「あいつらは環境総会屋」…日本の有名企業が警戒、「環境NGO」が株主提案の動き

みずほ、三菱UFJ、東電…そしてトヨタにあの団体が...
ジャーナリスト
  • 日本の名だたる企業の株主総会で環境NGOによる株主提案相次ぐ
  • 2年前にみずほFGに脱炭素化の株主提案をしたのを機に活発化
  • あの世界的なNGOがトヨタの株主に…日本企業はどう対処すべきか

いま、一部の日本企業に「あいつらは『環境総会屋』だ」と言わしめ、警戒されている動きがある。それは、環境NGOが仕掛ける株主提案のことだ。

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本物の総会屋と何が違うのか?

いわゆる「総会屋」とは、株主総会を利用して不当な利得を得る行為のことで、たとえば、わずかな株式を取得して株主となり、株主総会で厳しい質問をしない代わりに金銭などを要求することが挙げられる。

こうした行為は、会社法(旧商法)に違反するが、1990年代までは多くの企業の総務部は総会屋とは密かに付き合っていたのが実態だ。現に筆者が経済記者になったばかりの頃(1995年)はまだ、株主総会に取材にいくと、「総会屋」と思しき人物が質問に立っているケースがあった。その質問を聞くと、社長が回答に窮するような経営課題の本質を突く厳しいものもあった。こうした厄介な「総会屋」に金銭を払い、お引き取りいただくことが会社法違反となる。

しかし、今はコンプライアンスが厳しくなり、「総会屋」と付き合う企業は皆無に近いと言っていいだろう。

最初に断っておくと、環境NGOが「総会屋」だというわけではない。ではなぜ、企業が「あいつらは『総会屋』だ」と指摘しているのかと言えば、企業が答えたくない、あるいは答えに窮するような直球の質問を株主提案として投げかけてくることが、本物の「総会屋」と似ているからだ。環境NGO関係者の取材を総合すると、科学的知見を持ち、キャリアも多彩で、企業行動をよく研究している有能な人が多いと感じる。交渉相手としては手ごわく、率直に言って総務部が追い返せる程度の相手ではない。

「脱炭素」「気候変動対策」株主提案

国内で環境NGOによる株主提案が本格化したのは2年前。みずほフィナンシャルグループに対し、わずかな株式を保有するNGO「気候ネットワーク」(京都市)が、年次報告書で気候変動に対する取り組みの開示を定款で定めることなどを求めた。この提案が脱炭素化に関する国内初の株主提案と言われた。

みずほFGへの提案に対しては34.5%の株主が賛成に回り、その中には国内の機関投資家の野村アセットマネジメントやニッセイアセットマネジメントのほか、みずほ系のアセットマネジメントOneも入っていたという。

翌21年にも気候ネットワークは三菱UFJフィナンシャル・グループに同様の提案を行った。三菱UFJFGへの賛成率は23%だった。

さらに気候ネットワークは今年4月、オーストラリアの環境NGO「マーケット・フォース」と連携し、三井住友フィナンシャルグループ、三菱商事、東京電力ホールディングス、中部電力に対して、気候変動に関する対策強化を求める株主提案を行った。

これらの提案は株主総会ではすべて否決されたものの、金融機関や商社、電力会社がターゲットとなったのは、石炭火力関連への融資や、LNG(液化天然ガス)の新規開発を続けているからだとされる。

アクティビストと連携の脅威も

会社法上、株主提案できる内容は主に利益剰余金の配分、取締役選任、定款変更の3つに絞られる。このため、気候変動対応に関する株主提案は、定款変更で攻めてくるが、これには議決権の3分の2以上の賛成が必要となるため、ハードルが高い。

ところがアメリカでは、株式をわずかしか持たない株主が、大株主の機関投資家と連携することでガバナンスを揺るがす事態が起こっている。
米石油メジャー、エクソンモービルの昨年の株主総会では、わずか0.02%の株式しか保有していないアクティビストのヘッジファンド「エンジン・ナンバーワン」が取締役3人を送り込むことに成功した。

この背景には、気候変動に対する取り組みに関して情報開示や取り組みが積極的でなかったエクソンモービルの経営陣に対して、機関投資家で全米有数の資産を持つ「カリフォルニア州教職員退職年金基金」が不信感を募らせ、アクティビストの提案に賛同したことがある。

今年5月、国内でも環境NGO単独の提案ではなく、機関投資家と組んだ株主提案があった。HSBCアセットマネジメント、仏アムンディなど欧州系の機関投資家3社と、豪州のESG推進の非営利団体であるACCRが電源開発(Jパワー)に対し、50年までに二酸化炭素排出実質ゼロを達成するための事業計画の策定や公表を求めるなど3件の株主提案を行った。提案はすべて否決されたものの、賛同率は最大のもので約26%あった。

グリーンピースの動きにトヨタは…

そして筆者が注目するのは、国際的な環境NGOであるグリーンピースの動きだ。議決権行使や株主提案のためにグリーンピースはトヨタ自動車株を取得したことを今年5月19日に機関投資家向けに発表。トヨタの戦略にかかる気候変動リスクを適切に評価し、投資判断することや、内燃機関車の段階的販売停止などを求めていくことに対し、機関投資家の協力を求めた。

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すでに昨年11月、グリーンピースは世界の自動車大手10社の脱炭素化の取り組みを調査し、トヨタを最下位に格付けした。すると、トヨタはその1カ月後の12月、2030年におけるEVの販売目標を200万台から一気に350台にまで引き上げると急遽発表した。200万台は昨年9月に発表した数字であり、わずか3か月間で8割近く上積みすることは、慎重かつ堅実な経営を重視してきたこれまでのトヨタの企業行動から見ても異例だった。

記者会見した豊田章男社長は「これでカーボンニュートラルに後ろ向きと言われるなら、何台売ればいいのですか」と訴えかけた。明らかにグリーンピースを意識しているように見えた。

日本企業どう対処すべきか

環境NGOによる提案に関しては、回答に当たって裏付けのあるデータ作りが無理なケースや、データはあっても企業秘密で開示したくないケースがあるという。また、自動車産業に関しては、一口に環境対応と言っても、市場ごとにその内容やスピードが違っている。たとえば、欧州はEVシフト、日本はハイブリッド車をそれぞれ重視するほか、一部の新興国はまだまだディーゼル車やガソリン車に依存する。長期的にはEVシフトは加速するだろうが、短期的には市場の現実に対応しないと、収益が維持できなくなる。

また、ウクライナ危機が引き金になってLNG価格が高騰し、その争奪戦が起こっている中、石炭火力を「悪者」にする脱炭素化の動きにも一部変化がみられる。このため、株主提案を受けた企業側には「環境NGOは自分たちだけの目標を達成すればいいのか」といった反論もある。いわゆる「環境原理主義」に対する批判だ。

こうした動きについて筆者はこう考える。地政学、脱炭素、サプライチェーンなどに関して企業は大きなリスクを抱える時代に入った。その背景には、世界の政治・経済の動きの複雑化がある。それに伴い、投資家など企業を取り巻くステークホルダーの価値観も多様化している。その多様な価値観とコミュニケーションして、相手を論理的に説得できる力、すなわち交渉力が問われているのだ。

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