米国バブルが日本に地獄をもたらす
インフレリスク、歴史的な教訓- 米FRBが大規模な金融緩和政策を継続、藤巻健史氏が日本への影響を占う
- インフレリスクある中での緩和続行、FRBはバブル当時の日銀と同じ過ち
- 想定を超えるインフレが起きれば、ゆくゆくは日銀の債務超過危機も
米連邦準備理事会 (FRB)は28日のFOMCで 大規模な金融緩和政策を続けることを決めた。その後の記者会見で パウエルFRB議長は 「物価上昇は一時的だ」と何度も繰り返したそうだ 。市場をどうにかして説得したかったのだろう。そうしないと長期金利の上昇を抑えきれないからだ。
#FOMC Chair Powell delivers opening statement at the #FOMC press conference: https://t.co/sh1FXgYlwr pic.twitter.com/ml3H20yvMN
— Federal Reserve (@federalreserve) April 28, 2021
4月30日の日本経済新聞はこの件に関する記事のタイトルを 「米、過熱覚悟の 緩和維持」とし、サブタイトルを「FRB『物価上昇は一時的』市場は疑念 」とした。市場は FRBを100%信じているわけではないし、 FRB自身も景気過熱のリスクを否定しきれないということだろう。
市場だけでなくインフレリスクを明確に懸念しているサマーズ元財務長官のような学者も数多い。1.9兆ドルもの経済対策による現金給付を行い、インフラなどに8年間で2兆ドル超を投じる「米国雇用計画」をバイデン大統領がぶち上げているからだ。
さらにはFRBが、国債を買い取ってお金をじゃぶじゃぶに供給しているのだから、貨幣価値の減価(=インフレ)懸念が出るのは当然だ(注:それでもGDP対比での国の借金総額、中央銀行の資産規模は、日銀よりは、はるかにまともで、健全)
FRBはバブル時の日銀の轍を踏む?
私自身は、バブルの経験からして米国経済は過熱するだろうし、それは日本に悲劇をもたらすと思っている。
1985年から1990年までのバブル時の日本の経済は狂乱経済とまで言われた。 東京中を建設資材を積んだトラックが走り回り、盛り場にはタクシーを拾う長蛇の列が出来た。飲んだ後にタクシーを捕まえるのは一仕事だった。
お立ち台でミニスカートの女性達が踊りまくるディスコは深夜までにぎわい、バブルの象徴といわれた(ディスコができたのは実はバブル崩壊の翌年なのだが)。皆、朝起きると「今日はいくら儲かるか」と胸算用しながら出社したものだ。
株の値段は5年間で3倍になり史上最高値(1989年12月に38915円)を記録。土地は公的数字には明確に表れなかったが巷では約10倍に跳ね上がったといわれた。千代田区六番町の1種住専の土地が坪6000万円で売れたとの話もあったほどだ。この狂乱経済は土地、株、絵画等の資産が上昇したことで起こる資産効果( 値が上昇した株等を持っている人たちが お金持ちになった気になり消費を増やす。それを見て 株価がさらに上がるという好循環が起こり景気を持ち上げる)によって引き起こされた。
この時、日銀は、CPI(消費者物価指数)の動きのみをモニターし、資産価格の高騰に意を払わず、引締めが遅れた(注:土地や株の値動きはCPIの計算に入らず、これらが上昇してもインフレとは言わない)。引き締めが遅れた結果、バブル崩壊で日本は「失われた30年」を経験してしまったのだ。
当時の澄田智日銀総裁は、バブル崩壊後にこう反省している。
確かに87年頃から東京の地価は 2ケタの上昇率を示し、株価もかなり速いペースで上昇していました。それなのにすぐに金利引き上げを 実行しなかったのは、後から考えると、認識が不十分だったと答えるしかありません。そもそも消費者物価などの指標があまり過熱していないのに、のちにバブルと呼ばれる資産価格だけが上昇する現象は、日本では初めてのことで、世界でもそれまで指摘されていなかった現象でした。(略)ただ、土地や株、それに書画や骨董といった資産の価格だけが急激に上昇している意味を早く見抜けなかったことについては、私がその責めを負わなければならないと思っています(出典:日経ビジネス『(真説)バブル』(日経BP)p275)。
現在の米国も、株は5年間強で2倍、史上最高値だ。史上最高値ということは、ならして言えば株で損している人はおらず、その資産効果は強烈だ。米不動産価格も、絶好調のようだ。それなのにパウエル議長からは、資産価額高騰に関する懸念が聞こえてこない。CPIの動向への 関心のみのように思える 。
パウエル議長は、バブル真っ最中の澄田日銀総裁と同じ間違いを犯していると思うのだ。資産効果の景気に対する押上げ効果をあまりに軽視し、引き締めどころか、更なる緩和を推し進めている。
想定を超えるインフレリスク
さらに今の米国が当時の日本以上のインフレリスクを抱えていると私が思うのはドルが安定的なことだ。
バブル当時、狂乱経済だったにもかかわらず、CPI(全国総合。除く生鮮食品)が1986年から88年の3年間、0.5%と、今の日銀の目標である2%より低かったのは、毎年40円もの円高が進んでいたからだ(注・1984年末1ドル=251.58円、85年末200.60円 86年末160.10円、87年末122.00円)資産効果による狂乱経済という強烈なインフレ要因を、強烈な円高というデフレ要因が相殺していたのだ。そのデフレ要因が、今の米国にはない。(注・1988年末に1ドル125.90円、89年末に143.40円とドル/円が反転したことで89年のCPIは3.0%に急騰している)
その結果、米国には、パウエル議長はもちろんのこと、市場が想定しているよりもはるかに強烈なインフレが起きると思っている。右顧左眄するFRBは急速に長短金利を引き上げねばならないだろうし、急激なインフレを抑えるために米国はドル高政策を宣言しなければならなくなるのではないだろうか。1980年、米長期金利が20%を越えたことを忘れてはならない 。
米国のドル高政策宣言に加え、日米金利差急拡大でドル高円安進行、それによって日本の景気も急回復し、インフレ率も上昇する。
日銀の「債務超過」危機
そうなると日銀も遅まきながら引き締めへの転換が不可欠となる。しかし日銀には、黒田東彦日銀総裁が、「議論するのは時期尚早」と繰り返された「出口」がないのだ。引き締めを行えば日銀が債務超過に陥ってしまう。
保有国債の利回りが著しく低い(=購入価格が高い)ので、長期金利が少しでも上昇(=価格が下落)すると、評価損が発生する。保有額が巨額ゆえに評価損は半端な数字ではなく、時価評価で巨大な債務超過に陥る。短期金利を引き上げれば、損の垂れ流しで簿価会計でも簡単に債務超過に陥る。
澄田元日銀総裁は前掲の書籍の中で「私は、中央銀行の第一義的な使命は通貨価値の安定だと考えていました 。そして それが日本経済全体を安定させる最善の道だと信じていました 」と述べられている。日銀の債務超過は、通貨の信用を喪失させる最大の原因であり、日銀の第一義的な使命が失われるのだ。
私が最初の方で米国経済の過熱が日本に悲劇をもたらすと述べた理由である。
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