ファクトチェックセンターを「正しく」運営するためのキモは?
3つの問題点と3つの解決策- 日本ファクトチェックセンターの酷評される要因を分析する
- 「生産コスト」「恣意性」「責任者と資金拠出者」3つの問題点
- マトモなファクトチェック機関の構築に必要な3つの提言
フェイクニュースが跋扈する昨今の情勢に鑑み、日本ファクトチェックセンターが設立されたが、早速ネット上では運営者の出身母体メディアの偏りやファクトチェックの作業レベルに対して厳しい批判(とグダグダ感)が溢れている。
この問題は運営者らがフェイクニュースやファクトチェックの本質的な問題を何も理解していないことに起因する。そこで本稿では、まずは問題を整理した上で、その解決策についても提示する。まずは以下の3つ問題から述べる。

虚報とチェック「生産コストの差」
フェイクニュースが氾濫する理由は、その生産コストが極めて安価なことにある。偽情報を創る人物の思い付き、そしてチョットした画像や動画の編集技術があれば偽情報は簡単に生産可能だ。さらに、フェイクニュースはSNSなどの無料の媒体を通じて拡散されて、地球の果てまで拡がっていくことになる。
つまり、フェイクニュースは生産も流通も安いのだ。
それに対して、ファクトチェックは地味なネタでも専門家が手間とコストをかけて検証する必要がある。そのため、ファクトチェックはフェイクニュースと同じペースで量産できる類のものではない。ファクトチェックは統計知識、科学知識、その他専門知識を含めた高度な作業である。
したがって、世の中で溢れかえっているフェイクニュースは安価なドローンみたいなもので、それに対してファクトチェックという高額な対空迎撃ミサイルをその都度発射していたのではコストに合わないと言える。
ニュース選定の「恣意性」
ファクトチェックの対象となるフェイクニュースの選定も問題である。いずれのフェイクニュースを対象とするのか、という点で、必要以上に運営者の恣意性が入れば信頼性がなくなる。
実際、日本ファクトチェックセンターのガイドラインで
第19条(対象言説の設定)
(4)正確で公正な言説により報道の使命を果たすことを目指す報道機関として運営委員会が認めるものが発信した言説ではないこと
という一文があり、その対象選定の在り方に物議を醸したことは知られている。この問題の本質は、SNSだけでなくメディア自体が信頼を喪失していることを正しく認識できておらず、ジャーナリスト出身の運営委員が「正しさ」を認定できる、という勘違いがある。
この間違いは次の問題点である担い手と資金拠出者の問題に繋がってくる。
責任者と資金拠出者の問題
既存メディア自体が信頼を失っている中、そのメディアの出身者がファクトチェックを行うといっても最初から説得力が皆無だと言える。なぜなら、多くのネットユーザーはSNS上のフェイクニュースも問題だと認識しているが、既存メディア関係者の第四の権力としての独善的な正義を振りかざす権威主義的な体質にも嫌気が差しているからだ。
今回の日本ファクトチェックセンターの運営にはGoogleが約2億円、日本のヤフーが2000万円を各資金拠出したと公表されている。ヤフーはヤフーニュースを通じて既存メディアと取引関係はあるが、Googleについては既存のジャーナリズムの権威を妄信するべきではない。むしろ既存のメディア関係者を一切排除した構成とし、Google自らが主導権を取った取り組みを立ち上げたほうが余程信頼性がある。
つまり、資金の出し手自身が既存のジャーナリズムが内包する独善的な正義を振りかざす権威主義と決裂しなければ、新進気鋭のファクトチェック組織としては信頼を得ることができないだろう。

上記の3つの問題について、日本ファクトチェックセンターの運営者らが全く自覚できていないので、チェック作業をした学生の知識不足が批判され、対象の選定に疑義が提起されるとともに、その存在意義が疑われるようになっている。
しかし、筆者はファクトチェック機関自体は必要だと思っているので、マトモにファクトチェック機関を構築するために必要な提言を以下行うものとする。今度は3つの処方箋を示したい。
対象ニュースは月1、2本に限定
フェイクニュースやファクトチェックの特性を意識した運営を行うことは基本中の基本である。
フェイクニュースに対してファクトチェックは生産コストが非常に高い。そのため、ファクトチェックを粗製濫造する現状の同センターの運営方針は明確に間違っている。(それをやろうとするから、学部生に適当な作業をさせることになる)
したがって、各分野の専門家を揃える形で1本当たりのファクトチェックコストをしっかりと投下するべきだ。検証対象となるフェイクニュースに合わせて、統計学や理工系などの知識を持つ専門家を揃えた専門チームを都度組成し、十分な信頼性がある調査結果レポートを公表することが望ましい。むしろ、現場記者の経験や勘などは価値判断のバイアスを生みやすく徹底的に排除することも検討すべきだ。
その上で、当該ファクトチェックに投下された金額を付記することで、追加の調査に対する寄付も集まりやすくなるだろう。
Googleの分析機能活用を
ファクトチェック対象ニュースは、Googleで検索された回数が多い上位フェイクニュースを毎月選定することが望ましい。完全ではないものの、そのような選定方針を取ることで運営者による恣意的なニュース選定を減らすことができるだろう。
少なくとも独善的な正義や権威主義の風潮が蔓延した既存メディア出身のジャーナリストらが選んだニュースや適当に学生が選んだ陰謀論を検証するよりも公正で中立的である。
そして、検索数の多さを基準とすることで、社会的影響が大きいものが必然的に選ばれることになり、ファクトチェックの存在価値も向上することになるだろう。

本筋は「逆」だった建て付け
日本ファクトチェックセンターの場合はGoogleがオールドメディア出身者などに資金を出すことによって成り立っているが、社会的責任や遂行能力の観点から考えて、本来立場は逆であるべきだ。
上述の通り、①と②を遂行できる能力を持つ存在はGoogleのようなビックテックである。既存メディア関係者は、現状認識、イデオロギー、能力の観点からファクトチェックの担い手として社会から信頼を得るに相応しくない。
むしろ、オールドメディア各社が資金を拠出し、Googleに第三者機関として独立したファクトチェック機関の創設・運営を行うことを依頼するほうが筋として正しい。オールドメディアが報道機関として社会的責任を果たし、ファクトチェックの能力を持つGoogleが作業を実施するべきだ。
Googleは自らが持つ潜在的な能力の高さを自覚し、既存ジャーナリズムという権威に盲従することをファクトチェックのための第一歩とするべきだ。
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