米中対立で引き裂かれる日本……そうなる前にやるべきこととは
3つのジレンマと、やるべき「宿題」- 日本の対中政策、「経済と安全保障のバランスどう取るか」が第2のジレンマ
- 第3のジレンマが「中国の軍事的な脅威にどう対抗していくべきか」
- いざというときパニックにならないために普段からシミュレーションを
元外交官・田中均氏の『ダイヤモンド』誌掲載論文を検証しながら、「米中対立から生じる3つのジレンマに、日本はどう対応すべきか」を、引き続き考えていきたい。前回記事に書いた通り、第1のジレンマは「中国を穏健化させる方法」だった。続いて、第2、第3のジレンマについて見ていこう。

米中の狭間で日本はどうすべきか?
第2のジレンマは、経済と安全保障のバランスの話である。
これは第1のジレンマの議論にも直結している。しかも、とりわけ日本の場合に顕著だ
「米中の対立が激化したとき、最も被害を受けるのは日本である。中国は日本にとって最大のマーケットだが、日本の安全保障はアメリカに依存しているのだから」という議論がある。
たしかにその通りだ。さらに、もし米中対立が深刻化する事態になれば、民主的な価値を共有して同盟関係にある日本はアメリカにつくしかなくなる。だが、そうなると中国との経済関係が大きな打撃を受けることになる、ともいう。これも正しい。
ところが常にここで「外交のプロ」たちの論理が飛躍する。なぜならそこから、「そうならないためにも、日本が中心になって国際的な協調体制を構築し、米中に自制を求めたり、その仲介役を買ってでるべきだ」というからだ。
具体性のない「理想論」
これは一見すると、非の打ち所のない議論のように思える。ところが果たしてそのようなことが可能なのだろうか?
田中論文でも、〈米国と外交や安全保障などで共同歩調を取る必要はもちろんあるが、同時に中国を巻き込みルールに基づく経済圏を構築していくのが日本にとって必須となる〉としている。
だが、この種の議論からは、具体的な方策について踏み込んだ話はいつも出てこない。
もちろん私も、日本は米中に自制を求める「べき」ではあると考える。
だが果たしてそのようなことは、実際に可能なのだろうか? 日本にこの両国を自制させるだけの手腕や方策は、そもそもあるのだろうか? という疑問は確実に残る。
「中国をルールに従わせよ」は不十分
第3のジレンマは、「中国の軍事的な脅威にどう対抗していくべきか」という点だ。
田中論文では、〈(対中包囲網の意味合いの強い)「インド太平洋」だけではなく、「アジア太平洋」の概念を進め、対中圧力一辺倒ではなく中国を協力に引き込みルールを守らせていくことが日本の国益にかなうことを今一度、認識するべきだろう〉とする。
もちろん分野が違うので仕方がないにせよ、田中氏のような「外交のプロ」の人々に決定的に欠けているのが、このような安全保障や戦略面からの視点だ。

その一例が国防費である。中国のそれは、表に出ている数字だけでも1990年度から2020年度までの30年間に、なんと44倍という驚異的なペースで拡大し続けている。
ところが日本は長年にわたって、国防費は1%の上限を超えていない。わかりやすいところでは、海上自衛隊の艦船の保有数では130隻前後、中国に至っては350隻以上と、すでにアメリカ海軍の290隻と言われる数を上回り、世界最大の艦隊数を誇っている。
尖閣の守りについては、日本はアメリカから「日米安保の第五条のコミットメントを守る」とたびたび確認してはいるが、それでも日常的な中国の海警の艦船の侵入に対する抑止効果は限定的だ。
このような深刻な軍事バランスの変化の問題に対して、外交のプロたちは何も答えをくれず、ひたすら「ルールに従わせよう」というだけだ。
このように、われわれを不安にさせる「ジレンマ」に対して、実は雑誌やテレビのようなメディアに出てくるプロや実務家、さらには専門家や学者たちも、実は明確に答えをもっていないし、ましてやコンセンサスなどがあろうはずがない。
つまり彼らは「宿題」をやっていないのだ。
だからこそ私が提案したいのは、このような「誰も議論していなかったようなことを議論しなければならなくなる状況」に備えて、いまからでも政治レベルで議論しておくべきである、ということだ。
でないと、日本はパニックに陥りかねない。
そうならないために、どうすべきか。最後に、「宿題」に取り組むうえでのヒントを提示しておきたい。

スパイクマンが教える「備え」
ニコラス・スパイクマンという戦前のオランダ出身のイエール大学の学者がいる。この人物は戦時中の1943年に若くして亡くなったが、その前年に出した主著『世界政治と米国の戦略』(邦訳:芙蓉書房出版)の中で、
今回の戦争が終われば、アジアでは中国がいずれ統一して台頭し、アメリカを西太平洋に追い出すかもしれない。
と現在を見通すようなことを述べているが、なぜそういう可能性を指摘できたかといえば、普段から学生たちと外交の机上演習、つまりシミュレーションを行っていたからだ。
ここにヒントがある。
日本の政治家や専門家たちは、上記のようなジレンマに直面する時のために備えて、普段からシミュレーションをしておくべきだ。防災訓練と同じく、普段からやりなれていないことは、たとえ老練な政治家であっても対処できないからである。
【おしらせ】 奥山真司さん監修『クラウゼヴィッツ: 「戦争論」の思想』(勁草書房) が近日発売されます。
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