創刊SP対談 山口真由さん #2 『鬼滅の刃』はアンチ個人主義!?

家族を掘って見えてきた『変われない』日本
2021年04月30日 06:01
  • 山口真由さんとの対談後編は「家族」を研究テーマにした理由に迫る
  • 議論に中で浮上する「家」と「個」の葛藤。『鬼滅の刃』に感じたこと
  • 日本が変わるために「個」を強くすることはできるのか?

SAKISIRU創刊スペシャル第2回のゲスト山口真由さんは、2月に『「ふつうの家族」にさようなら』(KADOKAWA)を刊行するなど、近年は、家族法の研究者として新たな一歩を歩み出しています。

財務省では国家財政の現場に立ち、弁護士としてM&Aなど企業案件を手がけてきたはずの山口さんがなぜ「家族」をテーマに選んだのか。対談後編では、新田編集長がその思いに迫る中で見えてきた「変わりたくても変われない」日本社会の問題とは?
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山口真由さん対談

男女の問題をロジカルに整理したい

【新田】失礼ながら僕の勝手な山口さんのイメージですが、何でもお出来になるから、テレビに出始めた頃は、逆に自分探しを懸命にされているように思えました。でも、新刊を読ませてもらって、「山口さん、本当に自分のやりたいことが見つかったんだな」と思いました。

山口真由
山口真由(やまぐちまゆ)1983年北海道生まれ。東大在学中に司法試験に合格。卒業後、財務省で租税政策を担当。退官後の2009年から2015年まで、弁護士として企業法務を担当。その後1年間、米ハーバード大ロースクールに留学しニューヨーク州弁護士登録。帰国後、東大大学院に進み、日米の家族法を研究する。20年同大学院博士課程修了、現在は、信州大学特任教授。近著に『「ふつうの家族」にさようなら』(KADOKAWA)。

【山口】ありがとうございます!以前は「私はどこに行くんだろう」って自分でも思っていました(笑)。財務省の頃から目の前のことをやるので必死。国家財政とか考える余裕がなくて、「この5分、目の前の上司が怒らなければいい」ということの繰り返し。

【新田】はたから見ているとそうした苦悩は分からないものですね。山口さんって官僚出身で、企業法務の弁護士をされてきたから、マクロなことに興味があるのかと思いきや、家族法に行き着いた。きっかけは何だったんですか。

【山口】当初は留学して知財を専門にしようとも思っていたんですよ。かっこいいじゃないですか(笑)。でもいろいろな講義を聞いた中で、家族法の授業だけが私の感情にダイレクトに働きかけてきた。東大に「文一」で入った時も面白いと思わず、財務省でも国家財政が危機だったからといって何の感情もなかった (笑)。でも、家族の問題には“感情”が乗っかってきた

それは、自分は家族をこう見たいっていう強いバイアスがあって、そのバイアスを「客観視」するのが自分のやるべきことと思ったというか。男女の問題は冷静に議論したくても、つい感情的になりがち。「男にはわからない」とあっち側とこっち側の線をひき続けるんじゃなくて、論理的に問題を分析して、「こういう歴史的な背景があって、だから女性として傷つく」というように、誰でもわかるような形で説明してみたいと思うようになったんです。

【新田】感情の世界に論理で切り込む。難しいけど、山口さんらしいチャレンジですね。

【山口】「家族の話」「女性の話」って女性側だけで消化されがち。女性が「未婚でつらいよね」みたいな文章を読んで「わかるわかる」って、内輪でやっているだけでは、そのコミュニティ以外に問題意識が広まらない。私はそれを言語化して論理化し、できればその問題を共有しているコミュニティの外にリーチアウトしたいなって思ったわけです。

「同性婚」議論の「正義」を問う

【新田】そのあたり、まさに前半で話したメディアの問題と通底していますね。

【山口】同性婚や夫婦別姓の問題も歴史的には大きな流れのあるお話。「家」は日本の福祉機能の重要な一端を担ってきたのは間違いない。「家」に代わるような福祉の担い手って、介護保険なんかがあるのかもしれないけど、まだ十分には代替できていない段階。だから安易に「家」を壊して「個人の時代、万歳!」という人たちに対して、非常に危惧を感じます。

対談:山口真由&新田哲史
撮影:西谷格

リベラル派の論客で知られる野党の女性議員が「家族のあり方は国家が決めるもんじゃない」って仰ったんですが、同性婚は国家の介入を求めているとも言えますよね。国家からの自由を叫びながら、むしろ国家に承認を求めているのは「矛盾」です。そこを整理しないまま人間の尊厳というだけで押し通すのは、複雑な問題を全部捨象することになる。

なお、同性婚については私は賛成というか、民法で変えればいいと思っていますが、論理的な問題と、国家の制度的な問題と、いわゆる多様性って言われるものをごちゃごちゃにして、複雑なことを全部すっ飛ばして、「これが一つの正義だ!」と感情のままに拳を振り上げることには非常に慎重です。

小泉元首相に言われた個人主義の話

【新田】リベラルに対して厳しいことを言うと、「権力や国家に迎合するのか」みたいに言われるイメージがあったりするんけども、山口さんの主張を読むと別にそんなことはなくて。いわゆる欧米のリベラリストは日本のリベラルとは違っている。

欧米型の本来のリベラルは、菅(義偉)総理の「自助・共助・公助」じゃないけど、志向が自助というか、自立する気持ちが強いように思います。僕がSAKISIRUを作ったのも、日本が厳しくなっていく時代、そういう“したたかな”個人を増やしたいと思ったから。山口さんは政府の大小の論者でいうと「小さな政府」論者のように見受けましたが。

小泉純一郎元首相
首相当時の小泉氏(官邸HPより)

【山口】そうですね。『リベラルという病』を書いたときは個人主義的だったと思いますし、自身はそれに対しても賛同しますけれど、以前、小泉(純一郎)元総理に「小泉さんて、唯一の小さな政府論者だったじゃないですか。実際、その路線を進めてみられてどうでしたか」と、伺ったことがありまして。

【新田】興味深いですね。

【山口】そしたら、「日本で個人主義はやっぱり無理だった!」と仰ったんです(笑)私なりに要約すると、「ヨーロッパ型ぐらいまでできるけど、“開拓者の神と自分”というアメリカ型のようなところまでの『個』にまで分解するのは難しい」という趣旨のお話をされました。

私も最近は家族のことを勉強しているからか、日本で個人主義を進めることにやや懐疑的になってきていまして…。新田さんに賛同するとしたら、「出来る人からやっていく」っていうのは一つのやり方かもしれませんね。「全員が個として立ってね」というのはもう厳しいかな…。

コロナ問題でもありますよね。病院に対する過剰な期待っていうか。アメリカだと、病院に不信を持った個人が、そこに頼らずに亡くなってしまう。そしてそれが、ある意味「個としての選択」って受け入れられている強さがある。あれは日本で出来ますかね?

【新田】そこは難しい。日本の場合、小泉改革が中途半端に終わっちゃった本質を突き詰めると、個人主義の問題があるかもしれない。

「家と個の葛藤」が続いている

刀 侍
nemke/iStock

【山口】『鬼滅の刃』が流行った時、あれは個人主義へのアンチテーゼだろうと思ったんですよ。鬼って個じゃないですか。作品に登場する“猗窩座”(あかざ)とかが「個として武を極めるなら、肉体の最盛期を長く保って、その間に鍛錬を積める鬼になれ」っていう趣旨を呼び掛けるじゃないですか。

それで、“杏寿郎”(きょうじゅうろう)はそれを断って「人間は儚い。だが、個としての肉体が滅んでもなお、その燃えるような使命感を次の世代につないでいける。それが人間の強さだ」っていう勝間を提示する。あれはまさに「家」の価値観!あれがまだウケるのは、やっぱり私たちはまだ「家の時代」を生きているように思えたんですよ。

【新田】それでも日本は衰退しているから、今より「個」を強くしていかなくちゃいけない。でも根強い「家」とどう向き合っていくか。

【山口】「家」って結局「個」を潰すんですよ。守る面もあるけど、でも最後は潰してしまう。この「家と個の葛藤」ってまだ深いと思うんですよね。

【新田】この指摘はめちゃくちゃ興味深い。平成以後、日本の政治経済がなぜ変われなかったか、「小泉改革は新自由主義だから日本になじめなかった」みたいな批判はあったけど、まだ深堀りする余地はありますね。「変われない日本」の問題を突破するためには、「個」と「の家」の問題って大いに関係があるように感じてきました。この話の続きは、改めてやりましょう。

【山口】はい。今日はすごく楽しかったです。ありがとうございました。(おわり)

 

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