【祭りの傷跡】「ワリエワ・ショック」止まらぬスポーツ界への波紋

ドーピング問題を読み解く5つのポイント(後編)
ジャーナリスト、大和大学社会学部教授
  • 「ワリエワ・ショック」を読み解く5つのポイント解説の続き
  • 後編は④ワリエワ問題におけるWADAの動きを展望
  • ⑤フィギュアスケートは出場年齢制限変更、今後のスポーツ界は?

北京オリンピック大会でのロシア・オリンピック委員会(ROC)フィギュアスケート代表、カミラ・ワリエワ選手(15)のドーピング問題は、世界中のスポーツファンに後味の悪さを残す結果となった。

「ワリエワ・ショック」を読み解く5つのポイントのうち、前半は、①問題の起きた経緯、②禁止薬物トリメタジジンがロシアで乱用されてきた歴史、③ロシアではびこるドーピング禍の背景に触れてきたが、後半の④と⑤で今後の展開を占っていきたい。

④ WADAはワリエワ問題の徹底再調査、処分を表明

WADAは、ワリエワ選手からトリメタジジンが検出されたケースを徹底的調査し、その調査結果をしかるべき時期に発表する。

悪質な場合はワリエワ選手が長期間の出場資格処分をくらう可能性がある。処分の基準日は昨年12月25日となり、処分されれば、その後の試合の結果は無効となる。その場合、ワリエワ選手が出場した北京大会フィギュアスケート団体戦金メダルは剥奪され、個人戦4位の結果も無効となる可能性がある。

WADAは「ドーピングは、ほとんどのケースでアントラージュ(選手のために尽力する関係者)が関わっている」として、15歳のワリエワ選手に「(薬物を)投与した人物が有罪だ」と主張。ワリエワ選手のコーチ、エテリ・トゥトベリーゼ氏やチーム関係者の関与の有無が今後の調査のポイントとなる。

WADAのウィトルド・バンカ会長はロイター通信に対して、ワリエワ選手の禁止薬物投与に、スポーツ関係者が関わっていれば、生涯資格停止処分にすべきと回答。「子どものドーピングは邪悪であり、許されるべきではない。医師やコーチらサポートスタッフが未成年者に運動能力が向上する薬物を提供していた場合、生涯資格停止となるべき。個人的には刑務所に入れられるべきだと思う」と語っている。

⑤ フィギュアスケートは出場年齢制限のルールが変わる可能性

AlexandrBognat /iStock

ワリエワ・ショックは15歳の未成年アスリートが身体への負担が大きい禁止薬物を服用した恐れがあるという観点からも再発防止策を取るべきとの声が大きくなった。

フィギュアの現行ルールでは、体重の軽い年少者が高難度のジャンプを跳べば好成績を収められる現状があり、選手たちは成長過程にある段階で、過酷な練習や食事制限を行っている。現役年数はほかのスポーツに比べても短い。

ワリエワ選手が所属しているトゥトベリーゼチームを見ても、2014年団体戦金メダルを獲得したユリア・リプニツカヤはその後、拒食症に苦しみ、19歳で引退した。2018年個人戦銀メダルのエフゲニア・メドベージェワ(22)も背中の痛みを訴え、まだ引退を表明していないが、試合の参加から遠ざかっている。

ワリエワ選手が投げかけたドーピング問題の余波は大きく、IOCのバッハ会長は「未成年がシニア大会に出場する際の懸念がある。私たちは適切な措置を取ることをためらわない」と指摘。国際スケート連合(ISU)は五輪や世界選手権を含むフィギュアスケートのシニア大会の出場年齢制限について、現行の15歳から17歳への引き上げを検討していることも明らかにした。

そうしたことから、次回大会2026年ミラノ・コルティナ冬季五輪では現行のルールでは出場可能な15、16歳のスケーターが参加できないことになり、試合展開も変わる可能性がある。

ワリエワ・ショックは15歳のスケーターに一生かかっても消えないような大きな傷を心に残した。

この騒動の本質は、フィギュアスケート界だけが抱える問題ではない。激化するメダル獲得競争やスポーツの極端な政治利用はさまざまなところに弊害を及ぼしており、スポーツ界全体が取り組むべき課題だ。近年、人気をなくしている五輪・パラリンピックの成功は、このワリエワ・ショックにどう対処するかにもかかっていると考える。(終わり)

 
ジャーナリスト、大和大学社会学部教授

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