「歯を良くみがきましょう」はもう古い?虫歯予防のアップデート

「みがき残しゼロ」からパラダイムシフト
2021年06月18日 06:00
歯学博士/医療行政アナリスト
  • 「みがき残しゼロ」徹底的なブラッシングが虫歯予防の有効との定説に変化
  • 虫歯予防にフロスは必須ではなく、長時間みがく必要もない
  • 虫歯の原因、歯垢対策にフッ化物。それを最大限生かした歯磨き法あり

(編集部より)繊維などで歯間の汚れを取り除く「フロス」が虫歯予防に有効と言われ、愛用者も多くいます。ところが、定説にも変化があるとのこと。歯学が専門(博士)の中田智之さんの解説です。

Voyagerix/iStock

虫歯予防にフロスは必須ではなく、長時間みがく必要もない―。

歯医者がこういうと多くの方が驚かれると思います。それは大変良いことで、一つ前の時代の虫歯予防キャンペーンが成功したことを意味しています。

私自身も最初はこのような発信に対し疑問を抱きました。そこで色々調べて見た結果「みがき残しゼロ」を目指す徹底的なブラッシング指導は「中等度以上の歯周病患者」が治療のために行うのが適切。

それよりもはるかに多い「歯周病ではない」一般の方々に対しては、みがき残しゼロを目指すよりも、フッ化物の正しい使用法を教えたほうが良いというのが、世界中の保険機関の共通認識だとわかっていました。

(関連拙稿)本当に治療が必要な人は? もっと恐ろしい歯周病の事実 ― アゴラ(2020年10月21日)

フロスの効果立証されず

理由を説明しましょう。子供を除き、一度定着した歯みがき習慣の変更を求めることは極めて困難、みがき残しゼロを維持するためには生涯にわたり歯科医院で定期的再指導を受け続ける必要があります。

毎月歯科医院に通っているけど同じような注意を受ける、歯石がついてしまうなどというのは、まさにブラッシング習慣変更の難しさを示しています。これは歯肉や指先からの感覚フィードバックに個人差があり、後天的に変更するのが難しいためという説があります。

「歯を良くみがきましょう」という掛け声は歯みがき習慣の普及が十分ではなかった50年前では有効なものですが、現代においてはほとんどの方々が限りある時間と労力を割いてブラッシングしているため、伸びしろのある公衆衛生情報とは言えません

特にデンタルフロスの虫歯予防効果は疫学的に効果が立証されていません(1,2,3)

これはフロスの正しい使用法が難しく、レクチャーなしに十分なプラーク除去効果を発揮することができないためと言われています。誤った使用法を続けていると、回復不可能な歯肉の損傷を残す可能性もあり、歯科専門家の指示監督が必須です。(4)

一方「慎重に使用すれば体に悪くはない」「やって損ではない」という考え方もあるかと思います。

それも一理ですが、予防法は生涯継続してこそ意味があります。仮に1日に2回、2分間の短いブラッシングだとしても、1年間で約1日に相当する時間を我々は歯みがきに費やしています。

他者の貴重な時間を尊重する姿勢が求められる現代。効果が小さく正確な使用も継続も難しい方法を専門家が推奨するのは、余計な手間をかけさせないという配慮に欠けているのではないでしょうか。

虫歯を30%減らす歯みがき法

でもプラーク(歯垢)は虫歯の原因。完全に除去しなければフッ化物も無効では、と感じた方は勉強熱心です。しかしそれは一世代前の常識なので、今日アップデートしましょう。

フッ化物はプラークを貫通して虫歯予防効果を発揮します。

フロスを使用しなくとも歯と歯の間の虫歯を予防。(5)昼食後に歯みがきを追加するよりもフッ化物洗口を行う方が虫歯は減ることが分かっています。(6)虫歯有病率の高い低所得家庭においても有効な予防効果を発揮します。(7)

もちろん歯みがきは重要ですが、フロスを併用したみがき残しゼロという高いハードルを求めるより、フッ化物を併用することでより簡単に、より受け入れやすく、より効果的な虫歯予防を実践することができます。

それではフッ化物の予防効果を最大限発揮し、虫歯を30%減らす歯みがき法をご紹介します。

フッ化物濃度1000ppm以上の歯みがきペーストを購入します。(8) 500ppm上がるごとに6%虫歯は減少します。一方で500ppm以下では虫歯予防効果が確認されていません。(9)有効濃度以上のフッ化物が含まれる場合必ず記載があります。(10)

②もしも歯科専門家からフロスや歯間ブラシの使用を指示されている場合、先に行います。

③下表の使用量の歯みがきペーストを、歯ブラシを用いて歯列全体に塗り広げ、2分間で手早くみがき終えます。その間口腔内で高いフッ化物濃度が維持できるよう、唾液を吐き出してはいけません(5)

④フッ化物は水に流されやすく効果を失うため、長時間口腔内に残留させる工夫が必要です。歯みがき中に溜まったフッ化物を含んだ唾液で30秒間口をゆすぎ、その後洗口してはいけません。(5)

⑤歯みがき回数は朝食後と就寝前の1日2回以上(1)歯みがき後2時間は禁飲食。(5)

(5才以下では使用量を半分にした上で1000ppmを使用するほうが効果的です)

このような虫歯予防のパラダイムシフトがあったため、歯科専門家の間でも1980年頃の「みがき残しゼロ」の掛け声との整合性が取れず、一般の方々を混乱させていこともあると思います。

まずは歯科医師会など業界団体が率先し、古い考え方に忖度せず、予防法の定説に変化があったことを率直に認めたうえで、さらに踏み込んだ周知徹底が必要ではないかと感じております。

最後に、フロスを国民全員に対して使用を推奨するのは誤りではありますが、特定の条件が揃ったときには役割を持ちます。フロスの使用を検討するならまず歯科専門家にアドバイスを求め、既に使用するよう指示がある場合は独断で使用中止しないようお願いいたします。(4)

【参考リンク先】
1, Scottish Intercollegiate Guidelines Network, 2014
2, Cochrane, 2019
3, Canadian Task Force, 1995
4,European Federation of Periodontology, 2016
5, Göteborg University, 1995
6, 厚生労働省
7, Centers for Disease Control and Prevention, 2001
8, Cochrane, 2010
9, WHO, 1994
10, 日歯工第19号, 2017

歯学博士/医療行政アナリスト

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