岸田首相に言われるまでもなく…日本の「人的資本」は「危機的状況」?

連載『日本経済をターンアラウンドする!経済再生の処方箋』#7
  • 岸田政権の新しい資本主義で提唱する「人的資本」とは?現状を解説
  • 同調性重視の昭和モデルが続き、DX時代に必要な創造的な人材を育てられていない
  • ISOが近年発表した「人的資本」の新指標とは?企業は人的資本をどう豊かにする?

株式会社ターンアラウンド研究所
西村健(代表取締役社長)

最近、日経新聞を騒がしているのは岸田首相の「新しい資本主義」でも提唱されてきた「人的資本」という言葉です。「人材版伊藤レポート2.0」も経済産業省から先日発表されました。最近のホットワードです。知らない方もいらっしゃると思うので今回は「人的資本」を解説しましょう。

官邸サイトより

まず人的資本とは何ぞや?私なりに咀嚼した定義から述べますと、

  • 企業を構成する「人材」を、投資によって価値を創造することができる「資本」と捉えた概念のこと
  • 個人が持つ知識、技能、能力、資質等の付加価値を生み出す資本とみなしたもの
  • デジタル時代の競争力の源泉は工場や店舗ではなく、革新的ビジネスを創造するもの

といったところです。失われた30年、今のオワコン日本の現況の原因の1つとも言われています「人材への投資」が日本企業の問題点として重要度を増しています。

さて、なぜ重要度を増しているのでしょうか?

人的資本の現状 ~ 創造的人材で負けている

高度成長期は、欧米の「マネをする」ことで製品開発をして、追い付き、追い越して、世界市場を席巻しました。しかし、高度成長の方法・手法が通用しなくなった時に、どうするか。

日本社会は答えを見いだせず、グローバル市場が求める、付加価値の高い製品・サービス・事業開発ができませんでした。自動車や電化製品の後、企業は世界的なサービスを開発できず、電気製品などは新興国に追いつかれてしまいました(中国には完全に抜かれているといっても過言ではないです)。企業側も問題意識を持っていましたが、創造性よりも集団指向の同調性重視、学力中心の日本の教育システムを大きく変えるには力を持たず、企業での人材育成についても昭和のモデルが続いたままです。

日本の集団主義志向の教育は、高度成長期は「組織的な強み」として成功要因の1つになっていましたが創造性やITスキルが重視されている現在では、弱みにとらえられています。とっくに前から、世界は人材の「創造性」での競争に突入。デジタル技術、ロボットやAIが普及したら、グローバル競争において勝負するのはそこでしょう。集団発想で、合わせ技での「ものづくり」はある程度3Dプリンタでできてしまいます。日本的な「しっかり」「きっちり」「正確に」「丁寧に」という思想よりも大切な思想や発想が必要になっており、それが「創造性」です。

データが語る人的資本の弱さ

データで見てみよう。まずは、仕事との向き合い方を見てみましょう。日本の労働者は仕事に対するモチベーションが欠けています。

ビジネスSNSであるLinkdinのopportunity indexによると世界各国と比較して、日本の労働状況が厳しいことがわかります。

出典:Linkdinのopportunity index

また、

  • Confidence in achieving success(成功への自信)22位
  • Quality of life (happiness)(生活の質(幸福))22位

という数値が示すように、日本は各国と比べて仕事での成功への自信が相当に低く、幸福度も低いことがわかります。

2019年にパーソル総合研究所が実施した「就業実態・成長意識についての調査」においても、「勤務先以外での学習や自己啓発について、日本は『特に何も行っていない』が46.3%で、14の国・地域で最も高い」「日本の起業・独立志向は15.5%で最も低い」といった考察が提起されています。

仕事に自信がなく、幸せでもない、そして、学ぶ努力もしようとしないし、野望もないっていう実態があきらかになりました。結構深刻な問題です。これに対して、「人材版伊藤レポート2.0」においてもそこに問題意識が現れています。特に「個の自律・活性化」が課題です。具体的に言えば、ともに成長し、イノベーションを起こせるということです。

出典:経済産業省「人材版伊藤レポート2.0

仕事を通じて自己実現を図り、成長でき、しかも才能を発揮するという面で、組織内でのイノベーションがまさに「日本経済」全体に求められているのです。

「ISO30414」という新たな動き

さらにこうした動きに呼応するように、ISO30414が注目を浴びています。2018年12月に国際標準化機構(ISO)が発表した「人的資本」に関する情報開示のガイドラインのことです。

具体的には、

  1. コンプライアンスと倫理、ビジネス規範
  2. 採用・雇用・離職等労働力のコスト
  3. ダイバーシティ、労働力とリーダーシップ
  4. リーダーシップ、従業員の管理職への信頼
  5. 組織文化 エンゲージメント
  6. 健康安全、労務
  7. 生産性、組織パフォーマンス
  8. 採用・異動・離職などの人事プロセス
  9. 能力
  10. 後継者計画
  11. 労働力

について、指標で測定して報告することになります。企業の財務指標を公開するのと同様に、人財についての情報を公開するというイメージでよいでしょう。ISO30414が必要になった理由は、アメリカでの動き、Human Capitqal、つまり人的資本に関する情報開示をルール化した動きを受けてです。

「そもそも人材情報開示と業績が関係性があるのではないか?」という問題意識から様々な研究が行われ、情報開示度合と業績、特に株価には関係がある、つまり、「開示した会社ほど株価が上がっている」ということがわかったようです。それで人事情報を積極的に開示するようになり、アメリカ議会にロビーイングし、そうした動きがルール化されました。

人事情報の開示が本当に企業の業績や株価に影響するのか、様々な条件があるので「人事情報の開示→業績」というロジックには皆さん疑問を持つところでしょう。しかし、人事情報の開示ができるほどの対外的にオープンな企業は組織力も高いでしょうし、結果として業績向上に大きく寄与するというのは納得できるのではないでしょうか。

arto_canon /iStock

人的資本をどのように?

さて、どのように人的資本をリッチにしていくか。それは弊社にお問い合わせください(笑)というところですが、冗談は置いておいて、少し考えていきたいと思います。

人材育成の課題は

  • 組織や前例踏襲や権威主義的な文化にこだわらない「風土」
  • ジョブ型雇用をはじめ、多様なキャリアの多様なバックグランドを持ったメンバーからなる「多様性」
  • 権限や肩書を意識せず、多様な観点から闊達な議論ができる「オープンさ」
  • 人を尊重し、助け合い・協力し、共存共栄を図る「関係性」
  • 仕事を通じて、成長し、事業を起こしたり、創造性を発揮する方向へ人のメンタリティを向ける「人事制度」

がまさに組織に求められているといえるのではないでしょうか。人的資本を活かし、成長する人材を集めるためにも必須でしょう。次回は、「人的資本」についてさらに深く考えます。

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