自衛隊「最高指揮官」岸田文雄さんの不人気はメガネのせいだけではない

慰霊式の演説で見えたこと
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役
  • 岸田首相が支持率低迷は「増税メガネ」以外にも原因?
  • ここにきてネットでは岸田擁護論浮上も根本的な問題は…
  • 胸打たない演説。自衛隊慰霊式のニュースで気づいた欠陥

SNS「X」で筆者をフォローしている人はご存知と思うが、ここ2日間、「増税メガネ」を巡って貰い事故のように論争に巻き込まれた。「増税メガネ」の話なのに岸田さんが原因ではなく、なぜか火元は維新だった。

upapa /イラストAC

「増税メガネ」炎上騒動

前置きが少し長くなるが、顛末はこうだ。東京から衆院選に出馬予定の新人が地元で「増税メガネ」を解説する趣旨のチラシを配ったところ、他党の支持者とおぼしき地元民がXに批判的な投稿をして一気に燃え広がった。

品がない」「メガネ使用者に対するいじめ」などなど非難轟々になったが、興味深いことにその中には大阪の熱狂的な維新支持者たちもスクラムに入って東京維新の幹部らを袋だたきにし始めた。彼らの反応に違和感を表明した筆者も“襲撃”された。

維新支持者なのにキレた理由は、かつて大阪都構想で敵対勢力に事実無根、あるいは捻じ曲げたネガティブキャンペーンをされて、それで負けてしまったことが背景にあるとの指摘がある。確かに住民投票に2度負けて橋下徹氏、松井一郎氏という創業者2人を失った「トラウマ」が大きい。

日本維新の会YouTube

しかし筆者から見れば左派政党などのアジビラに比べると、今回のチラシは昨今ネットばかりか大手新聞まで言及し始めた「増税メガネ」というトレンドワードの解説という形式を取ったに過ぎない。

それでも大阪維新の支持者からすると、「邪道」に見え、大阪維新の「流儀」から外すのは許せないようだが、維新支持者たちからの罵詈雑言が終わったと思いきや、今度は「本隊」が出現。岸田首相が「増税メガネ」と揶揄されることに憤慨する自民支持者たちが筆者に突っ掛かり、ブロック作業に追われた。

岸田擁護論浮上も根本問題は…

それにしてもここにきて「増税メガネ」へのカウンター勢力のプレゼンスが急激に上がっている。安倍政権の時代は「親衛隊」とも言える右派のネット民が活躍して、安倍政権に批判的なメディアにカウンター情報を繰り出すなどしていたが、岸田政権になってからかつての安倍支持者がアンチに回り始め、当初は政権擁護のネット民が多くなかった印象だ。ところがここにきて急速に力を持ち始めている。

今月16日にはスーパー視察で物価高対策を必死にアピールするが…(官邸サイト)

筆者が複数の消息筋から得た情報だと、政府与党内で安倍政権時代ほどではないものの、年内の衆院解散を見越してネット世論対策に本腰を入れ始めた模様だ。だからといって即効果が出たのかは不明だし、詳細を書くと情報源がわかるのでこの程度にしておくが、消息筋の1人は「増税メガネ」の流行語大賞入りを本気で恐れ始めている節がある。

その意味では今回の維新のチラシ騒動では、「増税メガネ」に対するカウンター世論ができた上に維新内部の不協和音が表面化して消息筋はほくそ笑んでいた。しかし根本的な彼らの悩みは変わっていない。政権支持率が主要メディアの世論調査の多くで「過去最低」を更新し続ける「不人気」は続いているからだ。

岸田首相はもちろん自民党内も焦って「減税」を打ち出そうと演出に躍起になっているが、首相のここまでの不人気ぶりは増税イメージが固定化してしまっているだけではないのではないか。実は昨日(10/21)あるニュースを見ていてそう気付かされる出来事があった。

なぜか胸打たない演説

日本国の首相は自衛隊法7条により、「自衛隊の最高の指揮監督権を有する」と規定されている。“全軍”の最高司令官である岸田首相はこの日、東京・市ヶ谷の防衛省で令和5年度自衛隊殉職隊員追悼式に参列した。

慰霊式で挨拶する岸田首相(21日、官邸サイト)

今年は、殉職した26人の隊員を慰霊し、式には遺族ら300人が参列した。亡くなった方々の中には4月に沖縄・宮古島で旋回中に墜落した陸自ヘリに搭乗していた、第8師団長(当時)の坂本雄一陸将ら10人の隊員も含まれる。

岸田首相は挨拶の中で「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に対峙していく中で、我が国の領土、領海、領空を断固として守り抜く。その強い覚悟をもって、職務の遂行に全身全霊を捧げた殉職隊員は、我が国の誇りです」と述べた上で、

そのような隊員を失ったことは、自衛隊のみならず、我が国にとって、正に痛恨の極みです。同時に、御遺族の皆様の深い悲しみと追慕の念に思いをいたすとき、悲痛の念に堪えません。私どもは、このような不幸なことが、再び起こることのないよう、最善の努力を尽くしてまいります」と誓った。

全文はこちらのリンク先にあるが、もちろん首相なりに遺族への配慮も含めた文面になっている。ただ何か事務方が用意した文面を読み上げただけだからなのか、今ひとつ胸を打ってこないのだ。

筆者が泣いた投稿との違い

中曽根氏(自民サイト)

一方、この日参列した前防衛政務官の中曽根康隆衆院議員は自身の公式Facebookでまさに自分の言葉で投稿していた。

中曽根氏は、遺族を代表して挨拶した坂本陸将の妻が、夫から生前に「自衛官の家族としての覚悟をしてください」と言われたとのエピソードを引き合いに「我が国の平和は自衛官及びそのご家族の尽力で維持されている、という事を改めて痛感しました」と投稿。さらに

参列されたご遺族の中には小さいお子さんも多数いらっしゃいました。その光景を目の前に、突然大好きなお父さんがいなくなってしまった状況や、残されたご家族のお気持ちを考えると、胸が締め付けられ言葉では表せない感情が込み上げて来ました。

と思いを綴った上で「この投稿が少しでも皆さんにとって、平和とは何か、国を守るとはどういう事か、考えるきっかけになれば幸いです」と締めくくっている。筆者は政治家のSNS投稿であまり感情を揺さぶられることはないが、珍しく涙が止まらなくなってしまった。

もちろん一国の首相と一議員の立場は異なる。首相が逆にあまり感傷的な文章を読み上げると別の批判が上がるかもしれない。しかし、首相は行政府の長であると同時に民意で政権を付託された与党の“最高司令官”でもある。ご遺族、隊員たちへの目配せをもっとして、自分の目で見、感じた思いを自分の言葉で綴る、あるいは語ってもいいのではないか。

しかし実際の岸田首相はどこか「人間味」を感じないから共感しづらい。しかもそれでいて場当たり的に「減税」に言及するから、むしろ不信感を増幅させている。

国民を感動させた歴代宰相

当時のスポーツ報知

かつて小泉元首相は大相撲の表彰式で、負傷を乗り越え優勝した横綱貴乃花に対し、用意された賞状を読みあげて終わらず、「痛みに耐えてよく頑張った。感動した!」と絶叫。翌日のスポーツ紙は平成の大横綱から半ば主役を奪うほどの話題となった。

ちなみに財政規律を重んじた小泉氏は、首相在任中こそ消費税は上げなかったものの、どちらかといえば財務省に近く“増税派”寄りだ。そんなことを意識させない人気があったのは良くも悪くも人間味を感じさせたからではないのか。

記憶に新しい例で言えば安倍元首相の国葬でも岸田首相のスピーチは生前の業績などを無難にまとめていたが、世の大半は菅前首相の演説のほうに心を奪われた。

現職と元職では自由度が違うし、国葬を主宰する政府の最高責任者でもある岸田氏には形式的にならざるを得ない“不運”もあるが、誰も知らない安倍氏とのマンツーマンエピソードを一部織り交ぜるなど、自分の言葉で語る余地はもう少しあったはずだ。

安倍氏国葬で弔辞を読み上げる岸田首相(昨年9月、官邸サイト)

小泉純一郎、安倍晋三、菅義偉、麻生太郎…歴戦の自民党首相は自分の言葉で国民に語りかけ、人間味を感じさせた。みなそれぞれのスタイルがある。筆者は反対だが、増税するならするでいっそのこと国民に対し正々堂々説明して論戦に挑む方がいいのではないか。岸田文雄ならではの「真心」をもっとお見せすることをお勧めします。

 
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

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