日本企業を救うエンゲージメント?森保監督に学ぶマネジメントの本質
連載『日本経済をターンアラウンドする!経済再生の処方箋』#14- サッカーW杯日本代表・森保監督のマネジメントの本質とは?
- 誠実さをベースにした人間性マネジメント、エンゲージメントに注目
- 実はエンゲージメントが「低い」日本企業。森保采配に見るヒント
株式会社ターンアラウンド研究所
西村健(代表取締役社長)
サッカー日本代表の監督に、森保一さんが再任された。カタール・ワールドカップでの感動を呼び、ベスト8という目標は達成できなかったが、「名将」と呼ばれるようになった森保さん。W杯前には批判も多かったが、選手を信頼し、任せるマネジメントでリーダーの新しい姿を示した。
筆者は彼のマネジメントについては、組織の一体感を増大させる「エンゲージメント」に注力したマネジメントだと見ているが、これは今の日本企業に必要なマネジメントなのではなないだろうか?

誠実さをベースにした人間性マネジメント
森保さんのマネジメントは、選手に任せ、ボトムアップで自主性を引き出すという方法。序列重視、細かい戦術を示さないなどと批判されていたが、代表はクラブチームと違いチームを作る時間が少なく、欧州で活躍する選手が多い中、ある程度の指示を出してあとはコーチに任せ、選手の自主性を重視するというのは理にかなっている。
彼は「選手の理想的な状態」について、以下のものと定義している。
- 選手と言うのは自らテンションをあげ、モチベーションを高めてプレーする
- 選手自らコミュニケーションをとる形が理想
森保さん自身「厳しく、楽しく」をモットーの生き方をしており、選手にもそう接している。選手の立場からすると「言われるのが嫌なこと」であったとしても、監督は素早く指摘して問題を潰していかなければいけない。だから監督は正しいと思ったことを躊躇なく伝えられる、信念や覚悟が必要と考えているようだ。
言葉のかけ方も森保流のやり方がある。「もともと話が旨い方ではないし、ボキャブラリーも少ない人間。だから、できるだけ自然体で素直に自分の考えを伝えることを心掛けている」(森保一著「プロサッカー監督の仕事~非カリスマ型マネジメントの極意」カンゼン社)。そうした飾らないアプローチが選手の心にも響くのだろう。
特に、マネジメントを支えるベースにある人間観が、自身が言うように「性善説」である。性善説なので、叱って改めさせるのではなく、カウンセラーのように寄り添って自発的に正しいことを行うまで待つ。典型的な例は、代表の鎌田大地選手が「代表にいきたくない」と言いだした時は、ドイツにまで会いに行って話して、説得した事例だ。
簡単なことでは見切らないという懐の深さ…まさに人間力で勝負している。ワールドカップの映像で森保さんを皆が見て感じたように、人を信じ、誠実に対応…人格で勝負しているのだと言っていい。
あるJチームの関係者に聞いたのだが、代表スタッフの選抜に森保さんの凄さが垣間見られるそうだ。誠実に、しっかり、真面目にやっている人を選んでいる。人の行動の裏まで見る、人を見る目が鋭いのだ。
戦術は横内昭展さん、上野優作さんいったスキルや技術に秀でた、信頼できるコーチに任せ、決断や人間性で選手に向き合い、必要なら心理的なフォローをするというマネジメントのスタイル。
さらに、愛情を選手に示しているだけでなく、応援してくれたファンにも常に感謝の言葉を発し、誠意をもって対応する。誠実さが底流にある、人間性のマネジメントなのだ。

本質はエンゲージメント
森保さんの人間性のマネジメントは、深堀りすると「チームの愛着度を高め、貢献度を深めるエンゲージメント」に特徴があると言い換えることも出来る。エンゲージメントとは、1人ひとりのチームに対する愛着や思い入れ、組織に対して高い愛着を持っている状態を示したもの。これを作り出していくのがうまい。
そのために彼が行う具体的な行動は…
- チームを批判する、チームの輪を乱す行為は許さない
- 雰囲気を乱す・不満分子になりそうな選手はチームにいれない
- 吉田さんや川島さんなどベテラン選手と対話をして相互信頼を深める
といったことである。
こうした森保さんの考えに沿って、吉田さんは食事の時に各テーブルを回ってコミュニケーションをとるなど選手のエンゲージメントを高める行動をとっている。こうした日々の積み上げによって、ブラボーを叫ぶベテランの長友さん、それをいじる最年少の久保さんに特徴とされるような、one for all. All for one まさに信頼しあったチームのエンゲージメントが出来上がったのだ。
エンゲージメントが最低な日本の会社
さて、このエンゲージメント、日本企業ではとても低い。アメリカのギャラップ社によるとエンゲージメントの高い社員の割合は6%しかいない。アメリカの32%と比較しても、世界平均15%と比較しても低く、全139カ国の中で132位という惨状なのだ。
自分が所属する組織と自分の仕事に熱意をもって、自発的に貢献しようとする意欲がこんなにも低いことは「失われた30年」の原因の1つと言っても良いだろう。創造性を発揮し、新たな挑戦をするためには日本企業の従業員エンゲージメントを高める必要がある。
森保さんは言う、自分は「同じ目線でワンワンと吠えて『こっちに行くんだぞ』と仕向ける牧羊犬である」(前掲)と。同調性の強い日本人のエンゲージメントを高める組織にはうってつけの指導者だろう。エンゲージメントを高めるためには、個人を尊重しつつ組織の方向性を示せるリーダーが必要である。
サッカー日本代表はドイツ、スペインと言う強豪に対して、果敢に挑戦し、勝利。世界で注目を浴びた。日本企業も昭和モデルの組織をいつまでやっているのだろうか?「森保マネジメント」によるエンゲージメントのアップに日本経済の打開策を見た気がする。
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