実は存亡の危機だった?なぜ日本維新の会の代表選挙は実施されなかったのか
立党趣旨を見れば一連のモヤモヤもスッキリ日本維新の会の代表選挙が実施されないことになり、11月の衆議院議員選挙結果を受けて、「いよいよ大阪の政党から全国政党への脱皮か」と思った人たちは落胆したように思う。まして、創業者である橋下徹氏が政策活動費の領収書添付等を巡って、現職国会議員との間で内ゲバのような争いを繰り広げてガッカリした人もいるだろう。
筆者も最初はそのように考えていた一人であることを反省の弁も込めて告白したい。
しかし、筆者はその後に発表された党役員人事を受けて、同党に対して当初疑問に思っていた様々な謎が氷解し、むしろ日本維新の会が持つ稀有な目標と戦略に驚嘆させられた。したがって、下記に日本維新の会の現状と将来に関する私見を述べさせていただきたい。
① そもそも維新の存在意義は何か
筆者は維新の党員でもなく、大阪の人間でもない。したがって、当初は日本維新の会が衆議院議員選挙で約4倍増したことで、党の躍進、そして旧民主に代わる二大政党の萌芽かと受け止めていた。しかし、同党の過去の経緯に鑑み、この思いがけない議席増は同党にとってはむしろ存亡の危機だったのではないか、と見方を修正した。
その理解の前提として、日本維新の会は現政権を担う自民党やかつて政権交代を実現した民主党とは全く異質の政党だと理解することが重要だ。それらの有力国会議員による上意下達の支配をベースとした政党ではなく、日本維新の会の根幹はあくまでも地方勢力が中央集権を解体し地方分権を成し遂げるためのツールだと考えることが大事だ。
実際、日本維新の会の綱領・基本方針には、下記のように明記されている。
「私たちは、地方から国の形を変えることを目的に日本維新の会を設立する。日本維新の会は、東京の本部を頂点とするピラミッド形の既存政党とは全く異なる組織形態をもち、既存の中央集権型政党とは本質的に異なる地方分権型政党である。」
要は、同党のガバナンスは地方が優位に立ち、国政はあくまでも地方分権を成し遂げるための梯子、ということだろう。そして、中央に対して地方の力を強化するという文脈には大阪都構想の実現も当然含まれることになる。
しかし、地方分権型政党という考え方は現状においては一般的に国民に広く浸透しているとは言い難い。大阪では府議・市議などが立党理念として共有しているものと推察されるが、たとえ維新の議員であったとしても地方議員がほぼ存在しない地域から選出された国会議員が同党の立党趣旨を肌感覚で理解しているかは疑問だ。仮にその状況で代表選挙を行った場合、議論のテーマが大阪・非大阪、世代間、その他の立党趣旨からズレた話題になる可能性が高いだろう。
したがって、地方分権という党の根幹の理念を体得していない新人国会議員が多数当選したばかりの状態で代表選挙を実施することは、党自体が立党趣旨とかけ離れた「国会議員のための政党」に変質してしまう危険性を孕んだものだったと言える。
② なぜ橋下氏は領収書問題にこだわったのか
筆者は当初橋下氏が創業者心で領収書などの細かい話で難癖つけていると思っていたが、現在は橋下氏の主張は政党の立党趣旨を踏まえれば当然に正しいものだったと考える。
地方議員が守っているルールを国会議員が守らないことは、同党にとって主客の逆転が生じることを意味している。国会議員の不透明な支出を容認し続けることは、維新が「地方分権のために働く地方分権型政党」ではなく、「国会議員のための国政政党」になっていくプロセスだからだ。したがって、地方分権型政党である維新にとって、国会議員が政党の立党趣旨を忘れて自らの権力を求める行為は百害あって一利なく強烈な批判の対象となって当然だろう。
米国でも地方分権を党是とする共和党員は、自分たちが選出した連邦議員が首都ワシントンD.C.の住人になっていくことを酷く嫌う。米国の共和党員は地方に生きる有権者が中央で決める税制や規制に振り回されるのではなく、州や個人の自由と自立を求めて議員を送り込んでいる。しかし、そうして選ばれた議員たちは自分たちに特権があると思い込み、徐々に税金を私物化し、自らの権力増大を求めるようになってしまうものだ。それに反発する有権者は党内予備選挙などで貴族化した議員に「No」を突き付けて党内自浄作用を発揮する。
橋下氏の主張の根幹には、上述の共和党員と同じような中央の政治に対する鋭い批判意識があり、それが「国会議員は納税者のほうを向いているのか」という強烈な言葉に繋がるのだろう。したがって、本件について大坂維新の会府議団が「文書通信交通滞在費及び立法事務費に関する制度見直しを求める意見書」を提出する流れは至極妥当なことだと言えるだろう。
橋下氏の主張の根幹は、単純な領収書添付の有無の問題や徒に議員に身を切らせる話ではなく、日本維新の会の立党趣旨とその政治的な位置づけを国会議員に再確認するための作業であったと捉えるとスッキリする。
③ 日本維新の会は全国政党として二大政党の一角を担うのか
このように分析していくと、「やはり日本維新の会は大阪の政党のままなのか」と思う人もいるだろう。しかし、筆者の見解は全く逆であり、むしろ立党趣旨を有する政党だからこそ二大政党の一角を担うに相応しいと考える。
自民党と旧民主党の間には、国の在り方(中央・地方関係)に関して実は本質的な違いは存在していなかった。旧民主党は地域主権という概念を形の上では打ち出していたが、そもそも党のガバナンス自体が中央の有力議員からの上意下達式であり、彼らの政権交代は国の在り方自体に大きな変革をもたらすことはなかった。
しかし、日本維新の会がこのまま拡大していくと、「地方が主であって、国会が従である」という地方分権を自らのガバナンス面でも体現する政党の勢力が拡大することになる。
その結果として、中央が地方に課している不合理な国税や規制を根幹から改める誘因が政治レベルで働き、日本の地方を真の意味で活性化させることに繋がっていくだろう。実際、地方分権政策を国政で断行するためは、地方側にも規律ある自治体運営が求められることになるため、そのことが大阪維新が好む「身を切る改革」志向に結びついている。
ただし、地方分権型政党の形で政権交代を実現するには、選挙の風に乗ってフワフワした国会議員が量産される旧民主党型の政権交代は選択できず、地方議員を増やした地に足の着いた政権交代に向けたプランが必要となる。
そこで、重要なステップとなるのが今回の新役員人事だろう。次回は今後に向けての展望と提言を示したい。
(続きはこちら)
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