政府・与党内でスポーツギャンブル本格解禁の動き #2 ここでもキーワードはDX
違法市場、依存症対策で有効?- 自民党内で議論されるスポーツギャンブル本格解禁。業界側は不安解消にDXを提起
- 業界側はDXで、追跡可能性向上による違法市場淘汰や限度額など依存症対策を強調
- 米国では試合中に賭けられる「インプレイ」が人気、コロナ後のスポーツ振興策に?
#1では、自民党政務調査会を舞台にスポーツギャンブル(ベット)の本格解禁に向けて活発化している議論の内容を中心に紹介した(リンクはこちら)。#2では、国会議員たちが最も気にする世論のスポーツギャンブルへの不安感を業界側がDXを活用してどう解消していこうとしているのかや、試合中に賭けを行うインプレイと呼ばれる新しい形式など、解禁された場合の新しいスポーツギャンブルの姿について探っていきたい。

DXによる違法市場や依存症対策をアピール
スポーツギャンブルに対する世論の不安感の中身は主に、違法市場の拡大や反社会勢力による利権化、そしてギャンブル依存症の深刻化といったものが想定され、解禁を目指す業界側は、こういった課題への対策をより説得力を持って説明していく必要がある。
4月22日の自民党スポーツ立国調査会スポーツビジネス小委員会(以下、自民党小委)にミクシィ社が提出した資料では、デジタルトランスフォーメーション(DX)がその対策手法として有効である点が強調されており、「資金トレーサビリティの向上が課題を解決し、違法市場を淘汰」できるとしている。
例えば、現金でのやりとりからキャッシュレス決済に変えれば、誰と誰のお金のやり取りかが記録され、現金と異なり匿名性は解消されやすくなる。ギャンブルに関する取引の過程も、オンライン化することでお金の流れを追いやすくなり、トレーサビリティ(追跡可能性)が高まっていくという主張のようだ。同社は、米国では1500億ドル(約16.5兆円)規模で存在した違法市場が「徹底したDXによる資金トレーサビリティー向上で課題解決」したと説明している。
依存症対策についても、DXで効果的な対策が可能になるという。これも米国の例だが、オンラインスポーツベット事業者は、身分確認を行う際に姓名、住所、生年月日、社会保障番号、そしてユーザーの位置情報を確認。加えて、ユーザーが自分でデポジットや限度額を設定することができる仕組みにしているという。
さらに事業者側は、過去の取引履歴、プレイの概要などあらゆる取引に関する詳細情報を確認できるシステムを構築。こういった取り組みは依存症対策を行う行政機関や民間団体などに対して事業者側が十分な協力を行うことが前提となるだろうが、依存症の発生を防ぐための方策がDXによりとりやすくなっているのは事実だろう。

米国で人気の「インプレイ」方式
DXが進んだことで、スポーツギャンブルにおけるお金の賭け方も日本で一般的に想像される姿とは少し変わってきているようだ。国内のスポーツ振興くじでは、試合の前にその結果を予想しているが、米国では試合中に予想する「インプレイ」と呼ばれる新たな方式が人気という。試合中にその試合結果を予測して賭けるだけではなく、バスケであれば特定の選手が2分以内に3ポイント決めるか、テニスであればその選手が次のゲームでサービスエースをとることができるかなど、特定の事象が起きるかどうかも賭けの対象となる。
仮に国内でインプレイ方式の公営ギャンブルを可能にしようとするのであれば、現在は週に1~2回となっているスポーツ振興くじの販売頻度を増やす必要がある。ミクシィ社は自民党小委の場で「『インプレイ』を法的に可能とすればスポーツベット実現」ができるとして、制度の変更を求めている。
加えて、スポーツ振興くじの制度改正によるスポーツギャンブルの解禁を進めようとするのであれば、販売頻度に加えて払戻率についても引き上げることが検討されていくものと見られる。競馬、競輪、競艇、オートレースといった公営競技の払戻率が70~80%に対して、スポーツ振興くじは50%にとどまる。ミクシィ社などが参考にしている海外のスポーツギャンブル市場では払戻率も高く、サービスを提供する民間企業同士がその高さを競っている。
スポーツ振興財源としてアピール
サービスの供給元の主体を民間事業者とし、払い戻し率を高くしている英米などのスポーツギャンブル市場を参考にするのであれば、日本のスポーツ振興くじのように運営主体を独立行政法人としてそこから利益をスポーツ振興などの目的で配分するのではなく、事業者が競争環境の下で活動し、税金として国や自治体に収めていく形が想定される。

ジャングルX社は自民党小委で、事業者がライセンス当局にライセンス手数料を支払うとともに、国税を納める形となっていることを紹介している。加えて重要なのが、事業者によるプロチームへのスポンサーとしての支援だ。ミクシィ社の資料によると、米国ではベット事業者がスポーツリーグから「高付加価値な公式データを提供」してもらう代わりにスポンサー契約を結ぶことで好循環が生まれているとしている。コロナ禍で観客動員が行いにくくなり、スポーツ産業全体が厳しい状況にある中で、新たなスポンサー開拓の手段としての有効性がアピールされている。
今後、どの程度スポーツギャンブル大幅解禁が具体化していくかは未知数だが、注目すべきは政府の重要政策を形作る基本指針「骨太の方針」での扱いだ。#1で紹介した5月17日の自民党小委の提言案は、時期的に見て6月にとりまとめられる骨太を見据えたものと思われる。スポーツベットに関する記述が入るのか、入るとするとどの程度具体性を伴うものになるかがポイントとなる。
自民党小委の提言案では、スポーツベッティングを含めたスポーツ産業における資金循環強化策について「スポーツ団体におけるガバナンスの確保と経営力強化とともにスポーツ庁と経済産業省を中心に政府をあげて検討すべき」としており、スポーツ界の機運がどの程度高まっていくのかも政府の動きに影響を与えそうだ。(終わり)
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