選択的夫婦別姓のリアル① 稲田朋美「左右の不毛な対立はもうやめませんか?」
稲田案「婚前氏続称制度」とは?保守派主張では残る法的問題- 議論再沸騰の選択的夫婦別姓。注目の自民党、稲田議員の独自案に迫る
- 「稲田案」は旧姓使用の「実用性」と、家族としての「氏」を両立
- 旧姓(通称)使用拡大だけで解消できない実社会の問題点
「選択的夫婦別姓」の議論が活発化している。IT企業社長や映画監督らが近年、選択的夫婦別姓を認めないことが憲法違反だと国を訴える訴訟が相次ぎ、自民党内も今年に入って賛成派と反対派が盛んに動いている。
とはいえ長らく膠着していたのは反対派の保守側と、推進派のリベラル側の議論が紛糾し、必要を訴える当事者の声をよそにイデオロギー闘争となって議論が進まなかったためだ。そんな中、自民党内で保守派を自認する稲田朋美氏が、選択的夫婦別姓に柔軟な対応をみせはじめたことが注目される。稲田氏の「変化」を嫌う保守派が多い中、その真意はどうなのか。SAKISIRU編集部が、虚心坦懐に迫った。
――「SAKISIRU」は、「右でも左でもなく前へ進む、リアルな課題解決志向」をテーマにした新しいサイトです。
【稲田】それ、いい!(拍手) 私は「保守」を自認していますが、今の議論は「右か左か、敵か味方か」に拘泥しすぎて、お互いに足の引っ張り合いをしているところがありますよね。でも日本には左右で喧嘩して議論を遅滞させていられるような余裕はもうなくて、どうすればより多くの人が幸せになり、自分の力を存分に発揮して、日本を押し上げられるのかを考えなければならない、そうでなければ沈没しかねないところに来ています。
もちろん、これまでの議論の積み重ねは重要ですが、基本的には前を向いて、現実に即して物事を進めていかなければなりません。どうしても「右か左か」にとらわれて、当てはまらない議論はどちらの媒体でも取り上げられないという状況がある中、「右でも左でもなく、前へ」という媒体で、「結論ありき」ではない議論ができるのはありがたいです。
――そこで、今回は現在問われている「選択的夫婦別姓」議論においての、稲田議員の試案についてお伺いしたいと思います。
【稲田】私が提唱している「婚前氏続称制度」は、結婚前の旧姓を、届け出によって法的に使えるようにする制度です。「旧姓届出制度」と言った方がわかりやすいかもしれませんね。昭和51年に「婚氏続称制度」という、届け出によって結婚時の氏(婚氏)を離婚後も使い続けられる制度ができました。これと同じように、結婚後も旧姓(婚前氏)を法的な場面で使えるようにするというものです。
結婚後の家名(ファミリーネーム)としての夫婦や子供との統一した姓はそれとして持ったうえで、個人として、仕事上や法的な場面で旧姓を続けて使いたい場合にはそれが可能になります。民法を改正して、例えば企業の登記や口座名義、パスポートや免許証の名前、国家資格の免状その他、法的な契約関係などを旧姓(婚前氏)のみで行えるよう、民法を改正しようという案です。

――稲田議員はともすれば「選択的夫婦別姓に賛成している」かのように受け取られていますがそうではなく、夫婦同姓、親子同姓を残しながら、旧姓を法的に使えるようにしよう、ということですよね。少なくともこれによって、実用面はカバーできる、と。
【稲田】はい。日本の伝統的な考え方、つまり家族のアイデンティティーとしての「氏」は残しつつ、現在の新しい家族や、現状、結婚後に氏が変わることが96%以上になっている女性の、現在のあり方に対応できるように、個人のアイデンティティーとしての結婚前の姓を法的な場面で使い続けることができる制度を考えています。
現在、与党内の「夫婦や家族の姓のあり方」については、大まかに分けて5つの立場があり、グラデーションになっています。最も保守的とされる側から挙げていくと、「夫婦同姓絶対視」、「通称(旧姓)使用の拡大」、そして私の「婚前氏続称制度(旧姓届出制度)」があり、「選択的夫婦別姓だが、子供の姓は統一」、そして「選択的夫婦別姓で、子供が複数の場合は子供ごとに夫婦どちらかの姓を名乗っていい」とする最もリベラルな案まで幅広く存在しています。
私の提唱している「婚前氏続称制度」と、保守の方々の多くが「ここまでは認めてもいい」と考えている「通称(旧姓)使用拡大」の最大の違いは、民法を改正するかどうか。「通称使用拡大」は民法を改正せず、あくまで通称として使える場面を増やしていこうというもので、すでに認められている免許証や住民票などに「旧姓を併記する」方向の延長線上にあるものです。
ただし、これはあくまでも「通称」でしかなく、納税や登記などには適用できません。しかも法的に認められていないものの使用範囲を拡大してしまうことは、制度として不安定ではないかとも思うのです。外国人の通名などの問題と重なるところもあり、どこからどこまでが「通称」として認められるのか、法的に使えるのか、線を引く必要がある。そうでないと結婚後の姓との区分けも難しくなりかねません。
――すでに通称の使用が拡大されていることで、「それで事足りるんじゃないですか」という声もあります。
【稲田】確かに通称の使用は拡大されてきてはいます。例えば女性議員の場合、旧姓で政治活動をしている人も少なくありません。以前は閣僚としての署名は「本名(実名)」でなければならないという取り決めがありましたが、その部分は近年改善され、旧姓(通称)での署名でも問題ない、となったようです。
しかし一方で、例えば国や都道府県が国民に授与する賞状などは、「本名」でなければならないという決まりがあります。そのため、大阪府知事だった太田房江さんが賞状を授与する場合には、本名である「斎藤房江」と記載しなければならず、受け取った人から「これでは誰からもらったのかわからない。『太田房江』名に書き換えたものを改めて頂けないだろうか」と要望されたこともあると聞きます。
また、国会議員や閣僚は顔と名前が一致していますし、海外に渡航する際もいわば特権があるのでほとんど顔パスですが、ジャーナリストや学者の方などは、パスポートに旧姓をカッコ書きで入れていても、相手先の入管で引っかかってしまうことも多い。海外から招待を受けた際も、社会的に活動している通称(旧姓)でホテルなどを予約しておいてもらったために、パスポートやクレジットカードの名前と違ってトラブルになる、というケースもある。
国内でも、旧姓で仕事をしている人は振込先の口座名や契約書には本名を書かねばならないし、結婚前の業績との連続性が必要だからと旧姓で活動し、会社を立ち上げても、株式や会社の登記は本名でなければなりません。ホームページに代表取締役として掲載されている名前と、実際の書類の名前が違う、というような齟齬が出てきてしまうわけです。
――法的に使えるのは、旧姓か新姓かのどちらかにしておかないと、両方でローンを組んだり口座を作ったりできるようになりかねず、そのために生じた「グレーゾーン」を悪用しようと思ったらできてしまいそうですね。
【稲田】法的な契約関係などの事例にも通称の使用拡大で対応しようというなら、通称に法的根拠を持たせた方がいい。そのために民法を改正すべきではないですか、一方には家族の氏を残しながら――というのが私の意見で、これが「事実上の別姓容認論」とみなされるのはどうも変だなと思うんです。「ここから先が別姓容認」と線を引く位置が違うのではないでしょうか。(②につづく)
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