テロに踊る「差し障り姫」…安倍元総理銃撃事件を論じる国際政治学者Mセンセイ

専門用語を散りばめるコメント、「必勝パターン」の矛盾
朝日新聞創業家
  • 安倍元総理暗殺事件への論評に見る、テレビの女性コメンテーターへの疑問
  • 当たり障りの無いことか当たり障りしかないことを言う「差し障り姫」の問題点
  • 差し障り姫の“必勝パターン”の分析と、ツッコミどころ

安倍元総理襲撃事件。どうやら一個人のおこした暴力事件では済みそうにありません。膨大なコメントの中で、一番多いのは警備体制への批判、二番目に多いのが某宗教団体、元T教会(例によって、当記事は朝日新聞関係以外の批判は可能な限り匿名です)との関係です。

自民党本部前に設けられた安倍元首相への献花と記帳コーナー(7月13日、東京・永田町)

陰謀論と内容のない枕詞

不思議なことに、「あんなオモチャじみた武器で人ひとり殺せるのかどうか」という技術的な疑問の声はあまり出てきていません。そこらの建築現場にころがっていそうな鉄パイプに、素人が自宅で合成した火薬。発火装置は電熱線。銃と呼ぶことにさえ違和感のある代物です。ニュース映像には、同時に発射された別の弾丸が被害者の横を通過するのが写っていますが、スマホのカメラに写るような低速飛行の物体が、人体を何十センチも貫通したあと、発見できないような場所にまで飛んでいくものなのでしょうか。

事件から1月経った今も、起訴のためにも必要な再現実験の話は聞こえてきません。火薬の専門家に依頼すれば民間でも安価かつ合法的にやれそうなのですが、メディアも一向に動きません。このままではいずれ、ケネディ暗殺事件のように、「真犯人は他にいる」という陰謀論が登場しかねません。

もうひとつ気になるのは、識者がコメント(特に元T教会がらみのコメント)をするときに必ず「犯行自体は許せないが」というような、無内容な言い訳から始まることです。「許せない」と言っても、銃器を自作して奈良地裁の前に張り込む気もないでしょう。

裁判官でも闇の仕置き人でもないのに、「許す」の「許さない」のと言っても何の意味もありません。容疑者だって別にあなたに許してほしいとも思っていないでしょう。

「当たり障り姫」の正体

一番ひどいのは、国際政治と氏名の画数の多さで有名なMセンセイです。このひと、一言で言えば「どこにでも現れて、当たり障りの無いことか当たり障りしかないことを言うお姉さん」で、私は以前から「差し障り姫」と呼んでいました。例をみてみましょう。まずは、当たり障りのあるほうから。

msan10/iStock

J-CASTニュースによれば、数年前のフジテレビ系「ワイドナショー」で

テロリストが、仮に金正恩さんが殺されても、スリーパー・セルと言われて、指導者が死んだと分かったら一切外部との連絡を絶って都市で動き始める。スリーパー・セルというのが活動すると言われている

大阪がヤバいと言われていて…

などと発言。当然、在日コリアンへの偏見をあおるなどと批判されていたようですが、偏見以前に、そんな変な人が本当に存在するのでしょうか。

スリーパーセル……「寝ボケ分子」ですか。確かに、単独ないし少数でテロをする能力と意思を持ちながら、自分たちの指導者が殺されるのを指をくわえて見ているわけですから、「寝ボケか」と言われても仕方ありません。いくら某維新の会がエキセントリックな政党でも暗殺にまで手を染めるとは思えませんから、大阪でテロをすれば壮大な八つ当たりにしかなりません。「何でやねん。寝ボケてるんか」と突っ込むべきでしょう。

だいたい、一世一代のテロを決行するのになんでわざわざ「一切外部と連絡を絶って」、仲間からの情報や物資の支援を放棄するのでしょうか。実は、指導者がいなくなったので工作資金を着服して逃げるつもりなのでは。これはこれでテロリストとしては「寝ボケ」でしょう。

「大阪がヤバい」というのも、「いくら屈強のテロリストでも長年淀川水系の水を飲めば、すっかり寝ぼけてしまう」という意味ならありそうな話です。なるほど国際政治学とやらを修めれば、こういう発想ができるようになるわけですね。

「テロに踊らされるのは生身の人間ゆえ」!?

もちろん、差し障り姫も普段は穏当なことばかりおっしゃっています。まあ、そうでなければ、危なくてコメンテーターなどさせられないでしょう。今回の安倍元総理暗殺事件でも、スポニチによれば、「ツイッターで『安倍晋三さん、銃で撃たれたのですか。なんということでしょう、そんなことがあってよいのでしょうか』『どうか命だけは取り留めて』」、Fラン大学の正門前で街頭インタビューをしても、もう少し内容のあるコメントが返ってきそうです。

この調子なら、事件の背景の話でも、「確かに、全財産を宗教団体に寄付する親は、画数の多過ぎる名前をつける親と同じように子供にとっては迷惑です。でも、だからと言って暴力に走って良い訳ではやはりありません」とかなんとか、聞くだけ損するようなコメントを出されるのかと思っていましたが、なぜか突然「差し障りスイッチ」が入ってしまったようです。東京スポーツによれば以下のようにコメントしたようです。

社会の注目を集め主張を通す為に公然と行われる殺人はテロ。今回テロの目的は遂げられました。その意味を考えていくべきですね」と今回の事件の本質を考える重要性を指摘。

その上で「テロに踊らされるのは生身の人間ゆえ。しかし報道機関、特にテレビは倫理観をもって臨むべきです。法治国家としてテロを許してしまったこと、それに靡き共感する意見が出回ったことにもっと危機感を持たないとダメですね。『全ての暴力に反対する』というのは単なる前置きにすぎません」と今回のテロに対する報道姿勢に疑問の声をあげた。

記者のまとめ方が悪いのかも知れませんが、読めば読むほど論旨不明の談話です。「生身の人間ゆえ」に「テロに踊らされる」というのなら、「靡き共感する意見が出回ったこと」は当然であり危機感をもっても仕方ありません。上から目線で、「ポピュリズム止めますか?人間止めますか?」とでもおっしゃりたいのでしょうか。

安倍晋三元首相銃撃の殺人容疑で送検される山上徹也容疑者(写真:日刊現代/アフロ)

「法治国家としてテロを許す」というのも、どういう意味なんでしょう。テロ支援特別措置法でも作られたのでしょうか。実行者も含めて誰も合法だとは思っていないのですから、法治国家などという大層(「タイモ」じゃないですよ)な言葉の出る幕ではありません。

要は、一般的な話に(国際政治学の?)専門用語を散りばめてコメントするのが、差し障り姫の必勝パターンなのですが、もとの話に問題があったり(スリーパー・セルの例)、複数のネタ元の話が矛盾していたり(暗殺報道の例)すると、当たり障りてんこ盛りになる。それだけの話です。

けれども今回は、少しばかり深いものを引き出してしまったみたいです。「報道機関、特にテレビは倫理観をもって臨むべきです」……各局ともワイドショーが、おどろおどろしく元T教会の行状を出して来るのは、正義とか公共性とかの話ではなく、その方が数字がとれるからでしょう。確かに、DIYスナイパー氏の思うつぼです。

一方、事件を知った人が全員「今回の事件の本質を考え」るには、結局は安倍元総理とT元教会……じゃなかった、元T教会との関係を知る必要があり、数字目当てであろうが倫理目当てであろうが、結局やることは同じなのです。

でも、だからと言って、メディアが「殺しは殺し。意味などない」という取り調べ刑事のようなクールな立場に終始し、元T教会の所業を報道しないことが「倫理的」とも思えません。つまり、ある悪事が別の悪事に反撃したとき、第三者が完全に「倫理的」に振る舞うこと自体が無理なのです。ウクライナを考えればわかりやすいでしょう。

議論は不勉強の反省からはじめませんか

多くの識者は、「暴力は許せないが」と例の無内容な言い訳をひとことしてから、元T教会のことをボロクソに(あるいはボソボソと)言います。けれども、一部の地道に元T教会の被害者たちと長年地道に関わってきた少数は別とし、今回の手作りテロがあるまで問題意識を持つことも無かったことを、そしてその原因である不勉強と無関心について、もっと自己批判すべきではないでしょうか。

言い換えれば、テロをきっかけとして正義(仮にそうしておきます)がもたらされようとしていることではなく、テロがなかったら正義が無視されたかも知れないことを、メディアと識者、発言者(末席に私自身も連なっているつもりです)は自分たちの問題だと自覚し、今後の糧とするべきなのです。そして、こうした認識が社会全体で共有されないと、「ときには、暴力によってしか実現できない正義もある」という不都合な真実が、あっさり全面に出てきてしまうと思うのですが。

生存権にしろ信教の自由にしろ、私たちが当然と思っている権利も、そのほとんどは、元をたどれば戦争や革命をはじめとした血なまぐさい暴力の山の上に築かれたものなのです。だから、単純に全ての暴力を否定することは残念ながら無理または無意味なことです

でも、だからこそ今後流される血を少しでも減らすために、「暴力でしか実現されない(と思われていた)正義」を先回りして達成させることが言論を使う者の責任だ……というようなことを、古今東西の豊富な用例を示して解説してくれる国際政治学者は、いないのでしょうか。差し障り姫さん。寝ぼけている場合じゃありませんよ。

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