エルサルバドル:ビットコインの法定通貨化は「楽市・楽座」の再現?
「信長流」規制緩和がめざす世界とは- エルサルバドルの法定通貨化の狙いは何か?同国はすでに自国通貨廃止
- 国民の7割が銀行口座を持たず、GDPの2割が国際送金に依存という事情
- 藤巻健史氏「国民が決済制度に加わり、自由に経済活動ができるように」
「来週、ビットコインを法定通貨とする法案を国会に提出する」と、エルサルバドルのナジブ・ブケレ大統領が発表し、話題となっている。アルゼンチンやブラジルなど中南米の国々では、議員たちがビットコインの法定通貨採用に賛同を表明する声が相次いだ。パナマの議員も自国でビットコインの法定通貨の法案を提出する準備を進めていると発言。パラグアイでも議員がPAYPALとの大規模プロジェクトを開始することを示唆するなど、注目をあつめている。
大統領がサプライズ発表をした場は、ビットコインカンファレンス2021が開かれた米マイアミ市。実は同市では、今年2月に市の職員給料をビットコインで支払える法案が可決したばかりだった。ビットコインを巡っては、これまで自治体レベルでこのような動きはあったものの、国の「法定通貨」としてビットコインを採用するという動きはこれまでなく、実現すればまさに史上初といえる。

すでに「村ごと通貨」で成功
エルサルバドルのミゲル・カタン商務長官は「心配する必要はありません。ビットコインは常にドルと連動します。変化を恐れるべきではありません」と話した。エルサルバドルでは2001年から米ドルを法定通貨として採用し、現地通貨はすでに廃止されていた。今後は、ビットコインの利用も可能になるが、価値はドル建てで計算するのだという。
経済評論家の藤巻健史氏は「日本のように、自国の法定通貨が厳然と存在する国ではありえないことですが、エルサルバドルのように、すでに自国の通貨をすでに廃止している国にとっては、仮想通貨を採用することのハードルはそれほど高くはないのです」と語る。
実は、エルサルバドルでは3年前から「ビットコイン・ビーチイニシアティブ」という名のビットコインを使った社会実験が行われすでに大成功を収めている。実験が行われているのは、エルゾンテという海岸沿いの小さな村。世界のサーファーに人気がある観光地だ。

きっかけは、2019年に、同ビーチの愛好者がビットコインを10万BTC寄付したことだ。「現金に換金せずに、デジタル通貨を学んで、そのまま活用してほしい」との寄付者の意向もあったため、街で送金や決済する機能をビットコインで代替出来るシステムが考案されたという。
こうして現在、村では、小さな店での1ドルのトルティーヤの購入、3ドルのヘアカットから、公共料金の支払い、公共施設の請負工事代金の支払いに至るまで、ビットコインで支払っている。
ビットコイン効果で殺人事件も減少?
通常のビットコイン取引では手数料とネットワーク処理に時間がかかるが、ライトニングネットワークというシステムを使っているため、高速かつ少ない手数料で手間がかからないという。コロナ禍の影響もあいまって、ビットコインを受け入れる店舗は拡大中だ。
エルサルバドルでは、国民の70%以上が銀行口座を持っておらず、既存の金融システムから切り離されていた。村人はみな、もともと銀行口座やクレジットカードを所有していなかったが、今では子供たちやビーチの店員も、ビットコインの決済方法に慣れつつあるという。
ブケレ大統領はツイッターでこう強調している。
ビットコインのおかげで、100万を超える低所得世帯が受け取る金額が、毎年数十億ドルも増加しています。これは、何百万人もの人々の生活と未来を改善する可能性があるのです。
こうした経済的な変化の影響なのだろうか。エルサルバドルは治安も戦争地帯以外で最も危険な国といわれていたが、2020年の殺人件数は過去最低を記録、前年比でなんと62%も減少したという。
また、エルサルバドルの人たちにとって現在のドル基軸体制がもたらす、国際送金の手数料や手間は身近な問題だ。エルサルバドルでは、GDPの2割以上を海外からの国際送金に依存している。エルサルバドル人の4分の1が米国に在住していて、年50億ドル以上を、実家に仕送りしている。彼らは銀行口座を持っていないため、送金は高額になりがちで、年50億ドルの送金のうち2億5000万ドルが送金手数料に消えていっているのだという。
「アメリカに住んでいる孫が、村にいるおばあちゃんに100ドル送金したとします。いままでは、孫は送金手数料として、7ドルを支払って、おばあちゃんは送金を受け取るために1時間バスに乗って移動しなくてはいけません。受け取って戻るまでに合計4時間もの時間がかかる。移動中には(盗まれたり、殺されたりする)治安上のリスクもある。でも、アプリでのビットコイン送金なら、受け取るまでに数分もかからない。おばあちゃんは受け取たらすぐ、家から牛乳の注文もできるし、公共料金の支払いもできるのです」(プロジェクトのホームページより)

人を差別しない金融の仕組み化
エルサルバドルのような国では、そもそも金融機関がまともに機能しておらず、そもそもATMがあってもまともに稼働していない場合もあったり、酷いケースだと金融仲介機関が、送金額の50%を搾取するようなケースもあるという。
藤巻氏も実体験から国際送金の不便さについて語る。
「子供が米国にいるので、金融機関経由で国際送金をしていますが、本当に不便です。ワンタイムパスワードというものがあっても、全く使えないのです。しかも時間がかかって、手数料も高い。使う側の論理からすると、安くて早くて便利なものに魅力を感じるのは自然なことなのです」
大統領から法案を託され、米マイアミ市で開かれていたビットコインカンファレンス2021に大統領とともに登場したStrike社のジャック・マーラズCEOは、ビットコインは既存の中央銀行の仕組みと違って、人を「差別しない」と強調している。
「ビットコインはニューヨークでも、エルサルバドルでも同じなのです」
マーラーズ氏はエルサルバドルに来て数ヶ月間暮らすうちに、地元の少年にこういわれたという。
「僕のお父さんも、おじいちゃんも漁師でした。僕も魚を獲っているけれど、ビットコインを持つまでは銀行口座など、だれも持っていなかった。そんな僕も、BTC価格が上がれば、豊かになることが出来るかもしれない」
藤巻氏「信長の発想と同様」
マーラーズ氏は続けて「彼は銀行口座も、預金口座も持っていないけれど、ビットコインウォレットは持っている。分散化された仲介機関のネットワークには、バイアスがないので、彼を拒否することはありません」と語る。つまり、彼らも経済活動の基礎となる信用創造を築くことが出来る。これまで既存通貨の金融ネットワークの中で、存在しないかのように無視されてきた彼らの存在も、先進国に住む人たちと同様に、ビジネスチャンスを広げることが出来るかもしれないというのだ。

エルサルバドルの前代未聞の挑戦に、藤巻氏はあの日本の戦国武将の政策を引き合いに出す。
「日本でいえば古くは織田信長が作った戦国時代につくった「楽市・楽座」の制度と似たようなものです。織田信長は天下を統一するためには、武力だけでは出来ない、経済の力も必要だと考えたのです。楽とは自由という意味で、以前は土地の所有者に場所代を払わなければ店を出すことさえ許されていなかった。
これを信長が規制緩和したことで、それまで支払わなければならなかった税を免除して誰でも自由に商売が出来るようにしたのです。エルサルバドルの大統領の発想も同様です。国民が決済制度に加わって、自由に経済活動ができるようにするために、暗号資産を組み入れようとしているのでしょう」
エルサルバドル大統領は、果たして国を豊かにして、“天下”を獲ることができるのだろうか。すでに計画は動き始めているようだ。
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