革の意義を有権者に何度も丁寧に説明するべきだ。
第二に、日本維新の会は党組織として地方議員の発掘・育成に党のリソース(資金・組織)を大幅に振り向けるべきだ。同党が立党趣旨を守りながら全国政党化していくためには、各地域にその趣旨を理解する十分な数の地方議員が存在することが前提となる。そのため、まずは地方議員がいないことには話にならないし、その地方議員にも党のコンセプト自体の教育を徹底する必要がある。(もちろん、国会議員の意識共有も必要。)この点はまずは東京都で実践してみるのも良いだろう。
第三に、日本維新の会の意向として、国会議員団に対して「提出予定法案リスト」を提示することだ。国会議員団はそれらの法案を国会に提出することを慣例化し、それらの法案リストの国会提出に対して国会議員団に拒否権を与えないことが重要だ。(更に言うなら、政府提出の重要法案の賛否に対して、日本維新の会として国会議員団に党議拘束をかけることも検討すべきだ。)そうしなければ、遅かれ早かれ国会議員団は地方からの政策要望を軽視するようになるだろう。
第四に、日本維新の会は参議院選挙区候補者と衆議院小選挙区候補者の党員による予備選挙を執り行う機能を持つべきだ。参議院議員選挙は選挙時期が決まっているため、一定の猶予期間を持って予備選挙を実施できる。衆議院議員選挙は解散時期が不透明であるため、予備選挙の開催はリコール式とし、当該選挙区の一定の割合以上の党員が予備選開催要望を提出した場合に一定期間内に行われるようにすれば良い。その公平な行司役を日本維新の会が党組織として担うことになる。
第五に、日本維新会の党役員から国会議員を除外し(オブザーバー化)、首長と地方議員による党運営を貫徹できるようにすることが望ましい。これは同党の地方分権型政党としての在り方を徹底することを意味する。もちろん同体制を構築できるようになるのは、上述の提言内容を履行し、十分な数の地方議員及び党員、予備選挙の仕組みを実装できたときのことになるだろう。その過程において、日本維新の会党役員選挙(党トップを選定)と国会議員団代表選挙(首相候補を選定)は意義も役割も別物であることを党員に周知することも必要だ。
■
以上の分析は、大阪の人間ではない東京の人間である筆者が、今回の日本の維新の会の代表選挙が行われなかった背景を考察し、今後の同党の在り方について提言したものである。もしかしたら、全く的外れな推察かもしれないが、筆者は党役員人事から維新の「政治の在り方を根底から変革する凄み」を感じたため、あえて駄文を残しておきたいと思った。願わくば、現在の硬直化した日本政治に風穴を開ける存在として、同党に成長してほしいものと考える。
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