関西スーパー争奪戦を見ていたら、自民党の「株主軽視」公約が不安

「四半期決算」見直しで企業統治に甘え
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

総選挙がすでにスタートしているが、岸田首相の掲げる「新しい資本主義」は、これまでになく分配を重視しており、株主資本主義からのシフトを強く感じさせる。当初、打ち出した金融所得増税は引っ込めたものの、次に出してきたのは上場企業の四半期開示の見直しだ。

自民党「令和3年政策パンフレット」

「四半期開示見直し」で内部留保は減るの?

名目は、長期的な研究開発や人材投資を促進させるためとしているが、株主に突き上げられる産業界の意を汲んだ経産省の旗振りと見ていいだろう。日経によると、確かにイギリス、フランス、ドイツでは制度上は廃止したが、それでも任意開示(イギリス、フランス)や取引所規則(ドイツ)の形で実質的には継続している。アメリカはそのまま継続している。

四半期開示見直しを打ち出した際、高市政調会長は「新しい資本主義」を引き合いに「株主だけでなく従業員や取引先、消費者、社会への貢献などについて企業は検討が必要」と述べたそうだが、社会貢献では企業はメシを食えない。高市氏は「短期的に利益をあげることだけ考えると、長期的な人材・研究開発投資ができない」と強調するのは一見すると、もっともらしく聞こえるが、透明性を落としただけで、500兆近くにまで積み上がってきた内部留保が本当に人的投資などに有効に使われるのか、全くもって疑問だらけだ。

むしろ経営者側にフリーハンドの余地を大きくするばかりで逆効果の可能性があるのではないか。たまたま内部留保が積み上がっていたことで、コロナ禍を乗り切った企業も多い上に、企業が投資をしないのは、日本の市場そのものが長らく成長性を企業側に感じさせず、不透明感を払拭できないことが原因ではないのか。

四半期開示見直しは、俗っぽい言い方をすると企業側のガバナンスの「甘え」につながる面は排除できないのではないか。世の中の経営者は、株主の利益を考えるという資本主義の大原則の上に、顧客、社員、社会など「三方よし」の経営をマジメにする奇特な人たちばかりではない。時には知名度や伝統のある上場企業とて、そもそもの株主利益を度外視したり、「私物化」したりする経営者だって存在するのだ。

株主から疑問噴出、関西スーパー

Lowell Silverman /Wikimedia Public domain

最近の例で思い浮かぶのは、東証一部上場の関西スーパーマーケット(本社・兵庫県伊丹市)を巡る買収合戦だ。同社に対し、関東地方でスーパーを展開するオーケー(同・横浜市)が株価の2倍という好条件でTOBによる買収を提案したにも関わらず、なぜかエイチ・ツー・オー リテイリング(H2O:阪神・阪急両百貨店を傘下に持つ持株会社)の子会社2社(イズミヤ、阪急オアシス)との株式交換の形による買収に応じる方針を明らかにした。

関西スーパーは5年前、H2Oに対し第三者割当増資を行い、10%分を付与するなど関係性はあった。「遠くの同業者より近くのおなじみさん」を選んだのかもしれないが、問題は、株式交換するH2Oの子会社が非上場で、しかも赤字である点だ。①市場で価格のつかない株との交換か、②TOBでしかも2倍の価格となれば、常識的に考えても②が株主にとって得かは明らかな話だ。今月6日は日経の社説にまで掲載されて、

H2O子会社は非上場で市場価格がなく、オーケーの現金買収の提案と比べてどちらが有利か分かりにくい。H2O案を支持する関西スーパーから、もう一段の丁寧な説明がほしい

とまで指摘される始末。こうなると、関西スーパーの主要株主からも疑問の声が噴出する。約4%を保有する第4株主の伊藤忠食品が12日に関西スーパー側に質問状を送りつけ、公正な価格での買い取りがなされるのか疑義を呈した。さらに19日には、9%余の株を持つ第2株主の取引先持株会からもH2Oとの統合に疑問を持つ声が出たとして、賛成一括での議決権行使が見送られた。

株主軽視政策は本末転倒

株主たちがおそらく疑念を抱いたであろう理由の一つが、関西スーパーとH2Oとの不可解な関係だ。ダイヤモンドオンラインが今月8日、元H2O取締役の関西スーパー幹部が「橋渡し役」として暗躍していたとの話を報じており、「ほぼ身内」とも言える取引先持株会からもノーを突きつけられた格好だ。

なお、関西スーパー側も、H2Oの林克弘副社長が遅まきながらメディア(東洋経済)の取材に応じ、子会社の赤字の件は特損などの一部の数字による誤解だ、などと釈明に必死だ。関西スーパーが自分たちを選んだのは、ディスカウント型の商売をするオーケーとの経営志向が合わないからだと強調しているが、ダイヤモンドに指摘された幹部の存在については言及していない。

話を自民党の四半期開示見直しに戻すと、H2Oのような関西の名門企業でも、説明不足、透明性の不足で「株主軽視」と受け取られる騒ぎを起こしている現実が、日本の上場企業にあるのだ。

なるほど、世界的に、ひと頃、強欲と言われた株主資本主義の見直しは進んでいる。アメリカでは2年前、日本の経団連にあたるビジネス・ラウンドテーブルが、株主利益だけでなく、従業員や地域社会を尊重する経営を打ち出して話題になった。岸田政権の「新しい資本主義」はこうした潮流を意識しているのは間違いない。しかし、「有権者受け」を狙うあまり、会社経営の根幹である株主の利益を軽視することにつながるような施策は本末転倒だ。

 
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

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