読売と日経が正月特集で「資本主義の見直し」論も、日本は本当に資本主義なのか?
10年前のあの若き経営者が本質ズバリ- 読売と日経が正月特集で「資本主義の見直し」で足並み
- 問題意識は似ているが、力点は読売が「分配」?日経は「成長」
- そもそも資本主義がダイナミックに展開されてきたのか?
新聞各紙の正月特集は、大局的な視点に立って時代を展望する意気込みで制作されるが、2022年の今年は日本経済新聞と読売新聞が、奇しくも共に「資本主義」をテーマにしている。日経は“危機”、読売は“岐路”と言い方は変えているが、資本主義のあり方を問い直すテーマで足並みを揃えた。
近年、脱成長を唱える経済思想家の斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』(集英社新書)がベストセラーになるなどマスコミで持てはやされ、NHKが昨秋NHKスペシャルで「欲望の資本主義」を放送するなど、何年かに一度繰り返す“資本主義の限界論”ブームが再燃した潮流から、このテーマが選ばれたことは想像に難くない。また、それに感化されたのか、新自由主義を目の敵にする岸田首相がスローガン先行の「新しい資本主義」を打ち出した影響も企画づくりを後押ししたはずだ。そして日経も読売も、中国のような権威主義国家による政府主導の資本主義の台頭も意識しているようだ。
おそらく1週間程度は連載がこれから続くと思うが(読売は1年間の大型連載の第1部の位置付け)、最終的にどこを着地点に置いているのか。まだ両紙とも序盤だが、岸田首相が言うところの「分配と成長」の観点で見ると、力点は異なるように見える。
「分配」の読売?「成長」の日経
読売は元日紙面はスクープを優先し、連載は3日にスタートしたばかりだが、連載の「顔」である初回を見る限りは「分配」への問題意識が強いかもしれない。一面トップに大見出しで「豊かさ 歪む世界」「マンハッタン1室194億円」を打ち出すなど、米中の富裕層の住宅事情を引き合いにしている。ただ、元日早々、読者の大多数である日本人の庶民がなぜ読まされるのか、その狙いが今の段階ではまだピンとこない。世界最強クラスのリッチマンの話を数字主体で紹介されただけでは置き去りにされた感がある。
読売は中面の特集関連記事を読むと、資本主義のそもそも解説や、米中の資本主義比較(自由競争VS国家主導)を図表入りで解説しているが、日本についてはこの30年間のGDPの伸びが著しく両国より見劣りする話をベタ記事で短く紹介しただけ。「資本主義が岐路に立っている」との問題設定をしたはいいのだが、日本の経済成長に資する話に持っていきたいのか、最後まで読んでも疑問が尽きなかった。
一方、日経は、連載タイトルもズバリ「成長の未来図」だ。さすがに経営者、投資家も読んでいるとあって明確に「成長」へのゴールを意識させる。作家の五木寛之氏に精神論的な部分を語ってもらい、「おせち記事」的な味付けはしているものの、北欧を例に労働市場の流動化の意義を強調。
柔軟性(フレキシビリティー)と安全性(セキュリティー)を掛け合わせた「フレキシキュリティー」なるデンマークの造語を持ち出し、「解雇規制が緩やかで人員削減がしやすい一方、学びなおし(リスキリング)や再就職の支援など保障を手厚くする」(紙面より)社会を紹介している。現状の日本経済について「民間企業を縛る多くの規制が温存され、社会保障改革の遅れで財政膨張にも歯止めをかけられない」との認識を示した上で、「北欧のフレキシキュリティーと比べれば、安全性はあっても柔軟性が決定的に欠ける。この弱点の改革にこれから進むべき道がある」とたたみかける。
この国の長期停滞の要因の一つに産業の新陳代謝が進まなかった(=デジタル化の遅れ)ことがあるが、正社員の身分保障があまりに手厚すぎるが故に衰退産業が人材を抱え込みがちで、成長産業に人材が移転しなかったことも背景にある。その意味では日経の打ち出す方向性は正しいし、日経の記事の方が企画意図が明確だ。4日未明に電子版にアップされた最新記事も「人材移動こそ革新の勝機」と銘打っている。
若者雑誌は10年前に提起
その意味では日経の記事の方がまだ読み応えがありそうだが、そもそもこの国で読売や岸田首相が心配するほど、資本主義がダイナミックに展開されてきたのだろうか。ここで10年前、私と同じ学年の著名経営者が『GQ JAPAN』の取材に答えたコメントを紹介したい(なんと若い男性向けのファッション・カルチャー雑誌も当時、「資本主義の限界」をテーマに企画を作っていたのだ)。
その経営者はこう語っている(太字は筆者)。
「日本における資本主義の議論は外国と大きく異なっています。なぜなら日本は本当の意味での資本主義ではないからです。国の規制が厳しいし競争がないし効率的でもない。新しい企業が生まれ、反対にダメな企業が退場するような資本主義のダイナミズムが働いていない。時代は進んでいるのに日本はその部分の縛りがますます厳しくなっていて、2006年あたりから逆行しているくらいです。“格差”が議論される時に、よく小泉・竹中路線が引き合いに出されるけれども、それも疑問です。非正規雇用は1980年代からずっと増加し続けています」

切れ味鋭く喝破しているのは、現在、香港でNFT事業を営んでいる岩瀬大輔氏(当時はライフネット生命副社長)。この記事が掲載された時期はリーマンショックから3年後の民主党政権の終盤、デフレ真っ只中だった時期。経済的には世相がとても暗い時期で、小泉政権時代の負の部分が語られた時期だったが、岩瀬氏はそうした世の空気におもねることなくズバリ指摘している。
日経も外国の事例でお茶を濁したままで終わらずに、当時36歳の岩瀬氏くらい明快に言い切る日本人論者を出すのか、この後の連載を楽しみにしているが、読売が今後提起するであろう日本型資本主義はどうなのだろうか。
いずれにせよ、岩瀬氏が述べている情勢認識から驚くほど日本が変わっていないことに暗澹としたい人は元の記事をお読みいただければと思うが、天下の大新聞も首相も資本主義の本質論で堂々巡りしている現状にもはや達観したい心境だ。
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