ワクチン職域接種「大企業優先」は公平性にかける?

政府が企業に負担の側面も
ジャーナリスト
  • 政府のワクチン職域接種「大企業優先」に「公平性にかけるのでは?」という声
  • 専門家「一見不公平なこと見えても、実は合理的」効率的に集団免疫を完成させる
  • 中小企業も地域の開業医の協力などで工夫可能。国が企業に接種負担の側面も

政府がコロナワクチンの職域接種を6月21日から始めることを発表した。「1日100万回接種」を掲げるなかで、1000人以上の大企業社員とその家族も対象になるという。トヨタやホンダ、キヤノン、日本郵船、日本航空、住友生命、楽天、伊藤忠商事、JR東日本などの大企業が現在、検討を進めている。

接種ルートは、これまで国が行う大規模接種と、地方自治体による接種に加え、企業は3番目となる。大阪府の吉村知事も「大企業で進めば、大規模施主会場の枠が空いて一般の方が受けやすくなる」と賛意を示している。

画像:Inside Creative House/iStock

公平性は?大企業優先に疑問の声

とはいえ高齢者、医療従事者のようなエッセンシャルワーカーに続いて、優先されるのが大企業社員とその家族とあって「公平性にかけるのでは?」という声がでているのも事実だ。

接種が進むのはいいことだけど、大企業はテレワークしているんだけどな。テレワークが進んでいない中小企業にもワクチン接種が進んでほしい。

ツイッターなどでは企業規模に関わらず、店員など人と接する職種の人を優先すべきでは、という声も上がっていた。実際アメリカのCDCが定義するエッセンシャルワーカーとは、医療従事者だけでなく、コンビニ店員や宅急便配達員など、人と接する機械の多い職種までも含めている。

日本の政府が職域接種の条件を「1000人以上の大企業」としているのか、それはやはり企業側の対応力ゆえのようだ。まずは、大企業の場合、接種会場を自社で賄うことが出来る。社屋に限りがある中小企業では自社で対応することが難しい場合も多いだろう。政府は中小企業の取りまとめを商工会議所に頼りたいようだが、「内部に対応できる人材がいるわけではないので、対応は難しい」と難色を示している。

また政府が1000人規模以上の大企業だとしているのは、こうした規模の企業は、法律上で専属の産業医の存在が設置付けられているからだという。

感染対策コンサルタントの堀成美氏のところには、すでに大企業からの相談が30件以上寄せられているいい、「実際のところ大企業ですら産業医は、本社に数人いる程度が実態です。地方支社にまで常駐するような医師がいるわけではないのです」と指摘する。大企業内部においても、一斉に、公平な接種を実現するのは不可能なのだという。

全てに人を公平に、同じ日に、同じペースで接種していくなんてことは土台無理なのです。満員電車に乗って通勤する丸の内の大企業社員の人から接種していくことは、一見不公平なこと見えても、実は合理的なのです。集団免疫という意味でも、ワクチンを打った人が増えれば打っていない人にも感染が及ばなくなります。いち早く効率的に出来るところからなすべきなのです。形式的な公平さばかりにこだわっていると、結果的に全員の接種そのものが遅れてしまいます

Viorel Poparcea/iStock

中小企業はどうすればいいか?

今後、受け入れ体制が十分といえない中小企業が、接種しやすくしていくにはどうすればいいのだろうか。堀氏は、中小企業も大企業が取り組むノウハウを参考にしながら進めれば、不可能ではないという。

地域に中規模の接種会場を設置するのです。そこに巡回バスをまわしながら会場に行けるようする。通常ならば、新しい医療施設を開設するには、保健所の審査など手続きに時間がかかります。しかし、新型コロナウイルスワクチンの迅速な接種のための特設会場の設置などには、国も自治体も動きがとても早いのです。

通常ならば、街のクリニックを開設するには、保健所の検査をクリアするなどの手続きなどが必要ですが、コロナ禍においてはいま驚くほど行政も協力的なのです。

こうやって中規模の場所を確保した上で、数日間集中して接種をするようにすれば、自社インフラのない中小企業でも、大企業と同じような対応が可能になるはずです

また「巡回診療」など、工夫次第で、迅速に進めることも可能になるようだ。

(巡回診療は)赤ひげ診療譚のように、地域の開業医さんたちに担当してもらうのです。キッチンカーのようなイメージです。実は地域の開業医のなかにも産業医の資格を持っている人も多い。地域の開業医さんにとって、巡回診療に取り組むことがプラスの収益となるように正当な手当を用意することも必要だと思います。

産業医のコストは半日5万円程度はかかりますが、会場には産業医が1人だけいれば良いのです。実際に注射をするのは看護婦なので、産業医ほどのコストは掛かりません。こんなふうに、アイデアはすでにたくさんあるのです。が、あとは選択肢の中でなし得るやり方を選び、誰が動けるか担い手の問題をクリアしていく必要があります

「企業福祉国家」本業以外の負担大きく

集団免疫の獲得を迅速に進められるという点で企業での接種はスピード感もありアドバンテージが大きい。とはいえこれらの企業側の義務が大きな負担になっていることも無視できないだろう。

日本のような企業福祉国家では、政府が企業にこうした職域接種のような本業でない業務を企業に押し付けがちだ。正社員、非正規社員、アルバイトのどこまでを接種すべきかの判断まで企業に委ねられている。

欧米では、大企業にワクチン接種のための有給や現金支給の制度はあったとしても、役所の代わりに企業がワクチンの接種そのものを担うようなことはしていない。日本企業の生産性を上げづらいのもこうした本業以外の負担が大きい面も、少なからずもあるのではないだろうか。

 

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