「消費税を廃止する」米カンザス州が大胆な食品減税案を打ち出せたワケ

「大きな政府」民主党出身の知事なのに

アメリカ中部カンザス州のローラ・ケリー知事がこのほど同州が約80年実施してきた食品への消費税課税制度を廃止する法案を打ち出した。法案は州議会に提出・審議され、可決されれば2022年中に実現する。日本の大手メディアではまだ報じられていないが、今後の展開によっては注目を集めそうだ。

食品税廃止をアピールするケリー氏のFacebook

同州の食品への消費税にあたる食品税は、1930年代に導入された。2%からスタート税率は現在6.5%。ケリー知事は「長い間、カンザスは他の大半の州の住民よりも食料品に多くのお金を払ってきた。今回の立法措置により、カンザス州の平均的な家族は、食料品の請求額を年間500㌦以上節約できる」「この減税はカンザスのお財布にお金を戻し、それを最も必要とする人々のために本当の節約を生み出すだろう」と意義を強調した。

ケリー氏は民主党公認で2018年に当選し、翌年1月に就任。今回の減税法案について、州議会の民主党会派のトップ、トム・ソーヤー院内総務は「ケリー知事の財政責任のおかげで、カンザス経済は景気がよく、カンザスの人たち(の経済状態に)値する税負担軽減が受けられる」と後押しする。アメリカ政界では、保守の共和党が「小さな政府」論、リベラルの民主党は「大きな政府」論とそれぞれの政策的な伝統を持つことで知られ、所属政党からすると意外にも思えるが、ケリー氏が着任する前、2期8年続いた共和党の州知事時代からカンザスでは大型減税に着手してきた。

共和党州政府時代は経済成長を促すため、所得税の最高税率を6.45%から4.9%に減らし、個人事業主の所得税率を0に引き下げる大胆な措置に踏み切った(参考・毎日新聞 2017年11月)。ただ税収が減ったことでトランプ政権時代には「減税裏目 経済活性化せず、財政赤字拡大」「得をしたのは富裕層だけ」(毎日新聞)と批判を招き、税制を元に戻す迷走もあった。

ただし、この時の「失敗」について、経済企画庁出身で、元参議院議員の金子洋一氏は2019年5月のツイッターで、「減税が無効なわけではなく、消費税そのままで所得税の最高税率を下げるという富裕層優遇策に走ったからです。きちんと低所得者に配慮した減税をすれば結果は違ったはず」と指摘している。その意味では今回のケリー知事の食品税廃止は、低所得者層を視野に入れているとみられる。

加えてアメリカ経済はインフレ懸念がつきまとうものの、ワクチン摂取の進捗もあり堅調。国内全体では今年の第2四半期のGDPが50州全てで増加した。カンザス州も6.1%の伸びを示し、全米統計局がカウントする伸び率では中位グループに位置付けられている。党派を問わず、景気動向に応じ、大胆な減税措置を行うのは日本の政治の動きよりも機動的かもしれない。

 

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