「岸田さん聞く耳を…」国会で問題になった「電柱検査詐欺」、被害者に独占インタビュー

石橋政務官の証言に矛盾?
  • SAKISIRUが報じてきた「電柱検査」詐欺、衆院予算委で取り上げられる
  • 元顧問を訴えた被害者に独占直撃。石橋政務官の証言に見る「矛盾」とは
  • 県警は動くか。30年来の自民党員でもある被害者が岸田首相に言いたいこと

SAKISIRUが昨年4月にスクープした「電柱検査」詐欺疑惑が、国会質問に発展したことで事態は新たな展開を迎えた。

電柱検査は「全国非破壊検査協会連合会」などと名乗る3団体が、経産省が発注したとの虚偽の触れ込みで全国各地の工事業者に権利金を要求。22日の衆院予算委では、このグループで重要な役割を果たした疑いのある広島市のエネルギー関連会社会長のT氏が昨年まで、自民党岸田派(解散)に所属する石橋林太郎国交政務官(衆院比例中国)の後援会顧問を務めていたことが追及された。

これまで報道しているように、このグループでは、昨年夏頃まで石橋政務官の後援会顧問を長年務めていた、広島市のエネルギー関連会社会長のT氏が重要な役割を果たした疑いがあり、広島県警が詐欺容疑で捜査を続けている。

詐欺の疑いが持たれている人物が持っていた、石橋氏の後援会顧問T氏の名刺(右)

予算委では、石橋氏は追及した立民・大西健介氏から尋ねられてもいないのに「この件に巻き込まれて、その方(T氏)自身も困っているというお話がある」などと、T氏の分まで関与否定をしてみせたが、「石橋氏が本当のことを話しているようには思えない」と怒るのは、被害者の1人である広島県内の管工事会社の会長だ。

同社は昨年3月、T氏らを相手取り、約3500万円の損害賠償を求める民事訴訟を広島地裁に起こしており、被告のT氏らは全面的に争う姿勢で係争中だ。しかし訴状では被害者の会長に「儲け話がある」などと主導的な役割を果たしていたと主張しており、関与を否定する石橋氏の答弁と矛盾が浮き彫りになった。

他方、同社はすでに広島県警に対し、詐欺容疑で刑事告発をしており、県警は少なくとも昨夏までに数回、T氏の部下とみられる男性に事情聴取をしている。朝日新聞以外の大手メディアが報じない中、被害者である管工事会社の会長が23日、SAKISIRUの独占取材に応じた。

亀井静香氏“登場”で急展開

亀井氏(国会議員時代、官邸サイト)

--SAKISIRUに続き、朝日新聞が大々的に報じました。しかも工事を発注した公益社団法人の登記簿によると、11月中旬、突然、あの亀井静香氏が名前を連ねていたことで驚きました。

会長「私も昨年暮れ、朝日新聞からの取材の際に亀井さんの名前を聞かされて天地がひっくり返るくらいの驚きでした。結局、朝日の取材に対して名前を使われたと述べたそうですね。亀井さんには気の毒ですが、ビッグネームが出たことで朝日の記者さんの特ダネをものにしようとする気合いがそれまでと段違いに感じられました。

またSAKISIRUさんのフライングの記事の影響もあってか、NHKや週刊文春など他の大手メディアも取材し始めたと聞いて、つい数か月前まで全く取り合ってもらえなかったのが一変しました。この間、地道に取材・報道をされてきたSAKISIRUさん、朝日新聞さんに感謝しております

--訴状によると、石橋氏の顧問だったT氏が理事を務める公益社団法人「全国非破壊電柱検査協会」の関係者から「経済産業省から委託された事業」だとして電柱の非破壊検査事業を持ちかけられ、すっかり信じ込んでしまったそうですね。

会長「彼らの説明では、電柱、信号機、カーブミラー、ガードレールの支柱を非破壊検査し、請負業者に対しては国から支柱1本につき2万円が出て、そのうち6000円を社団法人に支払い、残り1万4000円が報酬になるとのことでした

--それでブロックごとに独占で工事を請け負う「権利金」を騙し取られたわけですか。

会長「はい。島根と鳥取でそれぞれ300万円、広島県内の1ブロックを150万円。さらに彼らが推奨する検査機器の購入代金として約500万円を送金しました

※画像はイメージです(micha03/Photo AC)

--この権利金が合わせて約1250万円。さらに受託した事業の実施にあたって雇った下請けの業者さんへの支払いも発生したと聞きます。

会長「2020年12月から翌年8月にかけ、2人の業者に計25回、合わせて2300万円を工事代金として支払いました。権利金と合わせて3550万円の損害になります。実は他にも必要経費等、数千万円の損害が出ていて、私としては心外なところもあるのですが、顧問弁護士と相談の上、勝訴できる可能性が高い額に絞って民事で提訴し、一昨年から並行して警察に何度も相談に行ってきました

経産省が既に警告していた!

--騙されたと分かったのはいつなのでしょうか。

会長「2022年8月始めでした。検査を発注した協会に対し、何度督促してもお金が振り込まれないことから不審に思い、経産省に問い合わせたところ「電柱の非破壊検査を委託した事実はない」と説明がありました。

しかもその問い合わせた時点の1年以上前から、経産省は公式ページに「最近、『全国非破壊検査協会連合会』を名乗る組織が、国の事業として架空の電柱検査発注を持ちかけて入会金を要求しているとの問合せが複数寄せられておりますが、経済産業省との関わりは一切ございません」との警告文を出していたんですね。

y-studio/iStock

私は解体工事や管工事が本業のアナログな人間ですから、インターネットを使うのはLINEで友人と連絡を取るくらい。もっと早くに気づいていればと悔やみました。経産省の担当者に、私の被害額が(訴訟以外も含めて)5000万円を超えると伝えると、『(その時点で)今まで聞いた被害額で最も多い』と驚かれました。私以外にも西日本各地で被害を訴える声が相次いでいたそうです

--御社の経営も危機的だったと聞いています。

会長「コロナ前は利益が出ていたのが、この工事を請け負ったことで大損害。売上高が例年3000万円ほどの小さな会社なのにそれ以上の持ち出しを強いられて戻ってこないわけですから極めて厳しい状況です。私自身も経営責任をとってもう1年以上、会社から役員報酬はもらっておらず、貯金はすっかりなくなってしまいました

石橋氏に「知っていること話して」

--そもそもの話ですが、工事を発注した「全国非破壊電柱検査協会」の関係者との接点、特に石橋氏の顧問を長年務めていたエネルギー会社会長だったT氏とは昔からの付き合いだったのでしょうか。

会長「私は30年来、自民党の党員で、この10年は特別党員でもあります。広島選出だった元衆院議員の後援会長を務めたこともあり、政治的な付き合いが多く、広島県内のある市長(当時)にT氏を紹介されました。T氏は当時県議だった石橋林太郎氏の後援会顧問の名刺(写真)を持っており信用してしまいました

--予算委でも取り上げられていましたが、こちらの取材では、T氏は、石橋氏とは先年亡くなった元県議の父親の代からの後援者であり、石橋事務所も認めています。会長は石橋氏本人とは面識があったのでしょうか。

会長「面識はありませんが、石橋氏が党員集めに苦労していたと聞き、T氏を通じて100人ほどを党員希望者として紹介したことはあります。私も自民党員なので党勢拡大には尽力したかったので。

ただ、T氏から4年前に“儲け話”として非破壊の電柱検査の話を持ちかけられました。広島市内にあるT氏のオフィスに案内されたこともあります。T氏は全国非破壊電柱検査協会の『中国四国統括本部長』の肩書を持ち、オフィスで説明会をよく実施していました」

T氏の会社がある広島市内のビル(編集部撮影)

--そうなると、予算委で石橋氏がT氏が「巻き込まれた」などと他人事のように話しているのとは矛盾しますね。

会長「全く事実に反します。巻き込まれたような人間が自分の会社にわざわざ連れて行って誘うものでしょうか

--石橋事務所はT氏についてSAKISIRUの以前の取材に対し、「ご指摘の方がどのようなビジネスをされているのかについては全く聞いておりませんし、『全国非破壊検査協会連合会』という団体もご質問を受けるまで存じ上げませんでした」と回答しました。石橋氏に言いたいことはありますか。

会長「父親の代からの熱心な支援者で、事務所の事情も熟知しているT氏の本業を知らないなんて通用するのでしょうか。

仮に今回の事案を把握していなかったとしても、長年の後援者が、経産省の名前を使って複数の人たちから多額のお金を騙し取った疑いを持たれている以上は、政治家として道義的責任はあるのではないですか。ましてや石橋氏は、岸田総理の派閥が解散するまで所属し、地盤も総理のお隣なのだから、いま逆風の政権に迷惑をかけてしまうでしょう

岸田首相に言いたいこと

--会長ご自身も自民党の熱心な党員でかつては選挙もよく手伝ったそうですね。同じ広島で岸田首相とのお付き合いは?

会長「私自身がかつて広島選出の衆院議員(当時)の後援会長だったこともあり、顔は覚えてくださっていたと思います。岸田さんに初めてお会いしたのが15年前、広島から羽田行きの飛行機の中でご挨拶した時です。目元が涼やか、優しいまなざしをされていたのが印象的です。

その後、熊本地震の復興工事の仕事で向こうに拠点を移しましたが、広島に帰郷した際、T氏を紹介した市長(当時)と岸田さんにお会いした際には、ベテランのY秘書ともども面白い会話で、もてなして頂きました。岸田さんが後年、総理になられた際にはとても嬉しかったです。」

首相就任前の岸田氏と面会した当時の被害者会長(提供写真)※プライバシーのため一部加工

--岸田政権の支持率が低迷しています。特別党員として忸怩たる思い、岸田首相に言いたいことは

会長「政権はいま政治とカネの問題もあって国民の不満を集めていますが、広島の人にとって岸田総理はやっぱり特別な存在。県警となればなおさらでしょう。

昨年の夏、T氏の部下に何度も事情聴取していたのに捜査がその後、進まず関係者の逮捕に至らなかったのですが、この問題を取材してきた報道関係者が『岸田派議員の後援者が絡んだ事件とあって、捜査当局が総理に忖度しているのでは』と話していました。広島ではそれだけ総理の威光が強いのかもしれません。もちろん現場の刑事さんはすごく熱心に頑張ってくださってるんですけどね…。

岸田総理は就任された時、『国民の声を聞く』と高らかに宣言されました。私の場合は詐欺事案の被害で極端なケースでしょうが、誠実と真実、「聞く力」を失うことなく、物価高や生活苦などで理不尽な状況に直面している、名もなき人たちの声に耳を傾けてくださることを願っています」

▪️

本事案の関連記事

  1. 【特報】岸田首相、また災難…自民・石橋議員の顧問が経産省警告「詐欺事案」で訴訟ざた(23年4月17日、有料限定記事)
  2. 岸田首相お膝元に火種…公明・斉藤氏と選挙区争う自民・石橋氏、後援会顧問の詐欺疑惑は捜査中(同6月10日)
  3. 松野疑惑だけではない…朝日新聞が岸田首相の喉元に突きつけそうな「もう1枚の刃」(同12月9日、有料限定記事)
  4. ついに国会で「電柱検査」詐欺疑惑が問題化、野党側が自民・石橋氏に政務官辞任迫る(24年2月22日)

関連記事

編集部おすすめ

ランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

人気コメント記事ランキング

  • 週間
  • 月間

過去の記事