ジェンダー平等と少子化相関…「不都合の真実」はイスラム教国にも当てはまる?
注目のテーマ第3弾。これまでのデータ分析に「宗教」加味- 「ジェンダーフリーを進めると少子化が進む」説の検証第3弾
- 今回はイスラム系諸国に見るマイナスの相関から分析
- 少子化対策がうまくいっているのか?各国の出生率を見える化
前々回、このままフランスがジェンダーフリーを進めると、国全体がイスラム化するという話をしましたが(記事はこちら)、同じ現象がすでに世界的に起こっているようです。
イスラム系諸国に見るマイナスの相関
まずは、図1をご覧ください。いつもの北半球(ユーラシア+北米)の国々に関する、男女平等(ジェンダー格差)指数と出生率のグラフの各国を、今回、宗教別にプロットしたものです。データは世界実情データ図録を主として、ここに記載の無い国は外務省のデータベースなどを使用しました。
各国の宗教色の判定は、その国の最大人口を占める宗教とし、無宗教が多い国は「宗教色弱」としました。また、キリスト教系については、プロテスタント、カトリック、ギリシャ正教など聖教系の全宗派の合計が、最大宗教である国を「キリスト教国」と見なし、キリスト教信者数の中での内訳により、プロテスタント系とそれ以外の旧キリスト教系の2つに分けました。
例えば、イスラム教40%、カトリック30%、プロテスタント25%という国があれば、カトリック国と見なしました。ただし、こんな微妙な例はほとんどなく、宗教色の判定はとりあえず一般的・常識的なものであると思ってください。
また、その国独自の宗教が盛んなインド(ヒンズー教)とイスラエル(ユダヤ教)は、評価が難しいのでこの図からは除外しました。この結果、各国は「宗教色弱」「イスラム系」「旧キリスト教系」「プロテスタント系」「仏教系」の5つのタイプに分類できました。
まず、人口置換水準(人口を維持できる出生率2.1)を超えている国は、圧倒的にイスラム系が多く、次に仏教系、そして旧キリスト教(カトリックおよび正教系)国の一部が加わっています。プロテスタント系や宗教色の弱い国は、置換水準どころか出生率が2.0を超える国さえありません。
また、図2のようにイスラム系の諸国だけを見ると、男女平等指数と出生率の間には(世界全体や他宗教の国より)はるかに強いマイナスの相関があり、アルカイダが率いるアフガニスタン(左上)から、都市化や欧米化が進んだアラブ首長国連邦(右下)までの、右肩下がりの直線上に多くの国がならんでいます。直線の右下の方は、G7や宗教色の弱い国など、西欧「先進」国のグループの平均値とほぼ一致しています。また、仏教国の平均も直線の中程に乗っています。
素直に解釈すると、「イスラム教の国が現代化・世俗化して、ジェンダーフリーに走るほど出生率が低下する」ということになります。また、置換水準どころか人口が増加しているのは、ほとんどが原理主義的なイメージの国です。女子に文字を教えることさえしたがらないアルカイダ率いるアフガニスタンのような、極端な男女「不平等」政策をとる国が、グラフの左上を占めています。
イスラムのジェンダー観(LGBT系の話は出てこないので、以後は「男女観」とします)は、男女の権利と義務(この言い方も「近代的」ですね)可能な限り同等とする西欧近代的な男女観とは、相容れないものであることは確かです。もっとはっきり言えば、普通の「先進国」の現代人は、「イスラムなど指導して改めさせるべき未開人」ぐらいに、思っているはずです。
しかし、少子化克服に失敗したと「先進国」が、「欧近代的な男女観を相対化し、一部はイスラム的な社会設計を取り入れることも考慮しないと、出生率の差で結局、地球はイスラムの惑星になってしまうのではないでしょうか。善悪はともかく、「ジェンダーフリーを進めたせいでジェンダーフリーが消滅する」というのも無意味な話でしょう。
出生率を見える化する
「合計出生率2.1を目指すなら、少なくとも10人に1人の女性は3人目の子供を生まなければならない」これは数学的な事実です。「政治的に正しい国」では、「女性のうち10人に1人が3人目の子供を産み、残りの9人は全員が2人の子供を産む」というような状態を理想とされているのでしょう。女性全員が自分のキャリアを目指しながら、全員が子育てもする(パートナーや保育福祉のことは一旦無視します)というようなモデルです。
この状態を、【3222222222(2.1)】と表すことにしましょう。【太カッコ】内の最初の10個の数字は、10人の女性の生涯出産数を多い順に模式的に表示したもので、最後の(丸カッコ)内の数字はそのモデルの出生率で10個の数字の平均になっていて、検算みたいなものです。たとえば、近年の日本の場合は、【3222221100(1.5)】のような状況です。
フランスをはじめ、「政治的に正しい」近代国家の少子化対策は、ジェンダーフリー政策と手厚い福祉で、「1や0の人に2になってもらおう」という考え方ですね。実際、「優等生」のフランス(外国人を除く)はこんな感じではないでしょうか【3222222210(1.8)】。この政策を進めていき、【3222222222(2.1)】を目指すというわけです。
けれども、医学的理由や思想・信条で子供を持たない女性や一人っ子の母親もおられます。こういう方々に強引に出産を促すのは、かなりタチの悪い人権侵害、公共性のあるセクハラでしょう。出産・子育て支援は「飴と鞭」で言えば「飴」の政策だとしても、みんながもらっている「飴」をもらえないというのは、時には鞭で叩かれるより辛いことかも知れません。
それでは、「3人目を増やす」という作戦はどうなのでしょうか。
(後編に続く)
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