勢力均衡論を塗り替える技術覇権競争 〜 新たなパワー理論の3つの特徴とは?
佐々木れな『国際問題:リアルとセオリーの結節点』#14- 米中の技術覇権競争時代の「勢力均衡論」は何が違うのか?
- テクノロジー時代の国家のパワーと競争を考える新理論3つの特徴
- 技術覇権競争はどこへ向かうのか?日本はどう捉えるべきか?
この連載の目的は、今世界で起きている国際問題を、国際政治学の理論やフレームワークで説明することである。理論やフレームワークは、今起きている国際問題の複雑な情報を構造化し、論理的に思考する一助となる。
第14回は、米中対立の主戦場となっている技術覇権競争について、技術に関するパワーの理論を用いて分析する。
激化するテクノロジー競争
中国とアメリカの技術覇権をめぐる競争は激化の一方だ。バイデン政権は、「自国の技術競争力」及び「アメリカおよびその同盟国の安全保障を脅かす技術を戦略的競争相手に悪用させない」ことを念頭に、先端技術を米中の地政学的競争の中心要素として位置付けている。
2022年10月には、バイデン大統領率いるアメリカ政府が先端半導体の開発・製造に関する品目の対中輸出を規制するとともに、アメリカ人が中国国内でそれらの分野で支援活動を行うことを禁止する措置を取った。さらに、バイデン政権は、自国だけではなく、同盟国・有志国にも同様の政策を取るよう強く求めており、今年1月の日米首脳会談では、バイデン大統領自ら岸田首相に対して、アメリカと同様の先端半導体の対中輸出規制を実施するよう求めたことが明らかになっている。
このような要請を受けて、先端半導体の製造装置で高いシェアを持つ日本とオランダは、1月末にアメリカとの間で、アメリカと歩調を合わせて対中輸出規制を行うことで合意した。実際の合意内容について多くの憶測が流れたが、日本政府は3月末には、正式に半導体製造装置関連の23品目を輸出管理対象に指定し、中国への輸出は輸出契約ごとの個別許可制とする外為法の省令案を発表した。つまり、技術こそが大国間競争の中心になりつつあるのだ。
従来の勢力均衡の考え方
時はさかのぼり、19世紀欧州の大国間競争においては、外交の目標は「勢力均衡」(Balance of Power)であった。勢力均衡とは、同盟(外的バランシング)や軍備拡張(内的バランシング)を利用して、潜在的な敵対国との大まかな均衡を保つことを目的している。特に欧州においては、特定の国が突出することを防ぐために勢力均衡の考え方が重視されてきた。
しかし、勢力均衡的発想が欧州を震源地とする二度の世界大戦を防げたわけではなく、それ自体が政策目的となることはほぼなくなっている。だが、勢力均衡は現在も国家や国家群の相対的な強さを比較する枠組みとして使われている。
勢力はつまるところ国家のパワーであり、国家のパワーの構成要素は、経済力、軍事力、政治的影響力から派生するものである。テクノロジーはそれ単体がパワーの構成要素というわけではないが、既存技術であれ新興技術であれ、これらの基本的な国家のパワーの要素すべてに影響を与える。
しかし、技術がどのように国家のパワーの総和に影響を与えるかは簡単に測定できるものではないため、ますます潜在的敵国との相対的な立ち位置を把握することは困難になっている。
技術覇権競争時代の新たなパワー理論
米政府で長年にわたって技術政策や輸出管理政策に関与し、現在戦略国際問題研究所(CSIS)の戦略技術プログラムのディレクターを務めるジェームズ・アンドリュー・ルイス氏は、現在の大国間競争は、従来の勢力均衡理論では説明できず、技術競争全盛期の現在の競争は全く違うフレームワークで分析するべきだと主張する。
ルイス氏によると、テクノロジー時代の国家のパワーとそれに基づく競争については、以下の3つの特徴があるという。
■
本記事は17日昼過ぎまで会員以外の方にも特別公開します。
関連記事
編集部おすすめ
ランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
- ハンストから1年、東京家裁で男性敗訴。判決は、フランスの逮捕状にも“開き直り”
- 「1ドル=129円」円安で留学に行けない!もはや“日本脱出”はムリなのか…
- 石井紘基議員暗殺事件、“愛弟子”泉房穂・明石市長「国家を挙げてのもみ消し工作だった」
- 「iPhone14」世界で2番目に安いのに…高すぎて買えない日本人が続出か…
- あの山口二郎氏も憤慨!「小西劇場」に「防衛増税」論議はどう潰されたのかをグラフ化
- 知床観光船事故で注目される「組織罰」、桂田精一社長を裁くにはこれしかない?
- 「壊滅」の大阪自民、同じローカル野党転落でも東京自民と何が違ったのか?
- 行政による動物「殺処分ゼロ」は本当か
- 「岸田トークン」が週末にバズった自民党NFT、フジテレビが報じきれなかった政策的深層
- 「刺青」議員騒動その後…自民滋賀県連も大津市議会も“不問”のまま市議選突入へ
- SAKISIRU 4月末で本サイト閉鎖。note にアーカイブ移行します
- 安芸高田市長にヤッシーが喝!田中康夫氏「やり方が下手っぴ。頭でっかちな偏差値坊や」
- ハンストから1年、東京家裁で男性敗訴。判決は、フランスの逮捕状にも“開き直り”
- ビットコインの生みの親、サトシ・ナカモトの正体がついに判明 !?
- トヨタ「エース社員」退社続出は、“改革者”の豊田社長についていけないからなのか?
- 櫻井よしこ氏あぜん、共同親権「法務省案vs民間案」自民党内バトル勃発
- 参院選半年前で市井紗耶香氏がモー辞退、八幡和郎氏「泥船から逃げ出す人多し」
- 【特報】滋賀県の市議会で自民党籍の議員「刺青」騒動、本人を直撃
- 東京23区の格差がネットで話題、1位の港区と23位の区の差は半世紀で倍に拡大
- ゴーカート死亡事故で問われる大人の責任、ネットでは主催したトヨタ系4社追及の声も
- 【ご支援のお願い】スラップ控訴に負けたくないです。助けてください
- SAKISIRU 4月末で本サイト閉鎖。note にアーカイブ移行します
- ビットコインの生みの親、サトシ・ナカモトの正体がついに判明 !?
- 【闘争宣言】SAKISIRUを提訴。Colaboとも一部重複する弁護団はコイツらだ
- 北村晴男弁護士「共同親権、裁判所が利権失うのが怖い」
- ハンストから1年、東京家裁で男性敗訴。判決は、フランスの逮捕状にも“開き直り”
- 20年前に殺害された国会議員の資料にネット注目。鳩山氏が「入手」
- 安芸高田市長にヤッシーが喝!田中康夫氏「やり方が下手っぴ。頭でっかちな偏差値坊や」
- 「共同親権」報道訴訟、SAKISIRU・西牟田氏が一審勝訴
- 櫻井よしこ氏あぜん、共同親権「法務省案vs民間案」自民党内バトル勃発
人気コメント記事ランキング
- 週間
- 月間