“混ぜるな危険” 安全保障か?ナショナリズムか?国際投資規制がはらむ微妙な問題とは

佐々木れな『国際問題:リアルとセオリーの結節点』#18
ジョンズ・ホプキンス大学博士課程在学
  • バイデン政権が対中投資制限を本格化。国際投資と国際関係の関係を考察
  • 国家安全保障を理由に国際投資への国家の介入が急増。複雑な背景とは?
  • 投資規制の「真意」、安全保障と経済ナショナリズムを「混同」する危険

この連載の目的は、今世界で起きている国際問題を、国際政治学の理論やフレームワークで説明することである。理論やフレームワークは、今起きている国際問題の複雑な情報を構造化し、論理的に思考する一助となる。

第18回は、アメリカによる対中投資制限の発表でも注目される対外直接投資(FDI)やその他の国際投資が、国際関係にどのような影響を与えるのかについて分析する。

バイデン政権「対中投資制限」本腰か

バイデン政権は、8月10日、国家安全保障に重大な影響を及ぼすおそれのある特定の機微技術について、対外投資規制を設ける大統領令を発出した。

8月6日、視察先のサウスカロライナ州で太陽光発電技術の説明を受けるバイデン大統領(ホワイトハウス公式写真より引用 by Adam Schultz)

この大統領令の具体的な運用は今後米国財務省と商務省が中心となって決定するものの、現時点で、①半導体とマイクロエレクトロニクス、②量子情報技術、③人工知能の3先端技術分野への「米国人」(米国籍の個人、永住権者、米国法人とその海外支店、及び米国内にいる者)による投資に報告義務を課すとともに、一部の分野について投資を禁止することを意図したものであることが明らかになっている。

本大統領令の規制対象となる投資先国は、中国(香港、マカオを含む)であり、バイデン政権がこれまで進めてきた対中技術封じ込めのため施策の一つといえる。サリバン国家安全保障担当大統領補佐官をはじめとするバイデン政権高官は、これまで中国に対する経済安全保障措置は、「小さい庭を高い塀で囲む(small yard, high fence)」という、国家安全保障上の利益に密接に関係する分野のみで措置を取るというアプローチであり、中国経済全般を弱体化させるものではないと主張してきている。

しかし、今回の大統領令は、バイデン政権がずっと検討してきていると言われている中国に対する全体的な投資規制(outbound investment screening)の到来を予期させるものでもある。

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ジョンズ・ホプキンス大学博士課程在学

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