日本の最高権力者を「決定しない」自民党総裁選挙

総理が「雇われ経営者」でいいのか?
国際政治アナリスト、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員
  • 自民党総裁選の勝利者は本当に「最高権力者」なのか?渡瀬氏のコラム
  • 派閥の領袖でない総理、無派閥の総理では、株主を握られた経営者状態
  • 岸田氏は派閥領袖だが、古賀氏の影響力や森友再調査巡る優柔不断から不安

現在の日本の政治構造においては「自民党総裁=内閣総理大臣」であり、自民党総裁選挙とは日本の最高権力者を決める選挙であるはずであった。

もちろん形式上は上記の構図は何も変わっていない。今度の自民党総裁選挙で選ばれた人物は内閣総理大臣に就任するだろう。しかし、その内閣総理大臣が日本の最高権力者であり、つまり自らの政治判断に自分で責任を取れる人物であるかは別問題だ。

自民党本部(oasis2me /iStock)

総理になっても「雇われ経営者」

自民党総裁選挙の顔ぶれを見れば分かるように、いわゆる派閥の領袖は宏池会を率いる岸田氏しか存在していない。対抗馬として有力視される河野氏は派閥の領袖ではなく、日本初の女性総理を期待される高市早苗氏に至っては無派閥議員である。

河野氏が派閥に所属しながら領袖ではないということは、仮に総理になったとしても「出身派閥内に自分よりも立場が上の議員が存在している」ことになる。また、無派閥でしかも自らを支援するグループ(事実上の派閥)を有していない高市氏は、党内の元総理経験者や有力な領袖には常に頭が上がらない状態となるだろう。(派閥の領袖でなくとも安倍元総理のように総理総裁を経験し、事実上細田派のオーナーであった人物は別。)

内閣総理大臣は日本を代表する顔であり日本の最高権力者である。対外的にはバイデン、習近平、プーチンなどの国家元首とやり合う立場の人物だ。その人物よりも上の立場の人間が自民党内に存在し、国家元首同士の話し合いについて常に帰国してから相談するような状態で良いのだろうか。

他国から見れば自らの権力基盤すらまともに持っていない人物は、株式を他人に51%以上握られている「雇われ経営者」にしか見えないだろう。普通の感覚を持った相手なら、まともな交渉相手と見做されないことは明らかだ。その総理は自らの言葉に何も責任が取れないのだから当然だ。

安倍・麻生・二階の間で不安定な政権であった菅総理も無派閥議員の中に通称菅グループと呼ばれる自らを支える議員団を持っている。したがって、菅総理は事実上の領袖の1人と見做して良いだろう。それでも政権の安定運営には厳しいものがあったが、今回の総裁選挙の多くのメンバーは菅総理以下の権力基盤しか党内に有していない。

昨年3月、安倍首相(当時)に現金給付申請の申し入れをする岸田氏(官邸HP)

自分の決定に責任取れない総理は不要

したがって、岸田氏以外の総裁選挙の各候補者が自らの政見や政策を示しているが、筆者はそもそも検討する意味すらないものと思う。なぜなら、それらの候補者はその政策を実行するだけの十分な権力を有していないからだ。自分で責任を持って実行する力もないのに、できもしない口約束だけする似非経営者みたいなものだ。

では、宏池会の領袖である岸田氏はどうだろうか。岸田氏が派閥の領袖である間も宏池会の事実上のオーナーが古賀誠元幹事長であったことは広く知られていることだ。古賀氏は昨年段階で名誉会長を引退して派の名簿から削除されたとされているが、それでも同氏が派内で隠然たる影響力があることは誰も否定しないだろう。過去に古賀氏と岸田氏の演説を派閥のパーティーで見たこともあるが、古賀氏の演説の迫力は群を抜いていた。したがって、岸田氏は領袖という点で他候補者よりも自らの言葉に責任を持っているが、それでも総理総裁としてその判断を信用するかには些か不安が残る。直近の森友再調査などに関する優柔不断なブレ方も気になる。

筆者は自民党総裁選挙に不満である。なぜなら、党内の真の権力者が出馬しないからだ。はっきり言えば、安倍、麻生、二階の三氏で総裁選挙をやるべきである。

党内で三氏の力にかなう人物がいない。政党として自らの言葉に責任がある候補者を総裁選挙に立てることは、国民に対して真摯な態度だと言える。最低限、党内で自らのグループを形成するだけの力がある派閥の領袖が候補者になるのが当たり前だ。

自民党総裁よりも自民党内で最も力を持つ人物がいることは自民党内の問題だ。しかし、内閣総理大臣ではない最高権力者が他に存在することは、自民党が国民を馬鹿にしているということだ。自分で自分の意思決定に責任を取れない総理は不要である。

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