原爆の日デモ騒音、広島市の対策強化めぐる「産経 vs. 地元紙」ご都合論調のウラ

平和都市の「知られざる苦悩」
  • 広島原爆の日のデモ騒音問題で市の規制に新しい動きが出たが…
  • ついに負傷者。産経が「市がデモ団体に過料検討」と報道して波紋
  • 地元紙の報道も微妙なデモ問題。平和都市の知られざる苦悩とは?

広島市の原爆の日(8月6日)で毎年、平和祈念式典の最中に左派団体のデモが騒音を立てている問題で、市は今年のデモ現場でけが人が出たことから、26日の市議会で対策強化に乗り出す方針を明らかにした。

その一方で、この市の新たな動きについて、デモ規制に前のめりな保守勢力の意向を踏まえた産経新聞と、騒音デモの問題に長年消極的にしか取り上げてこなかった地元紙・中国新聞との間で温度差もあり、市政関係者が「新聞各紙がポジショントークで報じるため、本当の動きが十分に伝わっていない」と嘆く異常事態に陥っている。

今年の8月6日の式典中も騒音を出したデモ隊

騒音止まず、ついに負傷者も

デモは毎年、中核派などの団体が催しており、平和記念公園(広島市中区)の敷地のうち式典会場のある三角州の対岸にある原爆ドーム周辺に集結した後、川沿いに南下して行進している。

「反戦・反核」を訴えてはいるものの、それに便乗して過去には「アベ(安倍晋三前首相)たおせ」などと時の政権批判のキャンペーンも展開。歴代首相の挨拶や広島市長による平和宣言など静寂が求められるシーンでもお構いなしに騒音を立てたことがあると指摘されてきた。

広島市は長らく黙認してきたが、近年になり、ネット上でデモの“無法”ぶりを批判する声が噴出。デモ団体に静粛を呼びかける横断幕が貼られ、デモを批判するデモ隊まで出現して事態が一層紛糾した。

市もようやく動き出し、2019年からデモの団体側と協議を開始。デモ中の音量を一定基準以下にすることで合意したが、実態はあまり変わらなかった。市がここ数年、並行して式典参列者に行ったアンケートでは拡声器の影響を指摘する声が相次ぎ、今年は76.4%の人が「拡声器からの音量を下げるよう要請するのは適切だ」と回答した。

21年6月には市議会主導で「広島市平和推進基本条例」が制定され、「広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式を、市民の理解と協力の下に、厳粛の中で行うものとする」と定めたが、デモ側に歯止めが効いておらず、それどころか今年のデモの現場では小競り合いの中で負傷者が出た。

産経スクープが波紋呼んだワケ

事態の深刻化を受け、市の対応が注目された中、地元で波紋を広げたのが産経新聞による今月15日の報道だった。産経は、松井一実市長が文書で回答した内容として、「広島市は、市公園条例が禁じる『迷惑行為』として団体側に過料を科す方向で検討を始めたことが分かった」と特報した。過料は行政罰による罰金で、デモの実質的な規制として明らかにフェーズが変わる。

ところがこのスクープは、地元紙・中国新聞をはじめ、読売などの全国紙他社も直ちに追いかけなかった。それどころか報道が出た日、ある市議が「産経の報道は全く寝耳に水。担当職員も唖然としていた」と困惑するような状況で、議会側とも十分な根回しができているわけではなかったようだ。

なぜ波紋が広がったのか。産経が記事で挙げたのは現行の市の公園条例で「公園の利用者に迷惑を及ぼすような行為」の違反者に対して定めている5万円の過料のことだった。迷惑行為は同条例5条で規定されているが、記事で読める限りでは、松井市長が産経に対して述べたのは「第4条の適正な運用も含め、県警とも連携しながら検討する」だ。

市長が述べた第4条は公園内での集会に際して市長宛に申請書を提出し、許可を得るように定めた規定だが、産経は5条の迷惑行為の方に力点を置いており、要は微妙に噛み合っていないのだ。

ある市政関係者は「市議会の自民会派の中でもデモを厳しく批判してきた何人かいるが、その中の1人と左翼嫌いの産経記者が結託していることが煽りに拍車をかけている」との見方を示す。過料を科す場合、摘発は県警が動くことになるが、「事実認定をどうするかなど、警察と詰めるべき実務的な課題は少なくない」(同関係者)。

肝心な話をスルーする地元紙

一方、中国新聞の反応はどうか。ここ数年、ネット上でデモが問題視されるようになってからも積極的に取り上げてきてこなかった。それどころか、平和祈年式典を「厳粛の中で行う」と定めた先述の「広島市平和推進基本条例」が市議会で討議されている時にも、左派の市民団体に配慮し「広島市議会の案に疑問の声も」(21年2月15日)などと批判的に報じた。

広島市中区の中国新聞社本社(photo taken by Taisyo GFDL,cc-by-3.0

今年のデモで負傷者が出た時も中国新聞の報道はなし。産経が特報した過料検討の話もすぐに追いかけなかった。そして26日の市議会建設委で、市が「負傷者」「過料検討」を答弁したことに乗っかる形でようやく取り上げたが、ある市政関係者は「建設委で出た話なのにさらに重要なことが報じられていない」と指摘する。

この日の建設委では、自民の市議が来年の8月6日に向けた対応についてただすと、市側は「このような集団(デモ団体)が原爆ドーム前に集まることがないよう対処する」と明らかにした。一連のデモ問題で平和記念公園から遠ざける方針を示したのは初めてで、ニュースバリューがそちらの方が高そうだが、中国新聞はなぜか記事では触れなかった。

市の関係者によると、デモの「代替地」として、旧広島市民球場跡地に今春オープンした公園施設「ひろしまゲートパーク」などが候補に上がっているという。同公園は、これまでのデモ会場だった原爆ドーム周辺から国道183号線を挟んで反対側に、200メートルほど離れた場所になる。

デモ問題に積極的すぎる産経と消極的すぎる中国新聞のポジションが二極化しているので、市民にリアルな現状が今ひとつ伝わりきれていない」と市政関係者。平和都市の政治行政とメディアの間には、知られざる苦悩が横たわっている。

 
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