バイデン米大統領が「日本より先に韓国を訪問」した重大な理由
岸田首相は分かっているのか?米韓外交の真意を読み解く- バイデン大統領が28年ぶりに訪日より訪韓を優先した理由とは?
- アンチ尹錫悦の左派弱体化…韓国の中国包囲網参加への期待
- 急速に深化していく米韓関係に、日本は?岸田首相は対応できるのか?
米国のバイデン大統領が5月22日、来日した。日本では23日の日米首脳会談に続き、24日には日米豪印4カ国首脳による「クアッド首脳会議」が行われる。大統領は、日本に先立つ韓国訪問の共同記者会見で、「今は時代の転換点にある。民主主義国家と独裁国家が大きな競争を繰り広げる」との認識を示した。政権交代が決まったオーストラリアからは、新首相が参加する。バイデンのアジア歴訪の意図と、今後を読み解く。
バイデン大統領「訪日より先に訪韓」の意味
バイデン大統領が日本より先に韓国を訪問した。これは実に28年ぶりのことである。米大統領の韓国訪問は、いつも日本の後だった。それを変えたのは、尹錫悦新大統領の就任演説だ。「自由と民主主義」を高らかに歌い上げた就任演説をアメリカは高く評価している。さらには、日本と異なり、海外への兵器輸出を行なっている韓国に、ウクライナへの軍事協力を求める目的もあった。
日本より先に韓国を訪問した意味は、韓国にとっては大きい。ホワイトハウスは韓国人記者の「なぜ韓国が先か」との質問に、日本に気をつかってか「特に意味はない」と言葉を濁したが、単なる「意味のない順番」ではないのは明白だ。
韓国を先に訪問したのはまず、バイデン政権が新政権を支持していることを、韓国民に強調するためだ。米国の意向は、韓国民に大きな影響を与えるため、新政権にとっては重要で、韓国世論の中国傾斜を抑える効果がある。実際、韓国では左派による反尹錫悦政権の動きが急に弱体化した。
中国牽制のための「半導体工場見学」
バイデン大統領の日韓訪問の目的は、米国が呼びかけるIPEF(インド太平洋経済枠組み)の結成だ。韓国はバイデン訪韓前に、いち早く参加を表明した。その枠組みの主目的は、中国との供給網を遮断する「サプライチェーン」の確立だ。
バイデン大統領は、韓国の第一歩をソウル南方の「烏山(オサン)米空軍基地」から始めた。きわめて異例である。近郊にあるサムスンの半導体工場を見学したのは、米中の「半導体サプライチェーン」同盟を強調し、中国に半導体を供給しない戦略を見せつけるためだ。
バイデン大統領はウクライナ戦争以後の世界を「民主主義対独裁国家の競争」と認識しており、その独裁国家とは中国を意味する。そのため、「自由と民主主義」を重んじる尹新大統領が、中国包囲網に参加するだろうと期待しているのだ。
「サプライズ」なき岸田首相への不安
さらにバイデンは、韓国新大統領に日韓関係の改善を強く求めている。日米韓の連携を重視するバイデンの思いは強く、2015年の日韓慰安婦合意も当時のバイデン副大統領の「作品」だった。それを受けて米韓両首脳は日韓関係改善にも合意しており、それゆえに韓国国内の反日の動きも抑えられている。
日韓関係改善のため、尹政権は福島原発の汚染処理水の海洋排出に反対しない意向だ。さらに、文在寅前政権でおかしくなった安保協力や貿易規制問題を早期解決する方針を固めている。
また、両首脳は北朝鮮の脅威に対する日米韓の協力でも、強い対抗策に合意した。特に北朝鮮については「北朝鮮と無条件の対話や首脳会談はしない」との意向を示し、「核問題解決の意思が重要」との前提条件をつけた。
日本では、これまでの韓国への不信感から、朝鮮問題の専門家の多くが「日韓関係は変わらない」と主張した。だが、尹錫悦大統領は早々と関係改善の方策を示した。日韓関係改善と重視の信念を持つ尹政権を日本は支援すべきで、そのためにも岸田文雄首相は大統領就任式に出席する先手を打つべきだった。欠席は残念な判断と言わざるを得ない。
岸田首相は、私と早大法同期の浦川道太郎教授のゼミ生で、真面目で誠実な学生だったという。二世政治家でも、小泉進次郎氏や河野太郎氏のようなスタンドプレーは苦手だ。それでも、小泉純一郎首相が見せた「権力者の政治力は、サプライズから生まれる」の教訓は学んで欲しい。そうでなければ、次第に岸田首相のプレゼンスは低下し、何よりも急速に深化していく米韓関係に、日本だけが取り残される事態になりかねない。
就任演説に込められた「反日封印」の意図
米国は、尹錫悦大統領が就任演説で「自由民主主義」「自由と人権」に何度も触れた事実を、高く評価している。日本ではほとんど関心を呼ばなかった演説だが、韓国現代史の中でも、歴史的な内容だった。日本の特派員と記者たちには、自由民主主義の歴史的な意味がわからなかったようだ。日本のメディアは、就任演説は日本について言及しなかったと報じたが、実は言及していた。それは次の部分だ。
「国家間、国家内部の行き過ぎた集団的葛藤により、真実が歪曲され、各自が見聞きしたい事実のみを選択したり、多数の力により相手の意見を抑圧したりする反知性主義が、民主主義を危機に陥れています」
この「国家間、国家内部の集団的葛藤」の表現は、明らかに日韓の歴史問題や慰安婦問題を含んでいる。わざわざ「国家間」と語っているのだ。「事実が歪曲され」「相手の意見を抑圧する」「各自が見聞きしたい事実のみを選択」「反知性主義」は、理由のない韓国の反日言動に日本国民が感じる思いだろう。
この表現を記事にしなかった各紙の特派員や論説委員こそ、まさに「反知性主義」とからかわれても仕方がない。新聞記者の知性が、低下しているのか。もっとも、多くの特派員や記者や学者が文在寅政権に同調する記事を書いてきただけに、内心忸怩たる思いがあるのだろうと同情する。
「自由」35回も強調し中朝牽制
韓国では、指導者、政治家の反知性主義、社会の「行き過ぎた貧富の格差などの両極化」や「左右や地域対決の社会葛藤」などは、心ある学者や新聞記者らが指摘してきた。その深い意味と事実、愛国心を知らないと、尹釈悦演説は理解できない。
演説では「自由」の言葉を35回も強調し、「自由民主主義が平和を作り、平和は自由を守る」と述べた。北朝鮮と中国に対する「自由と民主主義、人権外交を展開する」との宣言だ。
中国の王毅外相は、韓国の朴振外相との初の会談でこれに不快の感情をあからさまにし「IPEF反対」を告げ、「遠い親戚(米国)より近くの隣人(中国)」との日本の諺を使って、韓国への牽制を強調した。だが王毅発言は、あからさまな大国主義丸出しの表現で、韓国民の反発を買っている。
岸田首相はバイデンの「独裁と民主主義の競争の時代」を理解し、日米韓安保協力のために、日韓安保、経済協力をより果敢に推進すべきだ。
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