IPOめざす会社の役員、社員は要注意!「無償ストック・オプションの税制適格要件」

要件満たさないと手取りが半減も!
IPO請負人/中小企業診断士
  • IPO前のベンチャー企業で付与する無償ストック・オプションに注意点
  • 一定の要件を満たすと、将来の売却時に課税額で大きな差が!
  • 税制適格ストック・オプションの要件とは?非適格になると…

通常、IPO前のベンチャー企業で付与している無償ストック・オプションは、その名前のとおりお金の払い込みがなく発行できるスキームです。しかし、会社側も付与された役職員側もタダでインセンティブを享受できるスキームであることから様々な制約があり、多くの留意点を頭に入れておく必要があります。税制適格を満たすかどうかなど、最低限の知識と法務・会計・税務理解が必要となってきます。

そこで、無償ストック・オプションを付与する際に、税務上で留意するべき点について説明します。

yuruphoto /iStock

株式の売却時に全額課税

一定の要件を満たすストック・オプションについては、以下のような課税関係が認められています。

  • ストック・オプション付与時:課税繰り延べ。すなわち税金の支払いはなし。
  • 権利行使時:課税繰り延べ。すなわち税金の支払いはなし。
  • 株式売却時:売却価額が権利行使価格を上回っている部分について譲渡所得として課税。

上記をグラフで表すと、以下のようになります。

【図表2-3】ストック・オプションの株価と課税の関係

つまり、ストック・オプションは、付与時だけでなく、利益の実現していない権利行使時にも課税せず、株式の売却時に全額課税されるということです。株式の売却時にはその分のキャッシュを得ているので、課税したとしても、キャッシュ不足に陥る可能性は低いといえます。

また、給与所得より譲渡所得のほうが、税率は低くなることが多いため、納税総額も少なくなる可能性が高いのです。

このように、権利行使時の課税について繰り延べができるストック・オプションを「税制適格ストック・オプション」といいます。ストック・オプションのメリットを生かそうとする場合には、税制適格ストック・オプションに該当するように要件を満たさなければなりません。

税制適格ストック・オプションの要件

この税制適格ストック・オプションの要件について解説します。

ストック・オプションが税制適格となるかどうかは、主に(1)付与対象者、(2)権利行使期間、(3)権利行使価額、(4)発行形態、のそれぞれ4つについて下記のように条件を満たす必要があります。その他の条件については「租税特別措置法」第29条の二をご確認ください。

(1)付与対象者

ストック・オプションを付与される人は、次のいずれかに該当しなければなりません。

  • 自社の取締役、執行役または使用人(およびその相続人)
  • 発行株式総数の50%超を直接または間接に保有する法人(つまり子会社)の取締役、執行役または使用人(およびその相続人)

ただし、付与対象者は付与決議時に、以下に挙げた「大口株主」や「大口株主の特別利害関係者」に該当してはいけません。

《大口株主》

  • 非上場株式の場合は、発行済み株式の1/3超を保有する株主
  • 上場会社の場合は、発行済み株式の1/10超を保有する株主

《大口株主以外の利害関係者》

  • 大口株主の親族
  • 大口株主の事実上の婚姻関係にある者およびその者の直系血族
  • 大口株主の直系血族と事実上の婚姻関係にある者
  • 大口株主からの金銭等で生計を維持している者およびその者の直系血族
  • 大口株主の直系血族からの金銭等で生計を維持している者

(2)権利行使期間

付与決議の日後2年を経過した日から、付与決議の日後10年を経過するまでの間に権利を行使すること。

(3)権利行使価額

ストック・オプションにかかる契約締結時(付与時)の1株当たり価額以上であり、権利行使価額が年間1,200万円を超えないこと。

未公開会社の株式の場合、1株当たりの価額は最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額とします。ただし、普通株式の他に種類株式を発行している未公開会社が、新たに普通株式を対象とするストック・オプションを付与する場合には、仮に種類株式の発行が最近において行われた売買だとしても、その価額を1株当たり価額とすることはできません。牛肉の値づけに豚肉の価格を参考にできないというわけです。

(4)発行形態

株主総会の決議で募集事項が決定された無償発行であり、譲渡が禁止されていること

※役務提供の対価として発行されたものも含みます。

4つの中で特に注意しなければならないのは、(3)の権利行使価額です。

「知らぬが損」にならないように!(imtmphoto /iStock)

私が知っている会社で、直近の時価を大幅に下回る価額を権利行使価額に設定してしまった例がありました。当然、税制非適格となってしまい、大きく恩恵が受けられるはずのストック・オプションの手取りが半減してしまいました。価額については、当然ながらきちんと株価算定書を取るとともに、証券会社や監査法人にも相談の上で決めることをお勧めします。

また、(1)の付与対象者についても「取締役、執行役または使用人」とありますので、監査役や外注先、法人などは対象外となります。大口株主も対象外ですので、ベンチャー企業の創業者で持ち株比率が高い方は税制適格とならない場合があります。

ストック・オプションが税制非適格だと…

なお、上記要件を満たさない税制非適格のストック・オプションの場合、ストック・オプションの権利行使時に、「行使時の株価が権利行使価格を上回っている部分」に対して課税がされます。ストック・オプションの権利行使とは、権利行使価格で株式を買うというだけのことであり、上記の「行使時の株価が権利行使価格を上回っている部分」というのは、仮に権利行使後すぐに株式を売却したら得られるであろう利益に過ぎません。

その時点では、実際には株式は売却しておらず、お金も得ていません。ストック・オプションが株式に代わっただけで、むしろ権利行使時は権利行使価格相当のお金を払っていますのでキャッシュは不足しています。

このような状況で未実現の利益に課税してしまうと、ストック・オプションを行使し、権利行使価格分の支払いをしたにもかかわらず、さらに税金の支払いもしなければならないことになってしまいます。

ストック・オプションを行使した人にとっては、まさに踏んだり蹴ったりの状況ですし、こんなことになるなら誰もストック・オプションを欲しいと思わなくなるかもしれません。ストック・オプションを実施する際は税制適格要件を満たすようによくよく留意する必要があります。

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