イーロン・マスク氏が開発を進める新交通システム「ハイパーループ」とは?
最高時速1100キロ!その実現可能性と課題- ツイッター買収で話題のイーロン・マスク氏、新たな挑戦とは?
- 超高速真空チューブ交通システム「ハイパーループ」とは?
- 最高時速は約1100キロ!夢の超特急、実現への課題は?
米電機自動車会社テスラの最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏がツイッター社を買収した。これを受けて日本でも神戸市の久元喜造市長がツイッターアカウントの削除を予告するなど、マスク氏がツイッター社を買収したことの影響はしばらくの間、続きそうだ。
そんな中、マスク氏の目は既に新たな挑戦に向けられている。
真空チューブの中を超高速移動
日本時間26日未明、マスク氏が設立した会社「The Boring Company」が公式ツイッターを更新し、「Hyperloop testing at full-scale begins later this year.(ハイパーループの本格的なテストは今年後半に開始される)」とツイートした。
Hyperloop testing at full-scale begins later this year.
— The Boring Company (@boringcompany) April 25, 2022
The Boring Companyは、ロサンゼルスの交通渋滞にいら立ったマスク氏によって、「ハイパーループ」と言われる、超高速真空チューブ交通システムを実現するために2016年に設立された会社だ。
ハイパーループは、真空のチューブの中を超高速で移動する全く新しい交通システム。磁力のみによって物体を空中浮揚させる「磁気浮上」という技術が使われている。旅客機並みの速度で移動できるだけでなく、走行にCO2が発生しないため、環境にも良いとされている。
ツイートでしばしば物議を醸しているマスク氏の会社だけに、実現不可能な夢物語のように聞こえるかもしれない。しかし、アメリカでは既に有人での試験運用が行われている。ヴァージン・ハイパーループという会社は、2020年にアメリカ・ネバダ州ラスベガスで有人による試験運用を行っているのだ。
アメリカでハイパーループに取り組む企業は珍しくなく、ハイパーループ・トランスポーテーション・テクノロジーという会社には、日本の日立製作所が技術協力を行っている。
最高時速は約1100キロ
今後の具体的な計画について25日、マスク氏は次のようにツイートしていた。
ボーリング社は、今後数年間で、実用的なハイパーループの建設に挑戦する予定。物理学の観点からは、これはある都市の中心から別の都市の中心まで、2000マイル(約3200キロ)未満の距離を移動するための最速の方法だ。それ以上の距離であれば、宇宙船の方が速い。
In the coming years, Boring Co will attempt to build a working Hyperloop.
From a known physics standpoint, this is the fastest possible way of getting from one city center to another for distances less than ~2000 miles. Starship is faster for longer journeys.
— Elon Musk (@elonmusk) April 24, 2022
マスク氏が想定するハイパーループの最高時速は、約1100キロ。リニア中央新幹線の最高時速は500キロということだから、実にその2倍以上にもなる。リニア中央新幹線の場合、東京・品川―名古屋間を最短40分で結ぶというが、ハイパーループであれば最短20分弱で移動可能となる。
マスク氏のツイートによると、ニューヨークとワシントンDCをハイパーループは、29分で結ぶ予定だという。ニューヨークとワシントンDCは約330キロ離れている。
さらに、マスク氏は速さ以外にも、ハイパーループのメリットを挙げる。
地下トンネルは地表の天候に左右されないので、地表でハリケーンが猛威を振るっていてもハイパーループには関係ないだろう。(ハリケーンが起こったことを)気づきもしないだろう。
Underground tunnels are immune to surface weather conditions (subways are a good example), so it wouldn’t matter to Hyperloop if a hurricane was raging on the surface. You wouldn’t even notice.
— Elon Musk (@elonmusk) April 24, 2022
アメリカ政府の報告書によると、アメリカではハリケーンをはじめとした気象災害で、2021年だけで688人が死亡し、年間の被害額は1450億ドル(約18兆6000億円)に上るという。2011年にアメリカ東海岸ノースカロライナ州に上陸したハリケーン「アイリーン」は、30人近い死者を出し、高速道路をはじめとした交通網を根こそぎ破壊した。全世界的な異常気象が目立つなか、天候に全く左右されないのは非常に大きなメリットだ。
ハイパーループの課題とは
とはいえ、ハイパーループに課題がないわけではない。チューブや駅などの開発には莫大なコストがかかるだろうし、運営コストもすさまじいものになるだろう。先端技術調査を専門とするリサーチ会社・ラックスリサーチは、ハイパーループの最大の課題は、技術面ではなく経済性だと指摘している。
また、ハイパーループはチューブ上を真空に保っておく必要があるが、もし何らかの事故で人間が真空空間に投げ出された場合、どうなるのか。英国人科学者のフィル・メイソン氏は米誌『WIRED』の取材に「ハイパーループでいったん事故が起きれば、すぐにカプセル内の乗客全員の死につながります。ハイパーループ全体でも爆発的な減圧が起き、ほぼ全員が死ぬでしょう」と述べている。
とはいえ、設立から20年足らずでテスラを時価総額世界一の自動車会社に育て上げ、民間人だけの宇宙旅行を実現するなど無理難題の数々をクリアしてきたマスク氏だけに、「ひょっとしたら」と期待してしまう人も多いだろう。ツイッター社を巡る騒動が一段落しても、しばらくはマスク氏の動向から目が離せそうにない。
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