「見込み捜査中」に過ぎないのに、木原官房副長官の妻を“殺人犯扱い”する文春砲と報道関係者は大丈夫か
報道にも問われる「権力」行使- 波紋を広げる週刊文春の木原官房副長官の妻を巡る報道
- 「反自民」論者たちの意外な冷静に共感する理由、報道への疑問
- 逮捕状もない段階で当事者の社会生活を破壊する妥当性は?
週刊文春の電子版が今月5日、木原誠二官房副長官の妻が元夫の不審死を巡り、警視庁から5年前に事情聴取を受けていたことをスクープし、波紋を広げている。政権幹部、それも岸田首相の懐刀の家族に前代未聞の疑惑とあって、今のところ他メディアは静観し、永田町関係者は固唾を呑んで見守っている。
だが、先に結論から言うと、筆者は「19日まで」の文春の一方的な報道や、文春に手放しで賛辞を送る報道関係者の反応を見ていると、危うさを感じている。日本のメディア業界は、推定無罪をはじめとする近代刑事法の原則をいかに軽視し、人権感覚が「ご都合主義」になっていると改めて失望している。

「反自民」論者たちの意外な冷静
念のためだが、岸田政権の増税路線は全く支持しないし、木原氏と面識もない。擁護する理由もないし、もし本当に殺害に関与したのであれば所定の手続きに則って対処すべきだ。それでも、こんなことを書くと、またツイッターでは「官邸から機密費をもらって書いたんだろう」といった誹謗中傷が筆者に対して飛んでくるだろうが、興味深いことに、むしろ日頃は筆者とは政治スタンスがかなり異なる人たち、「反自民」の左派と目される人たちこそ一連の報道について冷静に問題点を指摘している。
たとえば先日も動画で紹介したが、Colabo弁護団の1人として知られる弁護士の堀新氏。文春の記事では、再捜査の動きが鈍くなったことについて、捜査幹部が「旦那が国会議員じゃなかったら、絶対逮捕くらいできるよな」などと述べていることに対し、堀氏は「警察の方が『一般人なら気軽に逮捕して良いが、政治家家族の逮捕は誤りだったらまずいので慎重に』みたいな勘違いした発想をしているだけのように見える」と喝破している(6日付)。
筆者はColabo弁護団の別の弁護士たちと共同親権の報道で係争中の身ではあり、本来であれば堀氏に対しても 「仇敵の味方」に当たる存在で憎らしいはずだが、この指摘についてはいまの段階では同感だ。
情報戦?捜査員の談話に疑問
政治絡みで事件化を取りやめたケースといえば、近年では伊藤詩織氏と山口敬之氏の係争がある。警視庁が性被害を訴える伊藤氏の被害届に基づいて捜査し、山口氏の逮捕状を取得するも、刑事部長(当時)の中村格氏(のちの警察庁長官)が逮捕を取りやめにしたことを週刊新潮の取材に認めている(なお念のためだが、山口氏は刑事事件の方は不起訴処分になっている)。
これに対し、木原氏の妻の再捜査については逮捕状を取得するほど容疑を固めていたわけではない。担当の女性刑事が異動になり、捜査体制が縮小されたのは事実だが、「伊藤vs山口」事案の中村氏に相当するような上層部からの明確な命令のファクトは立証されてもいない。
文春の記事には「話が大きすぎる。自民党を敵に回すよ。最終的には東京地検の意見を受けて、警察庁が『やめろ』という話。GOを出すときは当然警視総監の許可もいる」という捜査員のコメントが載っているが、読む限りでは“現場の私見”にしか見えず、警察庁、警視総監に許可を取りに動いたのかかなり疑問が残る。

また、捜査員が元夫の父親に「人数は減りますが、捜査は続けます」とも述べており、捜査が(実態は棚上げでも形式的には)打ち切りになったわけではなさそうだ。
文春の取材には30人を超える捜査員が応じたといい、もはや幹部以下が黙認して組織ぐるみで文春にリークしているようにも見える。そこまで大掛かりの「情報戦」を仕掛けるくらいなら、捜査を粛々と進めるべきで、警察を冷ややかに見ている前出の堀氏が文春に載った捜査員たちの不満や本音について
「有力政治家の妻だから圧力により手出し不可能で、当然に逮捕できない」という意味ではなく、「有力政治家の妻だから、仮に逮捕したとした場合でも、結果的に証拠や自白がなくて起訴できなかった時には警察の責任問題になるから、軽々しく逮捕はできない」という意味である。
と核心をついたように、結局は警察側の対応が一義的に問われているのではないのか。
安倍元首相の暗殺事件後、奈良県警のリークで報道の焦点が警備の問題より旧統一教会にあっという間に変わってしまったことを見ても、警察の世論戦は実に巧みだ。そのことはベテランの事件記者ならよくわかっているはずだ。
社会生活を破壊する理由は?
だからこそ、文春や文春を手放しで誉めている報道関係者にも筆者は違和感を禁じ得ない。
「過去の報道被害に学ぶなら、公人である木原誠二の政治家の倫理道徳、資質を問うにしても、殺人は死刑もある重罪であれば、報道にはいっそうの慎重さが求められよう。いわんや、木原夫人を殺人の被疑者扱いし、木原本人が事件も揉み消したとする主張を立証するには民事で言うところの公益性や真実性の有無だけでは事足りない」。
こうツイートしたのは政治ジャーナリストの藤本順一氏だ(投稿は11日)。こちらも筆者とは政治思想が異なる人物、しかも筆者とは数年前にツイッターでひと悶着があり、ブロックしている。それでも報道に「いっそうの慎重さ」を求める点では全く共感する。

警察が逮捕状を取るのを待ってから報道する「記者クラブ的」な対応を全肯定するわけではないが(その証拠に本サイトも広島の詐欺疑惑は特報している)、逮捕状取得が、容疑がそれなりに固まっている「基準」だとすると、そこに至る前の段階で報道することは当事者(この場合は木原夫婦と家族)の社会生活を決定的に破壊するタイミングを前倒しすることになる。
日本の事件報道は公益性・公共性のもとに被害者と逮捕された成人の被疑者は実名だ。ただし今回のように木原氏の妻を匿名にしたところで同定可能性はあるので、この「時点」で木原氏の妻に社会的制裁を加える大義は何をもって担保しているのか。政府高官である木原氏本人の話ならまだしも、その配偶者は民間人だ。
もちろん、不審死した元夫の痛ましい最期や遺族の悲痛な叫びは当然最大限に尊重し、真相を究明することは当然だ。だが被害者の人権と“被疑者”の人権を感情的にごった煮に論じることは近代法治国家のあり方として相応しくはあるまい。しかも今回のケースは木原夫婦の間には幼い子どもたちがおり、巻き込まれる彼らの家庭生活・社会生活への甚大な影響をいつの時点で与えるのが妥当なのか、ギリギリまで考え尽くしたのだろうか。
日頃は「人権」を声高に叫ぶ朝日新聞など左派大手メディアがセンシティブな事案とはいえ、本件でダンマリなのはある意味、ジャニーズ問題の放置と根底で通じる構造的な本質があるような気がしてならない。
メディアも「権力」のはずだが…
ただでさえ、日本の報道機関は伝統的に「推定無罪」など刑事法制の原則を軽んじる傾向が強い。昭和の終わりまで逮捕者は敬称をなく呼び捨てで報道。手錠をはめられ連行された時点で“有罪”が確定したように読者・視聴者には印象付けられた。
70年代、日弁連が「無罪の推定を受けているはずの被疑者・被告人に対しては、原則として、氏名を公表することなく報道すべきである」と主張したことはあったが(『人権と報道』)、マスコミにはほとんど相手にされず、平成元年(1989年)になって逮捕者の名前に「容疑者」という留保をつけて報じるようになったくらいだ。

この間、報道機関に事件報道の見直しを迫る事案として、80年代に「ロス疑惑」が勃発。1994年にはオウム真理教による「松本サリン事件」で、被害者の地元住民、河野義行さんに対するえん罪報道問題が起きた。特に後者は県警の見込み違いの捜査情報に乗っかった記者クラブメディアによる一方的な犯人扱いの報道が極めて惨めな結果を残した。30年近くも経つと、その反省も薄らいできたようだ。
スウェーデンでは裁判で有罪が確定するまで被疑者も匿名扱いが原則だ。さすがに人権意識の高い欧米諸国でもそこまで厳格なのは珍しく、日本でいきなりそこに移行するのは非現実的だが、文春やそのOB、あるいは文春を全面的に肯定する報道関係者を見ていて思うのは、自分たちも「権力」を持っている自覚が乏しいことだ。
いまやメディア界で「一強」となった週刊文春。局面によっては時の総理をも上回る社会的影響力を誇る。だが政治家は市民や報道機関に監視されるが、メディアの権力行使に対する社会のチェック機能は脆弱だし、ツイッターのコミュニティノートもまだ黎明期だ。
だが文春などのメディアの“暴走”を放置すると、2000年代以後、小泉政権や民主党政権で持ち上がっては廃案になった人権擁護法案のような公権力の介入の恐れがまた出てくるのではないか。そのような事態を招かないためには、メディア側が権力を自覚し、それを断行する際の説明責任がある。現代の民主主義社会で切り捨て御免は許されない。
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