平井氏報道:朝日新聞の「文春化」が招く、疑心暗鬼の無限ループ
文春砲とは異なる、政と官への波紋- 平井大臣の「暴言」を朝日新聞が音源を入手して特報。電子版でも音源公開
- 記者が日常的に役所に出入りする朝日の音源公開は、文春と違うインパクト
- 政と官に緊張をもたらすメリットの一方、政策現場に疑心暗鬼を残す面も?
東京オリンピック・パラリンピックで使用するアプリの開発費削減をめぐって、平井卓也デジタル改革担当相が受注したNECについて「脅したほうがよい」などと役所内の会議で発言したことが朝日新聞の報道で11日、判明したが、朝日が会議の録音を入手し、デジタル版で音源を公開したことは、新聞社による公人取材の手法としては“新境地”に入ったと思わせる。これが政治や行政の現場にもたらすのは、プラスのことばかりではあるまい。
平井氏が朝日の取材に発言をあっさり認めたのも「動かぬ証拠」があったからだと思われる。なお、政権を支持する右派の人たちからは役所関係者からの音声データ流出を、国家公務員法で定める守秘義務違反だと糾弾する声があがりつつあるが、平井氏の発言は、切り取りがあったにせよ、独禁法で禁止する優越的地位の濫用をしたのではないかと受け取られてもおかしくはない。リークしたのが内閣官房の職員であっても、公益性の要件を満たす可能性があり、免責されるだろうし、実質的に犯人探しも困難であろう。
「動かぬ証拠」として音源を駆使し、それを自社の電子版で出す手法は、ネット時代の週刊誌のお家芸になっていた。2017年には女性衆議院議員(当時)が秘書に「このハゲー」と吐いた暴言が世間に強烈なインパクトをもたらし、ワイドショーが音源を報じたこともあって大拡散。小学生たちが真似するほどの話題となった。そして、週刊文春は翌年、財務次官がテレビ局の女性記者との飲み会でセクハラ発言をしていた音源を入手して報道。次官は更迭された。
さらに文春は今年に入り、総務省の接待疑惑でも音源が大きなハレーションをもたらした。東北新社社員だった菅首相の長男に接待された総務省幹部らが、同社に便宜を図ったのではないかと追及されると、幹部らは当初疑惑を否定。すると、文春は強烈な「二の矢」として、居酒屋内の懇談を「盗聴」していた音源の公開に踏み切った。その結果、幹部たちの一斉辞任につながったことは記憶にあたらしい。
朝日と文春の違うインパクト
さて、今回の朝日の音源活用は、一般の読者からみると、文春の手法をマネしただけではないのかと見る向きがあるだろうが、朝日と文春では決定的に違う点がある。後者はゲリラ的な取材をするのが当たり前として社会的に認知されているが、前者は記者クラブに加盟しており、記者パスがあれば官公庁や政党本部、議員会館にスムーズに出入りし、政治家や官僚らを日常的に取材できるポジションにいる。
権力との距離のとりかたが簡単ではない中にあって、音源を使って、非公開会議の発言を報じるのは勇断なのは間違いない。他方、取材を受ける側の政治家や役所の側にとっては、文春のようなゲリラメディアが飛び道具的に音源を使うのとは違って、記者クラブメディアが容赦無く音源を駆使するとなれば、隠しマイクを警戒して取材時にオフレコを安易に話せなくなるだろう。政治家も官僚も打ち合わせで秘密に録音されていないかどうか、日常的に出入りする記者たちに音源を渡したりしないか、疑心暗鬼となり、本当に政策遂行のために必要な機微なコミュニケーションをやりづらくなる可能性はある。
安倍政権が内閣人事局を発足させてから進む「政治主導」にあって、とかく官の側が弱体化したと言われる。その中にあって、政治側が官に対して緊張感を持つようになるメリットはある。一方、政策形成のプロセスにおいて、すぐには表沙汰にしないほうがよい機微な交渉や調整を行うケースもあって、そこに陰をさすこともありうる。
どちらにせよ、そのあたりの結果・効果を判断するのは国民だ。ただし、メディア側が音源を使わざるを得ないほど、政治や行政の側に不透明な部分があったのも事実だ。アメリカより情報公開制度が大きく遅れているばかりか、公文書の改竄が発覚するなど、G7の一員として恥ずかしいレベルの実情が根底にある。
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