KDDI通信障害 全面復旧で、次の焦点は「補償」へ。原資としての「内部留保」に注目

5兆円近い内部留保。財務状況を見てみると...
ライター・編集者

KDDIは5日夕方、一連の大規模な通信障害について、発生から86時間が経った15時36分に「サービス利用状況およびネットワークのトラヒック正常性に問題がないことを最終確認した」と発表した。となると、次なる関心は一般ユーザーに金銭的補償はなされるのか、ということだ。

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補償回避へ約款に「伏線」説

KDDIの個人向けサービスの契約約款では、通信サービスを「全く利用できない状態」が24時間以上続いた場合、損害賠償を支払うとの規定がある。今回の通信障害は復旧までに60時間以上かかっており、当然補償の対象となるものと考えたいところだが、微妙なのは同社が通信障害を一貫して「利用しづらい状態」と表現している点。「全く利用できない」とは一度も言っておらず、補償を避けるための伏線ではないか、との声もある。

実際、2021年10月にNTTドコモで発生した通信障害では復旧までに29時間かかったが、完全に通信ができない状態は短かったとして、同社は補償しなかった。一方、KDDIは13年にも通信障害を起こしているが、データ通信が全く使えなかったユーザーを対象に利用料金から700円差し引く対応を取ったことがある。これが“トラウマ”となって、補償を極力避けようとするインセンティブが働きやしないだろうか。

もし補償が行われるとしても、考えられるのは一般ユーザーに対して通信障害で携帯が使えなかった期間に対して補償すること。一部報道によると、月額使用料を日割り計算し、そこに100円分程度の詫び賃を上乗せして、ポイントを付与する方法が考えられるという。ポイントにすれば、顧客が他社に流出するのを防ぐメリットもある。リサーチ会社の調査では、昨年12月における携帯電話の月額利用料金(端末代除く)の平均は4617円だという。日割りすると1日当たり150円なので、携帯が全く利用できない期間が2日間として300円。詫び賃100円を加えれば、最大400円になる計算だ。

今回は最大3915万回線でつながりにくくなった。そう考えると、個人の補償は約157億円に上る可能性がある。さらにJALやJR東日本、ヤマト運輸、楽天モバイル、気象庁などの企業にも影響が出ており、法人向けの補償も必要になってくる。個人と法人を合わせると、補償額は最低でも200億円に上ると見られている。

3日の謝罪会見は一定の評価をされたKDDIの高橋誠社長だったが…(写真:つのだよしお/アフロ)

5兆円近い内部留保…

200億円の補償額が莫大なものに間違いないが、実はKDDIの財務状況からすると微々たるもの。同社の22年3月期決算によると、内部留保が4兆8181億円もある。内部留保とは当期純利益のうち株主への配当金に回されない部分のことで、利益剰余金ともいう。要は企業が貯めこんだ儲けのことだ。これが5兆円近くもあることを考えると、通信障害の補償が1人当たり400円だなんて少なすぎる、「もっと出せるだろう」と考えるのが人情だろう。

もっともKDDI に5兆円近い内部留保があったとしても、有利子負債が1兆2081億円あるし、全てが現金であるとは限らない。決算書では、同社の現金同等物(現金や預金など)は7966億円とある。5兆円に比べればグッと少なくなってしまうが、それでも200憶円の負担は多くはあるまい。もし現金が少なくなるのを恐れるのなら兆円単位の内部留保の一部を現金化すればいいだけのこと。

企業の内部留保は08年のリーマンショック以来、年々増加の一途を辿っている。賃上げや配当など、儲けを従業員や株主に還元するわけでもなく、かといって設備投資に回すわけでもない。ただ、ひたすら貯め込むだけ。膨れ上がった巨額の内部留保のおかげで世の中にはカネが回らず、日本経済が停滞する元凶とされるなど社会問題となっている。

この局面で内部留保を取り崩さずに、莫大な資金をいつ活用するのか。通信障害はあってはならないことだが、所詮は人間の手によるものだからKDDIに限らずドコモだってソフトバンクにだって、どこの通信事業者にもあり得る。起きてしまったことは仕方がない。企業として真価が問われるのは、どう後始末をつけるかである。

 
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