国民皆歯科検診は、医療費抑制か?新たな負担増か?
国の狙いは?政策的影響は?医学的・医療経済的な意義を解説- 政府が導入検討で話題の「国民皆歯科検診」について解説
- 医療費抑制の狙いも、中央集権的な義務化は医療介護の分権策に逆行
- 経済的合理性を高め、国民の負担とならない方法は?
政府は経済財政運営の指針「骨太の方針」に、全国民の毎年の歯科検診を義務付ける「国民皆歯科検診」導入の検討開始を盛り込む方針であることが明らかになりました(参考:産経ニュース)。
「国民歯科検診」に関しては既に自由民主党の2022年衆院選向け公約にも盛り込まれており、歯科業界紙でも昨年11月時点で報告されていました。
産経新聞によると具体的方法は「唾液による歯周病検査を年に1度行われる一般健診に含める」ことが検討されていますが、その医学的・医療経済的意義を解説しようと思います。

「皆検診」で医療費抑制の狙いか
一般的に健診というと、学校歯科検診のように歯科医師が直接お口の中を診る形を想起すると思います。今回の政府案は唾液を使用した歯科医師不在の検査が現時点では検討されており、これは新型コロナ以前から続く医療費膨張に対する強い配慮が伺えます。
もし「国が義務と定める検診事業」に歯科医師を動員するならその人件費は高額となります。一般健診においては最後に医師の問診があるものの、レントゲン検査や血液検査は検査技師らが行います。このようにコストを抑えて疑わしい所見を拾い上げ、精密検査へとつなぐものをスクリーニング検査といいます。
歯周病は“沈黙の病”とも言われ末期状態になるまで自覚症状なく進行する特徴があります。
厚労省の歯科疾患実態調査によると30~50才の40%程度、50才以上の55%程度が中等度以上の歯周病に罹患しており、これを放置すると中高年で歯を失い始めます。
歯周病認定医としての臨床経験からは、歯が揺れる・歯肉が腫れるなど歯周病の自覚症状があると既に手遅れになっている場合が多く、数本の歯を抜歯した上で残った他の歯の歯周病が悪化しないよう歯周病治療を行った上で、さし歯や入れ歯などで機能回復をしていくという流れになることが多いと感じています。
以上から歯周病は、痛みや見た目の変化で自分でも状態がわかりやすいむし歯よりも恐ろしい特性がある歯科疾患であると言えます。自覚症状のない段階から早期受診に繋ぐ唾液による歯周病検査は国民の健康増進のために大変有意義で、日本歯周病学会でも大学間連携研究が行われてきました。
(図)4mm以上6mm未満が中等度、6mm以上が重度

(関連拙稿)本当に治療が必要な人は? もっと恐ろしい歯周病の事実 ― アゴラ
(引用)歯周炎進行を唾液中細菌検査と血清抗体価検査から予知する ~SPT 期治癒判定プロジェクト最終報告書~ ― 日本歯周病学会
「皆歯科健診」義務化は地方分権に逆行
一方で既に多くの自治体で成人歯科検診事業があります。多くの場合歯科医院にてむし歯・歯周病・その他粘膜疾患の健診と、専門家によるアドバイスを受けられると内容も充実しています。
一般健康診断に歯科が含まれていないのは、歯科業界が昭和中期の「むし歯の大洪水」時代に日常診療の忙しさを理由に企業健診への参入を断った経緯からですが、昨今の歯科医院経営を取り巻く状況が大きく変化するなか地方自治体における成人歯科健診事業は拡充されてきました。
もちろん自治体による任意受診と一般健康診断の中での義務化では意味合いが違ってきますが、重複部分に関しては再編が必要になります。これまで医療介護は地方分権政策が進められて来たのに対し、岸田政権の掲げる「国民皆保険制度」による被用者保険の拡大と「国民皆歯科健診」による一律義務化は中央集権的な枠組みへと逆行します。
また費用に関して唾液検査が含まれる予定の一般健康診断は、組合健保加入者は企業が全額、その他の医療保険加入者は地方自治体と本人が負担します。義務化によるコスト増は数百円ですが、「幅広い国民が一律に少額の負担増となる」のはマイナ保険証窓口負担を彷彿とさせます。
科学的な行政評価でコスト削減を

そうであればより一層経済的合理性が高く、国民の負担とならない方法を採択していく必要があります。6月1日の読売新聞によれば国民皆歯科健診に関連して「科学的なデータを基にした行政評価を反映した政策立案手法を導入する方針」を明らかにしました。
国内の学会はお金の話題は避けがちですが、イギリスのように積極的に費用対便益研究によってコストパフォーマンスを追求し、事前評価と事後評価による制度の修正を導入していくなら望ましい改革と言えます。
唾液検査という手法は前述のように強いコスト意識をもって選ばれた検討案のように感じます。しかし既存研究をみてみると健診で一般的に採取している血液検体を活用できる方法や、「歯みがき時に歯肉から出血するか」といったアンケートでもある程度の検出率が得られることがわかっています。もしかすると問診票に数項目を追加し、必要な者へ歯科受診を勧奨するほうが費用対効果は大きいかもしれません。
「行政評価を反映した政策立案手法」は何をやったかよりも、データとしてどれだけコスト削減につながったのかが重要です。現時点では唾液検査は検討段階ということになっていますが、より合理的な方法となるよう多くのご関心をいただけると幸いです。
(参考文献)
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